召喚クリエイティブ
「ノアちゃん、次はどんな感情エネルギーを集めますか?」
「現実はすっかり夜になってしまいましたか、明るいエネルギーにしたいところです」
「明るいといえば、笑いエネルギーだね。たしかわたくしの資料に……」
セレネが設定集を取り出すと、私たちに公開してきた。
「笑い、ですか」
「そうですね。笑いですよ」
一見簡単そうに見えて、シクスオの世界だとなかなかハードルが高いかもしれない。
いや、コミュ力があるならそうでもないのかも?
セレネもノアちゃんも、会話しているときはいつも笑っているし。
「笑いといえば、あのモンスターがいますね」
ノアはまた何か悪巧みをしはじめていた。
冒険者はトルマリナブロッサムの討伐で疲弊しているので、もうちょっと強さを抑えたモンスターを設置したい。
コアを使ってモンスターを作成した場合、調整がうまく行かない可能性が高いので、媒体を使用して直接呼び出したい。
そのためのサモンコール。
モンスターを召喚する力は、私も所持している。
「私が、モンスターを呼んでも良いですか?」
「それは構いませんよ。必要な媒体があれば、ノアがすぐにご用意いたしますよ」
あっさりと許可が下りたので、さっそくモンスターの召喚に取りかかるつもりでいた。
「ヤジョウちゃん、こっちに来てくれる?」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「ヤジョウちゃんにも手伝ってほしくて」
本当の狙いは、ヤジョウの力をより詳しく調べるための実験だ。
モンスターを召喚するついでに、試しておきたいことがある。
私はマウバットの羽をひとつ、手元に用意した。
「ヤジョウちゃん、いまからモンスターの召喚をするのだけど、手伝ってくれますか?」
「ヤジョウができることかな?」
ヤジョウは積極的にサポートしてくれそうだ。
思いつきの手段でヤジョウの力を使うこと自体、上手くいく自信はないのだけど。
「私がサモンコールを使ったら、マウバットの羽に干渉って出来ますか?」
「うーん、素材アイテムに干渉……試してみないとヤジョウは分からない」
自信なさげにも聴こえたので、少し考えてみる。
ヤジョウは宝石を魔法分解したもの『スポット』の時を進めることが出来た。
スポットには再生能力が備わっている。
スポットからは、宝石の他に素材アイテムが手に入る。その中には、モンスターからドロップするものも含まれる。
スポットからのアイテムの獲得は、あくまでもランダム。宝石の種類によって入手出来るアイテムに偏りが存在するかもしれない。
ところで、スポットの地面はどうなっている?
地面の色合いが違うとか、あったら……。
見てみないといけないか。
無言で歩き始めた私は、一番近くのトパーズスポットの周囲をくまなく調べるつもりでいた。
「お姉ちゃん、どうしたのかな」
ヤジョウは不思議がりながら、素直に私のあとに付いてくる。
あっ、やっぱり……。
足を止めた私は、トパーズスポットをみて確信した。
天界クラムベルンのクラフトルームの地面は白。
一方、トパーズスポットの周囲は黄色になっている。
そして、私は覚えている。
魔法分解をしてスポットを作成した直後の地面の色は白である。
つまり、ヤジョウの力が働いたスポットは変色するということだ。
時を進める力が地面にも影響しているということは、このスポットの近くにモンスターの素材アイテムを置いて、サモンコールを使用。召喚中にヤジョウの力を使うことで、新たな反応がみられるということになる。
これなら、成功できるはず。
お試しではマウバットの羽を使用してみるが、何が召喚されるのか、とても楽しみである。
「ヤジョウちゃん、私がいまからサモンコールするので、それに合わせて時を進めてください」
マウバットの羽を左手に持っていた私は、手先の部分をスポットの位置に触れるようにポジションを決めた。
「ヤジョウ、わかった。武器を出すわね!」
時計盤の付いたチャクラムを両手で握りしめるヤジョウは、少しばかり不安があったのか表情がやや暗いように思えた。
召喚されるのは、どんなモンスターなのか。
そもそも上手くいくかも不明である。
「パルトラちゃんは何をしようとしているの?」
「パルトラ様はこれからモンスターの召喚をしようとしています。それはそうと、ノアはいま気づいたのですが、素材アイテムの回収場所がいつの間に出来たのですか?」
「わたくしは何も知りません。パルトラちゃんが作ったのかな……」
「もしそうなら、かなり高度なクリエイティブなことをされていると思います」
ノアとセレネが会話を交えているけど、私は目の前のことに集中する。
「ヤジョウちゃん……行きます。発動、サモンコール!」
「――時を進みたまえ」
私がサモンコールの発動した瞬間。
ヤジョウがいる場所から、時計の針が高速で回転していく音が聞こえてきた。
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