魔王パルトラの誕生
「あの、私からも何か意見を出しましょうか?」
「うーん……もうすぐ意見が煮詰まりきるので、パルトラ様は提案しなくて大丈夫です」
私が口を開いた時には、もう既に時遅し。
アプフェルハートが、透明なテーブルの上に素材アイテムを広げ始めていた。
「賢者の石が二個に、金が一個。神秘のウールと、暗黒の鉄球です」
「これを元に、錬金術で装飾品を作るということだな」
ギベオが素材の品質に着目していた。
「賢者の石と、神秘のウール!」
ギベオが両手を合わせると、宣言した素材アイテムが宙に浮かび上がる。
「烙印調合。出でよ……リバーシマントっ!」
黒い紋章が現れて、二つの素材アイテムが交わり合った。
「ふぅ……完成だ」
出来上がったのは、見た目が黒いマントだった。
品質レベルは、恐らく最高値なんだろうけど、私には確認する方法がない。
今度、品質を知るスキルでも付けてみたいと思った。必要になるかは不透明だけど……。
「ギベオさん、凄いです」
「これくらい序の口だ。続けて行くぞ」
ギベオは、次の錬金術で必要なことを頭の中にイメージしていた。
「金と、暗黒の鉄球で、烙印調合!」
今度は金と、暗黒の鉄球が宙に浮かぶ。
この二つの金属が混ざり合い、火花がはじけ飛ぶ。
「出でよ、黄金世界の冠!」
冷や汗をかくギベオ。なんとか合成を成功させた様子だった。
でも、手を休める気配はなかった。
「黄金世界の冠と、賢者の石で、烙印調合!」
ギベオは固有スキル使って、更なる錬金術を試みる。
「出でよ、タイムレスクラウン!」
ギベオが作り出したのは、黒い王冠だった。
「ふぅ……これなら行けると思うが」
ギベオは息を切らしていた。気を遣うノアは、黒いタオルをギベオに渡す。
「どちらも素晴らしい装飾品ですね。あとはこれに施しをして」
ノアは、私の顔をじっと見つめはじめる。
「えっと、私ですか?」
「そうです。パルトラ様は一旦服装を通常のものに変えてから、この二つの装飾品を身につけてみましょうか」
「スキルを解除して、装備するのですね。うん?」
天翔る銀河の創造天使を解除した私が身に着ける……。
この王冠とマントを……?
「パルトラ様、どうしましたか?」
「えっと、なんでもない」
私はリバーシマントを手に取って、白いローブの上から身につけた。
それから、タイムレスクラウンを被った。
「これじゃあ、私が王様じゃないか!」
「えへへ。パルトラ様のお姿、とても似合っていますよ!」
ノアはとても喜んでいた。
もしかして、おしゃれを楽しんでいるだけでは……?
「でも、パルトラ様は王様というより、魔王って気がします」
「そうだね。戦闘ログを見返したのだけど、最初にダークスライムを従えていた辺り、そう思わざる得ないというか」
ノアと、アプフェルハートの意見が合致していた。
「とりあえずは……新しい装飾品、ありがとうございます。それで、どんな効果をがあるのですか?」
「王冠の方はスロットですね。スキルを四つまで付けることが出来ます」
「スキルが四つか……。ノアちゃん、エンジェルマーケットのスキル付与装置でスキルは付けれるのでしたっけ?」
「そうです。一応ですが、その王冠は一般的な基礎スキルに限らずいろいろな応用的なスキルも付けれるようにしてあります。それから、マントの方はギミック系によるダメージを無くして魔力回復させます」
「ギミック系によるダメージとは」
「簡単に言うなら毒の霧とか、地面から針が出てくる仕掛けとか。その辺りを無力化出来ますね」
「実用性はありそうだけど、わざわざダンジョンマスターが身に着けるものなのかが……」
今はすぐに必要になってくるから、と割り切るしかない。
というか、いまの話を聞いた限りでは、私の固有スキルは必要無かったのでは……?
「ノアちゃん、天翔る銀河の創造天使の出番はどこですが?」
「それは今ではありません。これから、パルトラ様が使用タイミングを見つけるべきでしょう」
ノアは聖典を手に持つと、口元で囁く。
「開きますよぉー」
私の足元に転送用の魔法陣が出現すると、アプフェルハートが無言で手を振ってくれた。
ここでルビーアイ炭鉱に送り返されそうな気がした。
けど、新しい装飾品をふたつも用意してくれた。
これはもう、この手でメリーロードを倒しにいくしかない。
「エマちゃん、ルークさん、どうか無事で待っていて」
私は両目を閉じるとワープしていく感覚がした。
そして、すぐに目を開けると。
「くぅっ!」
エマは受け身をする。
「エマ、無事か」
気を引き締めるルークが、エマを心配する。
メリーロードとの戦闘は、既に始まっていた。
「妖精の加護は、素晴らしい防御力を誇るわね」
キラリのアバターからエメラルド色に発色する妖精の羽が、エマとルークを翻弄させている。
周囲を見渡してみると、連れていたはずのモンスターが全然見当たらない。
第一部隊及び第二部隊のモンスターたちは、メリーロードの前に散ったのだろうか。
とにかく、私が割り込まないことには、どうにもならない気がした。
「エマちゃんとルークさんはいったん下がってください。私がお相手します!」
私はエグゼクトロットを構えると、前に数歩だけ進む。
青く輝く本のオブジェクトが薄っすらと視界に入ったので、現在地はルビーアイ炭鉱の最深部と見て間違いないだろう。
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