デーモンウルフを倒しに行きます
「……深く考えすぎかもしれないっ!」
私は首を横に何度も振ってから、我に返る。
「モンスターをいっぱい倒していきます……! うん?」
私はエグゼクトロットを構えた途端、フィナからパーティにお誘いされていますとアナウンスが来た。
「パルトラ、その前にあたしとパーティを組んでおきましょう」
「はい。よろしくお願いしますね」
私は迷わず承認してから、詠唱をはじめた。
「恐怖と暴食の彗星よ、常闇の磁場となり無に帰れ」
上空に黒い雲が発生すると、地上にいたデーモンウルフを吸い込み始めた。まさしく、ブラックホールそのものだった。
足を浮かせ、その黒い雲へと吸い込まれていったデーモンウルフは、お肉を落として消失していった。
ごくたまにお肉が上質のお肉になるが、上質になったところで素材アイテムとして使われるのであまり気にしなかった。
「もしかしたら、あたしの出番はないのかも……」
「そんなことありません。この魔法はかなり強力ですけど、これを解き放った後に沸いてきたモンスターには効かないみたいですので」
私たちの近くに、デーモンウルフが一匹沸いてきた。
『おい、喰ってよいか――?』
デーモンウルフが尋ねながら、私に対して襲いかかってくる。恐らくこのモンスターは、プレイヤーを食べて強くなりたいと思っているのだろう。
でも、フィナがそれを許さない。
「解き放て――」
魔法の弾を用いて、遠くから魔法の銃で援護を行う。
打ち抜かれたデーモンウルフはその場で倒れて、塵となり消えていく。
その後、レアドロップしたという通知が、私とフィナに入る。
「デーモンウルフのコアが落ちたということは……」
「パルトラのダンジョンに、新たなモンスターを呼び出せるということですか?」
「どうでしょうか。スライムコアの時は三つ必要でしたので、数を集めないとデーモンウルフは呼べないのだと思います」
「そっか。ならば、必要分揃うまで戦うのみ」
アイテム集めが一筋縄ではいかないことを知ったフィナは、先陣を切ってデーモンウルフを倒していく。
鋭い剣先は優雅に舞い上がり、襲い掛かろうとするデーモンウルフを容赦なく切っていく。
「フィナ、やりますね。私も負けてられませんよ?」
エグゼクトロットを取り出した私は、近くに沸いてきたデーモンウルフの群れに注目する。
「いでよ、光の雷鳴。無数の流星となりて、降り注ぐ――」
光の流星群が、デーモンウルフの群れを中心に降っていく。
まさに一網打尽といったところだろう。フィナは、たまたま流星群が落ちなかったところにいるモンスターを、確実に一匹ずつ仕留めていた。
パーティを組むと味方の攻撃判定がなくなる仕様なだけあって、冷や汗をかきながらもフィナはちゃんと動けているようにも思えた。
「あっ、デーモンウルフのコアです」
「これでふたつ」
「いや、通知が来たから全部で三つだな。パルトラ、そろそろひと休みする?」
「そうですね。休憩しましょう」
私は、その場で三角座りする。
フィナは、手を振りながら私の元に近づいていた。
ドロップしたアイテムはログに流れてくる。肉と上質なお肉も数が揃ったので、すぐにダンジョンへと戻っても問題ないといえる。
けれども、そよ風が吹いて気持ちが良い。
すぐにダンジョンへ戻るのが、とても勿体ないように思えてきた。
レアモンスターにまだ遭遇出来ていないことだけ心残りだが、切り上げてもよさそうであった。
「ところで、貴方はどちら様でしょうか?」
微々たる気配を察していた私は、頭を上げて懸命に背後を見ようとする。
「あら、気づいていたのね」
私の傍に影が忍び寄る。
白くて大きな獣の顔が堂々とあって、女の子のシルエットが見えていた。
「とにかく、降りてきてください」
「わかりました。よっこいしょ――」
ふわり、ふわりと。
空からピンク髪の美少女が降ってきた。
美しい長い髪に、全身が黄色いドレス。大きい胴体の白いウルフを従えている辺り、彼女はモンスターのことについて詳しいことを知っていそうだった。
「ボクはアレイやね、よろしくなー。こっちは相棒のソルシェイド」
『吾輩のことも、よろしく頼む』
ピンク髪の美少女が自己紹介した直後、白いウルフが喋った。このもふもふしたくなりそうな白いウルフは、彼女が使役しているのかな?
