フィナ 死す
「フィナが……終わるってどういうことなの?」
「大きな病院での手術は成功。けどね……もう、長くは生きられないんだよ。あたしは」
「フィナが生きられないって……。難病か何かあったのですか!」
「さしずめ、そんなところかな」
「フィナ……」
私は、フィナにかけたい言葉が思いつかなかった。
まだ三カ国ダンジョンマスター交友会の一日目だし、イベントをこれからより楽しんでもらいたいと思っていたから……。
それだけじゃない。
フィナとの記憶を思い出すと、どことなく憎悪の気持ちがにじみ出てきた。
これは、フィナの嘘に対してだ。
フィナの嘘が、私の心を無意識に黒く染めていく。
「アクエリアのギルドでは、また一緒に冒険しようって約束したのに!」
「できないものは無理なんだ。余命が残り少ないから、いつまでシクスオ遊べるかなんて見えていて」
「フィナ、ごめんなさい……」
「パルトラが謝る必要はないよ。噓をついて誤魔化していたのはあたしのほうだ」
フィナは堂々と胸を張る。
ただ、多少のふらつきがあったので、やはり限界が近いのかな。
「でもね、そんなあたしでも一つの希望を提示してくれたんだ。そうでしょ、ニケ様」
フィナが顔を合わせていたのは、お面をつけた少女である。
えっ、この方がニケ様……?
お面以外の姿は以前セレネから聞いたものとはそっくりだけど、まさか私の瞳に映り込むとは思いもしなかった。
「ふむ。水を差すようで悪いのだが、希望とはちょっと違うぞ。妙案なのはたしかなのだが」
妙案……?
どんな内容かはよく分からない。
ただ、フィナはそれを受け入れようとしていた。
「ニケさん、フィナに提示した妙案って何でしょうか……?」
「別にすぐ言っても良いのだがな。その前に確認なんだけど、シクスオを監視する四天王についてはご周知かい」
「それは知っています。アプフェルハートさん以外は知りませんけど」
「四天王の顔をひとりでも知っていたら問題ないだろう」
「なにかあるのですか」
「とりあえず、話すぞ。シクスオを監視する四天王だが、いま現在一名分の席が空いているのさ」
「四天王の席が空いている?」
「そうだ。フィナにはその席を与える代わりにやってもらうことがある」
「取引みたいな感じ……」
「そう思っても大丈夫だよ。形だけはな」
ニケは白銀のショベルを取り出すと、すぐにフィナの身体に突き付けた。
「発動、化身分解。お前はこれから生まれ変わるんだ」
「あたしが、生まれ変わる……!?」
フィナの全身が白く光り始める。
それは蛍のように、ちょっと弱々しくて。
まるで命の輝きのようだった。
「フィナっ!」
私は、ニケの行動を止めようとエグゼクトロットを手元に取り出した。
けど……どうしたら。
この場で助けたら、その時はフィナがどうなる?
そんな思考が横切り、足がすくんで動けなかった。
「パルトラ、あたしはこれで構わないのだ。そもそも、あたしの難病のことを知っていたのはごくわずかだし、あたしは幸せだったよ」
「でも……。フィナは私にとって、シクスオでの初めてのフレンドであって……!」
「パルトラ、心配はいらないよ。あたしはシクスオの中で生き続けるのから」
「シクスオの中で……生き続ける……?」
私はふと、黒いマントの裏側に目を向けた。
そこにはメリーロードが、無言で現状を見守っていた。
「こっちに聞いても、何にもわからないぞ?」
「で、でも……」
「まぁ、彼女のステータスを見ての憶測だが。ニケは彼女のアバターを媒体にするつもりなんだろう」
「ステータス……フィナのですか……」
「多少なりとも、シクスオで鍛え上げたのだろう。ニケが望んでいる最適な媒体になる為に」
メリーロードが顔を外に出したので、私もフィナのいる方向に振り向いた。
フィナの顔はすっかりと真っ白になって、よく分からない状態になっていた。
そして。
光が収まってくると、フィナの体は倒れそうになっていた。
「上手くいった。これで難病から自由の身だ、フィースペードよ」
ニケが彼女の体を慌てて支えにいった。
倒れないように。
「フィナは……無事なのかな……」
再構築されたであろうフィナの顔は、以前のものとは雰囲気がすっかりと変わってしまっていた。
あと、支えられている体がぜんぜん喋ってくれなさそうなので、フィナかどうかの判断ができないでいる。
それはそうと。
白くて小さな白い水晶が、プカプカと宙に浮いていた。
「ニケさん、これはなんですか?」
「それにはフィナが持っていたスキルが詰まっている。そうだな、お前が持っておけ」
ニケが指先を動かすと、白い水晶が私のほうに向かって飛んできた。
「フィナが持っていたスキルって……」
「月光の処刑人だな。聖剣ティルザードと、白き処刑人の衣装も一緒にくっついてるっぽいな」
「フィナの使っていたスキルと、武器と、衣装ですか……」
ひとまず受け取った私は、虚無感を抱いた。
「それを私に渡して、どうしろというのですか!」
「後継人でも探したら良いと思うのだけど。それを飲み込めば、フィナが持っていたスキルを獲得できる」
「フィナのスキルなんて、私にはいらない」
「こちとらダンジョンマスターに飲んでほしいとは一ミリも思ってないんだよ。ただ、今からお前が一番信頼できる者に飲ませれば、今後問題なくダンジョン製作も出来るだろうに」
ニケは前向きに考えていた。
フィナのことも、これからの私のことも。
けど、こんな状況は飲み込めない。
私は歯を噛みしめていた。
この気持ちは、誰もに理解できない。
そう思ってしまったのだが……。
ヤジョウも、似た気持ちを抱いていた。
「受けよ、未慈悲なる宝石の感性を。アブソリュート・ジュエリー!」
ヤジョウが詠唱すると、七色に煌めく宝石がニケの立っている地面から突き出してきた。
「ここまで無言だったが……貴様は何のつもりだ、アルカナダイヤ!」
「七番さまのせいで、シクスオの平穏は乱れた」
「ふむ。スペードの席を埋めれば、より一層シクスオの平穏を保てるようになるだろう」
「七番さまがやったことは、シクスオを監視する四天王の現職が許すとでも思っているのでしょうか」
ヤジョウはニケのことを煽りだした。
なんだか、ヤジョウの様子がおかしくなってしまった。
というか……アルカナダイヤって何だろう。ヤジョウの本当の名前なのかな?
ヤジョウが身に着けている服装のデザインも、いつの間にか少し変化している。
下三割くらいが途切れている黄色いダイヤ模様が、白いドレスに均等感覚で入っているものになっていた。
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