スカイスライムゼリーを使ってみよう
「セレネ様の誘導がうまくいきましたね。こちらも本格的に動いて行きましょう」
「ノアちゃん、そうだね!」
用意されていたシナリオの出番まで時間があった私とノアは、ダンジョンマスターとしてやるべき事がある。
監獄塔において、冒険者の探索はまだ始まったばかりではあるが、少しスリルを味わえそうな刺激がほしい気分でもある。
ひとまず、冒険者たちより先に、監獄塔の大部屋へと足を踏み入れていた。
「私たち、クラムベルンのクラフトルームにいますよね?」
「そうですね!」
「つまり、ここでやることは強そうなモンスターの作成ですか?」
「えへへ……パルトラ様もご一緒にそうして頂けるなら、交友会はより盛り上がりそうです」
淡々と喋るノアは、私に何か期待している。
そう感じ取ったのは、このクラフトルームが無数の置き場になっていたからだ。
用意された素材アイテムを全部使うつもり予定はないと思われるが、モンスターの作成にあたる上て単純に選択肢が多いとそれなりに悩んでしまいそうだ。
「パルトラ様にも、いくつかの資料をお渡ししますね」
「ノアちゃん……これは……」
ノアから提示されると、私は言葉を失った。
ひと目通して理解したが、どれもこれもボスモンスター級の強さを秘めていそうな組み合わせであった。
ただ、作成するのにそれなりに手間も掛かりそうだった。
「今回のモンスターの作成は設計図通りに進めて頂きたいのですが、パルトラ様が良いとされた組み合わせで作成を行っても構いませんよ」
「ノアちゃん、そこは自由なのですね……」
「軸となる素材アイテムだけ、ノアが決めている感じとなります」
ノアが聖典を開くと、魔方陣が出てきて青いゼリー状の物体が現れた。
「これは、スカイスライムゼリーです。まずAの部屋のボスモンスターを作成しましょう。パルトラ様、それぞれの部屋のテーマは把握してますよね?」
「えっと……たしか……」
これは、三カ国ダンジョンマスター交友会の初稿の次に配られた書き込みに記載されていた。
そこにはボスモンスターの設定があり、Aの部屋は『恐怖』と名づけられいた。
「Aの部屋は恐怖ですよね。恐怖ということは、部屋に怖いボスモンスターが出てきてほしいということですかね?」
「そうです。恐怖の感情エネルギーをかき集めるのです」
ノアから告げられたのは、恐怖を与えるボスモンスターの作成せよ、ということ。
怖いといってもいろいろある。視覚に入るもの、単なる絶望が押し寄せてくること、怪談話といったことなどがあるが、ここはシクスオなので、ボスモンスターが軸となる恐怖を味わうものが望ましいと考える。
私はノアが指定した素材アイテムに注目する。
プルプルの空色で、少しばかり私のアバターの髪色にも似ている気がした。
ただ残念なことに、奇抜な発想は、色からは思いつかないでいた。
「パルトラ様、難しいですかね。ノアだったら植物を使おうと思いますね」
「植物……? 素材アイテムの確認をしますね」
私は画面を開けて、植物系に該当する素材アイテムを把握してみた。
「めそめそ草、サンシャインフラワー、暗黒界のツタ……」
まだシクスオで見たこともない素材アイテムの名前が、私の視界に入ってきた。
単に名前を見ていくだけでは、発想の種は育たない。
――ということで、私は少しばかり今回用意されたシナリオのことを考えてみる。
まず監獄からの脱出を試みる冒険者たちは、不思議な四つの部屋にたどり着くことになる。
そこでは、感情エネルギーを吸収する装置が用意されている。
これが四つだ。部屋が四つあるということは、集める感情エネルギーは四種類。
感情エネルギーは、冒険者から集める手段を取るのが一番効率が良いとされている。
集まったエネルギーは、次の工程で使用する。
全ては女神ネフティマの思惑通り。
このことは、今の時点では冒険者が知るよしもない。
「ノアちゃん、スカイスライムゼリーを三つ用意できますか?」
私の思考が回転しだした時、無意識にノアに対してそう言っていた。
「えっと、わかりました。すぐにご用意いたします」
聖典をギュッと握りしめたノアは、スカイスライムゼリーを追加で二つ用意した。
「それで、パルトラ様はどうするつもりですか?」
「あの……メリーロードさん、出てきてくれますか?」
私は身に着けている黒いマントを揺らすと、マントの裏側からメリーロードがひょっこりと出てきた。
「ふぅ……いきなり呼び出して、どうされましたか?」
「メリーロードさん、アンチウィンドウの効果って、まだ使えるのでしたっけ?」
「それは、召喚士のお嬢さんに聞いたほうが良いんじゃないの?」
ふわふわと浮かんでいるメリーロードは、ノアにゆっくりと近づいていく。
「アンチウィンドウのことですね。シクスオ内にデータはまだ消えてませんよ。ただ、次の大型アップデートで抹消しようと考えていまして」
「アンチウィンドウの、スキルそのもののデータが消えちゃうのかな? やっぱり、スキルがあると不都合なのですかね……」
「いえ、正確には消えないです。検索除外をつけるだけです」
ノアは、きっぱりと否定した。
けど、検索除外をつけるだけとは、どういうことなのだろうか。
「パルトラ様、削除ではなく検索除外しておかないと、固有スキルを持った化け物が生み出される可能性がありまして」
「スキルを持った化け物……」
ふと、はじめてシクスオを遊んだ日のことが横切った。
もしかしたら、シクスオから完全に削除してしまうと、将来的に見たときに固有スキルとして誕生してしまうかもしれない、ということなのかな。
それはそれで恐ろしいことである。
あらゆる危険性は、できる限り未然に防いでおく。
……と、ゲーム開始時のスキルのことを知ったところで、私のやりたいことは変わらないのだが、上手くいくかどうか心配になってくる。
「すみません、スカイスライムゼリーにアンチウィンドウの効果が適用出来ないかなと思いまして。何か手はありますでしょうか?」
私は、ノアとメリーロードに尋ねてみた。
もしこれができるのであれば、冒険者に対して私なりに恐怖を与え続けることができるかもしれない。
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