檻からの脱出
特別なダンジョンの入り口が開かれると、何かしらの演出が行われる。
その内容はノアにしか分からないが、無事に成功することを心の片隅で願っておく。
「セレネさんのダンジョンでも、攻略が始まりましたね」
私は小さくなった画面を覗き込むと、賑やかに行動する冒険者が複数人いた。
この冒険者たちはキラリと即席のパーティーを組んで、前座となる青い宝箱のギミックに挑んでいる。
「やはり、キラリ様は入り口で待機しておられますね」
「キラリさんは冒険者と一緒に戦わないのかな?」
「キラリ様は戦闘があまり得意でないと仰ったことがあります。ノアと同じですね」
「ノアちゃんと同じく支援向きですか……」
「支援向きといってもいろいろありますからね。パーティーを組んで一度魔法を使うだけで恩恵を得続けるものもありますし」
聖典を取り出したノアは、両腕を使ってぎゅっと握りしめた。
ノアはきっと、シクスオを遊ぶ誰しもが戦闘狂ではないことを伝えたいのだろう。
「リラックスしとかないと……召喚士として」
「ノアちゃん、緊張してますか?」
「いえ……! 少しですね。演出は一発勝負なのでやっぱり不安になるのです」
「そんな時はノアちゃん自身に回復魔法を掛けてみるとか?」
「ふぅ……パルトラ様、そんなことをしたらノアは冷静さを失ってイベントそのものが崩壊する危険性がありますので、却下します」
大きく息を吐いたノアは、首を横に振る。
終始が付かなくなるアドリブは、今回使えないということかな……。
このことは覚えておこう。
「むにゃむにゃ……はっ、来るよ!」
眠りから覚めたセレネが右手を大きく挙げると、鋭い光がこちらに向かって飛んでくるのが目視出来た。
これは鍵である。
セレネはそれを掴み取ると、ノアが小声で詠唱を開始しする。
セレネのダンジョンに設置されていた青の宝箱も、無事に突破されたのである。
「檻が開きそう……これで冒険者が外に出れる」
ノアの魔法発動タイミングに合わせて、セレネが台詞を吐いた。
すると、シクスオのプレイヤー達は一斉に注目する。
監獄塔が、フィールドに現れたのだ。
場所は、クレイキューブの地下迷宮の上空である。
「なんだこれは……!」
「新しめのダンジョンの上空か」
「誰か行き方は分かるか?」
「ピラミッドを登った先にワープゾーンが出現しているぞ」
「よっしゃー! 俺が一番乗りにダンジョンへ入ってやる!」
――という、好意的な興味を示してくれる冒険者のログが流れていった。
「えへへ……大成功ですね」
ノアの顔が緩むが、ホッと息をつける暇はなさそうだった。
新たなダンジョンが出てくると、冒険者が攻略しにやってくる。
私とノアは急いで、監獄塔の奥地へと向かった。
寝起きのセレネをこの場に残して。
セレネはこのあと、役割があるので心配しなくても大丈夫である。
†
「すぐに出て来るかな……来たね!」
最初の冒険者がダンジョンに入場すると、赤い頭巾を身に着けているセレネが待っていた。
冒険者がダンジョンに入るというよりかは、監獄塔の檻から抜け出したという表現が正しいのかもしれない。
私とノアはシナリオの都合上、暫く出番がないので待機する。
「おっ……結構いるよね」
セレネの前に現れたプレイヤーは、複数人いた。
シナリオの都合上、ここでは複数のプレイヤーのことを一括りにして『冒険者』という表現を用いることとする。
「冒険者さん、ここは一旦落ち着いて状況を把握してみようよ!」
セレネは冒険者に対して、物語の冒頭でノアが吐いた台詞について考えるよう促した。
「たしか……女神ネフティマが望んだからこうなった。冒険者さんには、何か心当たりとか……ないですよね?」
問いかけるセレネは、冒険者の敵ではないことをアピールしていこうと意識していた。
「わたくしたちが閉じ込められた理由を、一緒に探してくれませんか?」
目的をちゃんと提示して、冒険者を頷かせる。
「俺たちに出来ることがあったら、任せろ」
「道が複数あるから手分けしようか?」
活気のある冒険者が次々と喋る。
この雰囲気からして、冒険者はセレネの言う通りに動いてくれそうだった。
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