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魔法分解


「エグゼクトロット……!」


 右手に握っているこの武器から、にじみ出てくる魔力を。

 私は全身で感じ取っていた。


「パルトラ、素材アイテムを掲げなさい」


 メリーロードは、指示を出す。

 迷いは必要ない。私は、その通りにしようと思う。


「この、干からびたローブを分解してっ!」


 素材アイテムを左手に取り出した私は、エグゼクトロットから出てくる魔力を、差し向ける。


『状態、オールクリーン。魔法分解を開始します』


 アナウンスが流れると、干からびたローブが白く光り出した。


「素材アイテムから、星が出てきました……?」


 私は、干からびたローブの中心部分から赤い小さな星がひとつ出てきたのを目撃する。

 それがくるくると回りはじめると、新たな魔方陣を形成していた。


「魔法分解、見届けよう」


 メリーロードは真剣な表情で、私のことを見守っていた。


『魔法分解を完了しました』


 干からびたローブが消滅して、マニラロープに変化していた。


「これは綱引き?」

「見た目はそう思えるわね」

「とにかく、ダンジョンに戻りましょうか」


 私は、メリーロードがリバーシマントの裏側に隠れたことを確認すると、天使の四枚羽で素早く移動を開始した。


 魔法分解をやってみて、とても不思議な感覚を体験した。

 私はこれを一生忘れることはないだろう。


「はい、到着です」


 クレイキューブの地下迷宮に入った私は、作業場に戻るために風神の和太鼓を回す。

 そして、ギミックエリア作成の作業に戻った。

 手に入れたマニラロープを、立体の四角形に絡ませる。しっかりと結んでおくと、簡単にはとれないだろう。


「ここに、タイヤですね……」


 タイヤを三個、結びつける。

 これで、三つ目のギミックエリアが完成した。


 ここでタイヤを使い切ったが、残りのギミックエリアを作成していく上で必要はないと思う。

 それはそうと、ギミックエリアは全部で何個あったほうが事足りるのか、再確認しておきたくなった。


 ノアに対して、メッセージを送る。

 ついでにセレネにも、同様のメッセージを送った。


 二人から、すぐに返事が返ってきた。

 どちらの方も、ギミックエリアが四つくらいで足りるという回答だった。


「私はあとひとつ、ギミックエリアを作成すれば良いのね」


 フィールドで探索をしたので、ひと休みしても良さげであったが、まだ休みたくない。


 今は、そういう気分を抱いていた。



「最後に作成するギミックエリア、どうしようかな?」


 私は頭の中で悩みはじめた。けど、この時間は結構楽しい。

 シクスオに相応しそうな、アスレチックを意識したステージ。


 シクスオは、プレイヤー同士の戦闘が売りなので、そこを活かした設計を意識してみたいところではあったけれど……。


 ひとまず、部屋の片隅に残っている素材アイテムにもう一度、目を通してみる。


 鉄がたくさん。

 木材がたくさん。


 そういえば、鉄をまだ使っていないような。

 私は、鉄の形を変える方法を考えようとした。


 あっ……そうだ……。


 閃いた私は、クラフトルームに移動した。

 そして、すぐに作業へ取りかかる。


 クラフトルームの操作で、鉄を円柱の形にして、地面に埋め込む。


 高さの違う足場を、直感を信じて適当な感じに並べていった。

 鉄の足場はそれぞれ距離があるので、ジャンプしないといけない。


 これで四つ目のギミックエリアが完成した。


 早速、フィナをメッセージ機能を使って呼んでみることにした。

 あと移動も忘れずに。

 フィナだけではなく、私もギミックエリアを確認しておきたいから。


「パルトラ、完成したのか?」


 フィナが部屋に現れると、何故か既にスタート地点に立っていた。


「はい。私自身のテストプレイがまだなのですが……」

「あたしには関係ないこと。早速やってみる」


 フィナは、スタートした。

 最初のギミックエリアは、蜘蛛の巣のように張り巡らされた木の糸。

 バランスを崩すと、すぐに落下するようになっており、落下したら最初の位置からやり直しという想定にしていた。


 イベント本番では、落ちたら強制リスポーンが望ましいか。


「立ち止まると危ないけど、一気に駆け抜ける!」


 フィナは、多少乱雑になりながらも、何とか最初のギミックエリアを抜け出した。

 今回はフィナひとりだけだったので問題は起きなかったが、複数人が同時挑戦となると、フィナの動きはやや危ないのかもしれない。

 フィナが地面に落ちてしまう、という意味で。


 ギミックエリアそのものの耐久性は、シクスオの中なので気にしなくて大丈夫なので、製作側の観点からみると気持ち的に楽ではあった。


「次は、タイヤに水か……」


 フィナは、二つ目のギミックエリアに差し掛かったところで立ち止まった。


「ここは慎重に行くべきか」


 浮かんでいるタイヤは九つ。

 ここで私は、あることをやっていないことに気がついた。

 タイヤに紐が通っていなくて、固定されていないことである。


 このままでは、フィナが上に乗った瞬間、タイヤが水の中に沈んでしまう。

 そうなると、フィナは脱落となる。


「行くよ!」


 意を決したフィナは、一つ目のタイヤの上に飛び乗った。


 ああ、沈んでしまう。


 終わった。

 そう思ったのもつかの間。


「いたっ!」


 フィナは着陸に失敗して、タイヤの上に尻もちをついた。

 そして、そのまま滑り落ちて。


 アバターが水に浸かった。


「この、ちょっとが悔しい……」


 フィナは未熟さを痛感していた。


 私はすぐにフィナの元に駆け寄った。


「あの、ごめんなさい。不具合があって」

「今回はあたしの修行不足だ。もっとトレーニングをしないと」


 フィナは、自分の成長を望んでいた。