「私はパルトラで、向こうにいるのがフィナです。今は二人パーティを組んでいる状況でして」
ひとまず敵対しないことをアピールしておきたかった。それが通じたのか、ピンク髪の美少女は突然、高笑いしはじめた。
ザクザク、ザクザクと。ピンク髪の美少女の笑い声に紛れて、足音が大きくなってくる。
「……ただいま戻しました。パルトラ? そちらの方はひょっとして」
戻ってきたフィナは、ピンク髪の美少女をじまじま見つめていた。
「フィナ、この方たちのことを知っているのですか?」
「うん……。伝説の鍛冶職人アレイさん、いつからここに居たのですか?」
「モンスターを上空へと吸い込む魔法が出てきた辺りやね、全部観戦していたやね」
「あれ、わりと早いタイミングで」
私自身も、ピンク髪の美少女が姿を見せるまで、存在を認知出来なかった。フィナが言ってた通り、この方は伝説と呼ばれるだけの理由があるのだろう。
それ以上に、対話しているフィナの冷や汗が凄いように思えるけど。
「アレイさんが外に出てきた理由ってなんです?」
「宝箱がなくて強いダークスライムがわんさか出てくる面白いダンジョンが現れたと聞きつけたものでね、いったんどんなものかなと思ったやね」
「あたしの攻撃の大半を防ぐくらいには硬いですね。的確に弱点を突いて五分といったところですよ」
「なるほど……苦戦を強いられてるのやね」
「アレイさんは情報収集を?」
「今日はそんなところやね。あとはついでにダンジョンのボスが、どれくらいの強さを持っているのかとか」
「あっ、それ私です」
ダンジョンのボスという単語を耳にした条件反射で、思わす挙手してしまった。
すると、二人と一匹の視線が一斉にこちらへ向いてきた。
「じー」
「うむー?」
『この小娘の実力、吾輩より格上なのか……?』
「そんな急に見つめられても、言葉選びに困りますっ!」
恥ずかしがる私は、その場でくるっと半回転して皆の顔を見ないようにした。
「ふぅ……。フィナ、そろそろダンジョンに戻りますよ。アレイさんも私のダンジョンに来たいと申すのなら、一緒にお連れしますけど」
「なるほどやね。ダンジョンのボスを名乗っただけのことはあるやね」
「果たしてそれは、私を褒めているのか」
「気にせんでええんやね。それにしてもあれや、何かのご縁やから、もしドロップするアイテムのカテゴリーとか決まっていないなら、ボクが手伝ってもええんやで」
「実のところ、宝箱は私とフィナだけではどうにもならないことでして……。宝箱の生成ができると、ダンジョンの魅力があがることなので非常に助かります」
「ちょっとアレイさん、太っ腹すぎません?」
「フィナ殿は反対なんかね?」
「いえ。そういう意味では……」
「何も心配いらんで。ボクが運営殿と取引しながらSSR装備品の開発も面白いけど、大抵のSSR装備は低確率のランダム排出でね。ボクのスキルが持ち腐れになりやすい現状を打破出来るならそれで正解やね。実際問題、ダンジョンから入手出来るようにしても良さそうという案は、運営殿の口から何度も耳にしているんで」
「そういう事情があったのですか。それなら、あたしも助かるかも」
フィナは納得した。――したのだけど、シクスオに存在するSSR装備品の大半が、アレイの手から作成されているとなると……。
これは闇の情報である。ただの気のせいにしておこう。
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