メリーロードを追いかけて
「エマ、またひとつ強くなった!」
「そうだな」
エマとルークは、デルタワームを倒したことにとても満足していた。
「そういえば、メリーロードはどこにいるのでしょうか?」
私は警戒を怠らなかった。
メリーロードが奇襲してくるかもしれないと思ったのだが……周囲を見渡しても面影がない。
メリーロードがこの場からいなくなっていたのである。
ひょっとしたら逃げだしたのかもしれない。けど、まだそんなに遠くへ行っていないと予想出来るので、追いかけたら何とかなるかも。
「あの道……」
ここは最深部のはずだけど、もう少しだけ奥に道が続いている様子だった。
「戻ったら、俺のダンジョンに触れさせるか」
「うん。パパに付いていくよ!」
「エマちゃん、ルークさん。もう少しだけ、進みましょう!」
私は、帰ろうとしていたエマとルークを引き留める。
メリーロードからキラリのアバターを取り返すまでは、ルビーアイ炭鉱の攻略は終わってないも当然だし……。
「この先は、ワープゾーンじゃないのか?」
ルークは予想を立てていた。
「それもありそう。けど、なんか違うような気がして……」
「違うなら、何があるのだ?」
「それを確かめるために、進むのです!」
私は前に進みだす。ここから先は、何があるのか分からない。
「エマも進むよ!」
「エマが行くなら、俺も行くか」
エマとルークは、しぶしぶ付いていくことにした様子で、私の後ろを付いてきていた。
通路は狭くないので、とりあえず三人が横並びしても余裕がありそうだった。
「ふむ、アンチウィンドウの効果が残っているか」
暫く進むと、メリーロードが扉の前に立っていた。
「ここは……」
私は目の前の光景を疑っていた。たどり着いた小さな部屋には駅のホームがあって、電車がひとつ止まっていたのである。
「メリーロードさん、キラリのアバターを返してください」
私が叫ぶと、メリーロードがこちらに振り向いた。
「ちっ、もう来たのか……」
慌てだしたメリーロードの手が、電車の側面に付いていたハシゴが掛かると、そのまま車両の上に乗り上げた。
「中に乗れないなら、外から逃げるのみ」
「あっ、待って!」
私は全速力で駅のホームへと向かった。
「パパ、置いて行かれないようにね」
「そうだな。……ホームに着いたら車両の上に乗れ、エマ!」
「それくらい、わかってるよ」
私が一番最初に駅のホームにたどり着いて、電車の上に乗った。
続いてエマが飛び込んでハシゴに手を掛けると、電車が急に動き出した。
ルークはまだ乗れていない。
けれど、動き出したばかりの電車の速度は遅め。
余裕をもってハシゴに手を掛けたルークは、エマを先に行かせようと手を動かした。
徐々にだが、電車の速度があがっていく。
「まさか、追いつかれるとは」
メリーロードは、電車の上に立っていた。
「動くのですね。この電車は」
「何が言いたい?」
メリーロードは、足下に白い魔方陣を展開していた。
こうなってしまった以上、電車の上での戦闘は避けられない。
「先輩、気をつけて」
エマの声が後方から聞こえてきた。
振り向く余裕なんてなさそうだ。
移動速度が、思ったより速く感じるからである。
「うっ、まぶしっ……」
一瞬、視界が真っ白になった。
まるで暗いトンネルを抜け出してきたような感覚がして。
「あれっ、海ですか?」
周囲の風景は、青い海になっていた。
線路はまっすぐに続いている。
そして、メリーロードの後ろには、大陸がひとつ見えていた。
「これは、現在地ってたぶん……」
フェニクルの大陸から離れている形といえる。
どこに向かっているのか、予測がつかない。
「くらえっ!」
メリーロードは、白い魔法の弾を発射してきた。
私はそれを、エグゼクトロットで弾き飛ばす。
「すーはー。……なんとなく、戦い辛い」
電車の上は、思ったよりやや不安定な足場という感じだ。
これは一歩間違えると、海の上に落下してもれなくリスポーンだと悟る。
それはメリーロードも同じなのだが、メリーロードは先頭の車両の上に乗っているので、こちらが攻撃して海衲衣に落として倒すというのは、容易ではないと判断できた。
「エマがやる!」
エマは双剣に持ち替えて、メリーロードに近づいた。
「えいっ、やっ!」
「当たらないわよ」
エマが剣を振るも、メリーロードは余裕をもって交わしていっていた。そして、メリーロードは白い魔法を放った。
「いやあっ!」
エマが魔法に命中して、吹き飛ばされていく。
その身体は、私にめがけて飛んできて。
「エマちゃん!」
私がエマの背中をぽんと押すと、玉突きのように私が後方に飛ばされていった。
「くっ、諦めない!」
白き翼よ、我に聖なる加護を与えたまえ――。
詠唱した私は、咄嗟に天使の四枚羽を出したが、飛ばされていく勢いが止まることはなかった。
このまま海に落ちていくのみ。
そう思ったのだが……。
「吾輩のことを、甘く見くびるなよ」
透明度のある硬そうな皮膚のクッションが私の背中に当たって、そのまま着地した。
「この声は、セレネさん!」
「何かあったかと思えば、このザマか。……成り行きだが、吾輩に感謝しなっ!」
「はい。セレネさん、ありがとうございます!」
その場で立ち上がった私は、走る電車に視線を向けていた。
お読みいただき、ありがとうございます!!
面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!