採取と制約
「ルビーがひとつ、マウバットの羽がみっつ……」
どんなスポットからどのようなアイテムが回収できるのか、私自身はまだ把握できていない。
調査する必要がありそうだ。
それはそうと、手元の宝石が採取によって増えてしまった。
この宝石を使って採取場所の作成は、出来るのかな?
少し位置をずらして試すしかない。
左へ十歩くらい移動して、トパーズを地面に置いた。
発動、魔法分解――。
また新たに、トパーズスポットが作成された。
けど、最初に作成したものとは少しばかり違いがあった。いま作成したトパーズスポットは、最初に作成したものと比べてふた回り円形が小さいのである。
これはもしかしたら、宝石の名前をもつアイテムにランク付けされていて、宝石アクセサリーはより上位に値するということなのかもしれない。
採取場所を増やせば、宝石そのものは増産出来るが質は落ちてしまう。
なので、適度に作成するのがベストなのだろうか。
分からないことは、尋ねた方が回答を得やすそう。
「ヤジョウちゃん、ちょっと聞きたいことがあるのだけど」
休憩中のヤジョウに近寄った私は、正座をして寄り添おうとする。
「お姉ちゃん、何かな?」
「採取場所についてだけど、一度作成した採取場所って消えたりするのかなって」
「うーんとね、一カ所につき二百五十六回採取すると消える。若しくは、ダンジョンマスター様の権限で、直接消し去ることも可能なのです!」
「やっぱり回数制限があったのね……」
「わたしの力がないと、なかなか採取回収は増えないけどね!」
無邪気さが顔に出ているヤジョウは、自身が持つ武器を見せつけて自慢したがっていた。
羅針盤が付いているチャクラム。
時間操作できるのが、採取場所限定なのかとか、気になってしまう。
そもそもヤジョウの姿が、モンスターに認知出来ていないのが不思議なんだけど。
これといったスキルもなさそうだし。
シクスオのウワサだっけ?
ちょっぴり不思議な位置づけなのかもしれない。
「私もちょっと疲れてきたから、お喋りしましょうか」
「お喋りね……。いろいろできそうかな?」
三角座りに姿勢を変えると、ヤジョウと視線がばっちり合った。
シクスオのウワサのことが不透明なので、まだゲームマスターの話題は避けておこう。
個人的に話題にしやすいことは、三カ国ダンジョンマスター交友会についてになる。
「ヤジョウちゃん、いま私たちは四つのエネルギーを集めていまして。お二人は席を外しているんだけど」
「このダンジョンで四つのエネルギー? 面白そうだね。目的はなーに?」
「三カ国ダンジョンマスター交友会、というものを現在開催しておりますね」
「お姉ちゃんたちのお祭りみたいなものかな?」
「そんな感じですね。まだ始まったばかりですけど、一応ストーリーを用意していますので」
「へぇー。お姉ちゃんはどんな役かな?」
「えっと……魔王の器と、女神の役を任されてまして」
「魔王は格好良いよね!」
「ヤジョウちゃん……そ、そうかな……」
「そうだよね!」
目をキラキラと輝かせるヤジョウは、妄想でも膨らましているのだろうか。
そもそも私が魔王っぽい服装なのに、全然実感が湧かないのが痛手すぎる。
まだ魔王が取りそうな行動もしてないし。
「魔王っぽい行動……」
私は、思い返した。
シナリオの進行では、蓄えられた恐怖のエネルギーは、すぐに回収するはずだった。
トルマリナブロッサムに気を取られて、完全に忘れていた。
「ヤジョウちゃん、魔王の出番があるかもしれない」
ヤジョウにそう言い聞かせると、恐怖の部屋の確認をした。
冒険者が複数人、トルマリナブロッサムに攻撃を仕掛ける。
同時に部屋に出現していたクロニクルナイトに対しては、少人数のグループがヘイトを集めているが、正直大した時間稼ぎが出来ないで倒されていた。
ヘイト役が全滅すると、トルマリナブロッサムの攻撃役に視線が向く。
そもそもの話、クロニクルナイトの基本行動が賢すぎる。
隙が一番生まれそうな冒険者を瞬時に選別して、直線上に伸びる斬撃を解き放つ。
その斬撃の威力は凄まじく、予め盾で防げがなければリスポーン確定。
ヘイト集めが通るだけでも親切設計である。
冒険者側は、試行錯誤の繰り返しを強要される。
トルマリナブロッサム自体の種飛ばし攻撃もまともに被弾すればリスポーン確定と、非常に苦戦を強いられる難易度と化していた。
つい見入ってしまうが、観戦はほどほどにしておかないとね。
そんな部屋にだか、恐怖のエネルギーを蓄えたオブジェクトが残されていた。
たしか、回収するときに台詞があったような……。
どんなのか忘れたので部分的に読み直そう。
それからでも、問題はないのだから。
「あのね、お姉ちゃん。ヤジョウも遊びたいの」
脚本の確認をしようとしたら、ヤジョウが片手で私の左足を掴んでいた。
「ヤジョウちゃんも参戦したいのかな?」
「だって、お姉ちゃん一人二役だから、どっちかヤジョウに欲しいなって」
「女神役は私のスキル前提だから……魔王の器にでもなりますか?」
「ヤジョウは魔王の器ねっ!」
きゃははっ。
役をもらって喜ぶヤジョウは、私の周囲を素早く徘徊し始めた。
「この世界のお兄ちゃんお姉ちゃんの為に、恐怖のエネルギーを回収するのです!」
ヤジョウは魔法陣を生み出して、ワープしていった。
自力でワープ出来たのか。
というか、すぐワープ先を確かめないと。
「えっと、ヤジョウちゃんは……」
急いで画面をみたら、ヤジョウはトルマリナブロッサムの真上にいた。
恐怖の感情エネルギーを蓄えたオブジェクトは、その近くにある。
ヤジョウには台詞を教え込んですらいないので、アドリブになりそうな予感がした。
お読みいただき、ありがとうございます!!
面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!