 とりあえず、水の上から上がったらどうかなと思った。


「フィナ、手を出してください。そのまま私が引っ張り出すので」

「うん、ありがとう」


 フィナの手を掴むと、私は両腕に力を込めてそのまま引きずり上げた。


「なんか悔しい」

「設計ミスがちょっとあったとはいえ、競技そのものは難しいですからね。今回は作成しませんでしたが、丸っこい壁を勢いをつけて登るステージは普通に難関だと思いますし」

「うん、世界の壁が見えてしまった……」

「フィナ、落ち込まないでくださいね。でも、どうしましょうか」


「不具合のことか?」

「はい。実はフィナが転げ落ちたゴムのタイヤは、固定されてなかったのですよ」

「動く、ということか」

「乗ると動くのではなくて沈みます」


「乗ると沈む……!?」


「はい。なので、現状ではどのみちクリアが不可能に近い状態なのです」

「固定されていないものを支えるか……魔法とかで補えないのか?」

「魔法ですか……維持するのが難しそうですが……」

「そっか。パルトラは、たくさんのプレイヤーたちに遊んでもらいたいから、それだと難しいということか」

「すみません。私の力不足で」


 一応、フィナに謝罪した。


「パルトラが謝ることはないよ。それに」


 フィナは、私の姿をじまじま見始めていた。


「シクスオにログインしていない間に、パルトラは強くなっている。その姿がみれるだけでも、あたしはシクスオがとても楽しいと思えるよ」

「フィナっ……この格好は自分で選んだものではなくてですね!」

「王様っぽいけど、パルトラは魔王って感じだな」

「この姿で魔王のイメージって、ちゃんと他人に伝わるのですか……?」

「それは知らない。あたしはそんな気がしただけ」


 少し微笑むフィナは、私の姿をよく見ていた。

 なんか恥ずかしいかも。


 私は両手で顔を隠したくなった。

 そこに、メリーロードがひょっこりと姿を見せた。


「魔法で維持しなくても、タイヤを浮かせ続ける方法、あるわよ」

「メリーさん、それは本当ですか?」

「ええ。必要なことは……」


「小さな生物……。パルトラ、それは誰だ?」

「これはメリーロードです!」


 私はフィナに名前を伝えた。

 詳しいことは今話すと長くなりそうなの間違いなしなので、後回しだ。


「コホン。話の続き良いですか? ずばり、魔法分解を使うのです」


 聞いた途端、私はメリーロードの言葉は的確だと悟った。

 でも、紐になる素材アイテムなんて手元にない気がするけど、何を分解して解決つもりなんだろうか。

「ひとつ、素材アイテムを預かっていたわね」


 メリーロードが、アイテムを差し出してきた。

 それは、干からびたローブ。


 分解すると、何になるかなんて言うまでもない。


「それがどうしたんだ?」

「フィナは見ていないのですよね。それなら今からお見せします」


 エグゼクトロットを手元に取り出した私は、干からびたローブを両手に持っていたメリーロードに向ける。


「いきますよ、魔法分解!」


 私は全力でエグゼクトロットを振った。

 干からびたローブが光って、マニラロープに変化する。


「パルトラ……紐のアイテムになった……」

「はい。これを使ってタイヤを固定させましょう」


 私は、追加の作業を開始した。

 今度はフィナも手伝ってくれる。

 メリーロードは単に眺めているだけだが、この場にいるだけで何かと安心感があった。



 こうして完成した、ギミックステージ。


 今度は私が挑戦することに。

 早速だけど、スタート地点に立っていた。


「では、いきますね」


 やや慎重気味に開始した私は、難なく最初の木のエリアを通過する。

 二つ目の難所は不安定なところと距離感のつかみ具合だ。

 けど、私にとっては朝飯前に過ぎない。

 テンポ良く、九つあるタイヤの上を通過した。


 三つ目のギミックエリアに差し掛かった私は、息を吐く。

 体力にはまだまだ余裕があった。


 三つ目のギミックエリアと二つ目のギミックエリアで違う点は、タイヤの向きだ。

 二つ目のギミックエリアでは横方向で浮き輪のような感覚に対して、三つ目のギミックエリアは車が走る角度と同じになっているので、油断するとタイヤが大きく回転して落ちてしまう。


 けど、私のオブスタクルの腕前は、世界一と渡り合えるレベルを持っている。


 僅かな助走地帯で勢いをつけた私は、紐で巻かれた三つあるタイヤを軽々と飛び越えていった。


 そして、最後のギミックエリアへと、足を踏み入れていく。

 最後のギミックエリアは鉄の筒だから、飛び込んでいって両手でしっかりと掴むのが重要だ。

 それを難なくやった私は、ややゆっくりと鉄の筒を登っていった。


 やがて、鉄の筒のてっぺんにたどり着くと、そこから次の筒に狙いを定めて飛んだ。

 筒を上る行為そのものを何度も繰り返すのは面倒なので、徐々に低い足場の上に着陸していくという安定のルートを辿ることにした。


 フィナとメリーロードは、黙って見ているだけ。


 その光景も決して悪くないのかも。

 私はゴール地点へと着陸すると、満足そうに両手を挙げた。



 フィナとメリーロードが、拍手していた。


 私は無性に笑いたいと思い始める。


 満足したからである。


 けれど、単なる自己満足だけで終わってはいけない。



 私がゴールしてからが、本番である。

 この階層を、別のダンジョンに転送する準備をはじめないとね。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次回、三カ国ダンジョンマスター交友会が開演します。楽しみに更新を待っていただけると幸いです!!



面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!

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