ノアの探し人
「えっとですね……。不可能では、ないです」
「恐らく可能だろう。問題が一つだけあるが……」
ノアとメリーロードは、否定的な考えを持っていなかった。
問題があるとしたら、この場でボスモンスターを作成した場合、部屋まで運ぶ手段がないことくらいだろう。
これに関しては、現地でボスモンスターを作成したら大丈夫である。
「ノアちゃん、ボスモンスターを上手いこと現地で作成したいけど……」
ノアに問いかけようとすると、ノアは冒険者の様子を映している画面がたくさん出していた。
「画面をたくさん出して……ノアちゃん、どうしたのですか?」
「パルトラ様、すみません。ノアは別のことを考えていました」
「ノアちゃんが、別の物事を考えるくらいの何かですか……」
「はい。そのですね……とある方のアバターを探しているのです」
「交友会でアバター探し……?」
画面を見た感じだと、一筋縄でいなかさそうである。
「パルトラ様、ノアがこっそり探しているのは、ニケ様でございます」
「ニケさん……どんな人なの?」
「ニケ様はシクスオを立ち上げたゲームマスターであります。ただ、現在は行方不明でして」
「シクスオの……ゲームマスターが行方不明……!?」
「えへへ……そうなのです。ニケ様はシクスオを運営する会社を設立した創業者でもありまして、社会的にもたいへん地位のある重要なお方ではあったのですが……」
ノアは今にもため息を吐きそうになっていた。
行方不明。この四文字の重みは、私にもキッチリ伝わってくる。
ただ、私にはどうすることもできない。
この場で足が竦みそうにもなった。
「回復魔法を使いましょうか?」
「あの……ノアちゃん、そこまではいらないかな……」
「パルトラ様、本当にすみません。ひと通り画面の確認を終えたので!」
ノアは意地を張った。
探していたアバターの発見は、難しそうに思える。
「パルトラ様、まずは土台を作っちゃいましょう。それから、アンチウィンドウの付与ですね」
完全に気を取り直していたノアは、自らの足元に赤い魔法陣を展開する。
「適切な植物系の素材アイテムは……」
渦巻く魔力のエネルギー。この場に何かを呼び寄せようとしていた。
「サモンコールを発動します」
黄色い植物のツタを取り出したノアは、魔法陣の中に放り投げた。
まだ私が見たこともない素材アイテムを使ったモンスターが、召喚される。
「召喚士ノアの前に現れたまえ。トルマリナブロッサム!」
聖典をパラパラとめくらせるノアの髪が揺れた。
「トルマリナ……ブロッサム……?」
私が思わず口に出していた。
この時、ノアの瞳は本気だった。
「ノアちゃん、このモンスターの強さはどれくらいなのですか?」
「シクスオのサービス開始当初から存在している、最強と呼ばれるモンスターの五本指に入るとゲームマスターからお伺いしたことがあります」
「それってかなり強いのでは……」
バチバチと電気を発する植物のツタが、ニョキッと地面から生えてきた。
ノアは説明したがっていた。私は耳を傾けて、ノアがしゃべり出すのを待ってみた。
「トルマリナブロッサムは、基本ステータスの高さに加えて、素材アイテムを食べてスキルを獲得する能力をもつモンスターであります」
「素材アイテムを食べちゃう……?」
「これがとても恐ろしいのです。例えば賢者の石を食べてしまうと、合成能力と、再生のスキルを得てしまいます」
「スキルの獲得……。いろいろ食べさせると、最強モンスターが爆誕してしまいますね……」
「えへへ……。でも、食べれる上限は決まっているのですよ」
ノアは召喚したトルマリナブロッサムの様子を見守っていた。
私も見守っておこうかな……。
トルマリナブロッサムには意思があるのか、放置しても勝手に成長していく。
動いたかと思うと、トルマリナブロッサムは周囲にあったスカイスライムゼリー三つを食べ始めた。
すると、植物のツタからスカイスライムゼリーが湧き出てきた。
どうやら、スカイスライムゼリーが持っていた『増殖』のスキルを獲得したみたいだ。
「つまり、アンチウィンドウの効果をもつ素材アイテムを食べさせることで、楽しく出来ちゃうということですか?」
「パルトラ様、そうですね」
「それなら、食べさせる場所は……」
「Aの部屋が望ましいでしょう」
「では、私が魔方陣でモンスターを転送しましょう」
私はエグゼクトロットを使用して、地面に魔方陣を描き始めた。
転送先はAの部屋だ。只今、冒険者の一グループと共に行動しているセレネから合図が来たら、恐怖のボスモンスターとしてトルマリナブロッサムを送り込む。
そして、すぐにアンチウィンドウの効果をもつ素材アイテムを、トルマリナブロッサムに食べさせる。
素材アイテムの用意は、ノアがしてくれることになった。
一方で、ボスモンスターをワープさせることが、私の役目と決定される。
これは魔王としてやるべきことだ。監獄塔を探索する冒険者たちに立ちはだかる脅威として、このトルマリナブロッサムを解き放つのである。
必要であるならば、トルマリナブロッサムを遠距離からサポートする必要も視野に入れている。
目標は、部屋に入ってきた冒険者たちを全滅させることだ。
これから激しい戦闘が始まると思うと、わくわくする。
私の心拍数は、確実に上がっていた。
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