ルビーアイ炭鉱の制圧
「こちらで画面に干渉できなくする現象を、取り壊す方向で進めていますので」
私が広げているマップの様子を気にするアプフェルハートから、また説明があった。
そもそもの話、ユーザーが運営サイドと手を組むのは珍しいことかもしれない。
それだけ、運営サイドの者にとって、画面に干渉できなくする現象を脅威の存在だと見なしているということかな。
ボット人形の解決は勿論、キラリのアバターを取り返す手段を検討しなくてはいけない。
やるべきことがいっぱいだ。
運営サイドにとっては。
その証拠に、時々アプフェルハートの口元から悲鳴が漏れていた。
「アプフェルハートさん……少しは落ち着けますか?」
「あわわ、無理ですぅ! 世界中のあちらこちらに、ボット人形が出てきたというお知らせが相次いでいるそうで」
「メリーロードさんも、仕掛けてきたかな……」
私は、少し目を閉じた。
世界に耳を傾ける。
私は天翔る銀河の創造天使によって、シクスオの世界にあるあらゆるダンジョンと繋がれるから、声を聞きたい。
悲鳴があるというのなら、具体的に。
寄り添うことで……。
「デマ情報?」
悲鳴はなかった。
各ダンジョンは正直に動いていることが、わかった。
「そんなっ、通知がいっぱいあって」
アプフェルハートは目を回す寸前だった。
「その画面、エマに見せてくれる?」
手が空いていたエマは、アプフェルハートの頬をつつこうとしていた。
身長差で届かないのか、エマはウサギのようにぴょんぴょん跳ねていた。
「え、エマちゃん。み、見せるね!」
アプフェルハートは自身のメッセージ画面を開いた。
すると、アプフェルハートの言うとおりにメッセージが大量に送られてきていた。
ただ、違和感があった。
同じ文字の並び。まるでコピーアンドペーストをしているようだ。
「これ、同じ人物から送られてきてるね」
近くで見ていたエマは、指摘した。
「ビャクズという悪い人だ。この人が、たくさんメッセージを送りつけているみたいだね」
エマはため息をつく。
ビャクズは……私たちのが一度倒して、リスポーンさせた敵だ。
もう復活しているとは思ったが、小細工の妨害をしてくるとは予想外だった。
「ビャクズっ、待ってなさい。このアプフェルハートが絶対に捕まえてあげるんだからぁ!」
アプフェルハートはメッセージ閉じると、ルビーアイ炭鉱の出入り口方面に走って行った。
ビャクズは、アプフェルハートに任せよう。
それはさておき、もうすぐ第二軍隊の出撃準備が出来そうだった。
「私とエマちゃんで、第二軍隊に紛れましょう。念のため、クラフトルームを停止させます」
「うん。指揮は、先輩に任せるよ」
エマは、双銃に持ち替えていた。
停止させると、ダンジョンの奥地へと進んでルークとの合流を図る。
第一軍隊はまだルークと合流していないが、第一軍隊のモンスターの数が減っている様子はないので合流までは恐らく大丈夫だと思う。
問題はその後だろう。
とりあえず、ルークとの合流を図るのを第一に。
「第二軍隊、行きましょう」
第二軍隊に出発と同時に、私はクラフトルームとしての機能を停止させた。
「先輩、エマは……ダンジョンマスターの跡継ぎ、ちゃんとやれると思う?」
「うん。ばっちりと思いますよ」
「そう……それならよかった!」
エマはスキップしながら進んでいく。
私の立ち位置からエマの顔は見えてないが、喜んでいること間違いなかった。
「でも、デルタワームは残念だったね……倒す意味がなくて」
「メリーロードさんから、ダンジョンを取り返して……。それからですね」
「うん、そうだね。だから絶対にメリーロードを倒すよ!」
張り切るエマは、ハンマーに持ち替えていた。
ルビーアイ炭鉱の壁に向かってハンマーを叩きつけると、壁を中心に赤く輝く様子が見れる。
その後、ルビーの色味をした粉末が地面にばらまかれるので、それを回収していた。
素材アイテムは、お持ち帰りしてモンスター作成に用いるのかな。
エマの将来性がどうなっていくのか、想像するだけでも楽しみである。
「さてと、マップ画面を見てみようかな」
私はチェックする。そろそろ第一軍隊とルークが合流している頃合いだからだ。
画面をみた感じだと、無事に合流出来ていることが見受けられた。
……というか、勝手に進行している。
現在ルークは二つ目のストーリーイベントがある部屋にはおらず、その先の通路にいた。
第一軍隊が止まっていないなら、それで十分といえるか。
どんどん突き進むことが出来れば、いずれメリーロードの元にたどり着くだろう。
一方でメリーロード側からの動きは、これといってなさそうである。
ダンジョンマスターとしてのマップ制圧が、順調に進んでいるとみて間違いない。
「二つ目の部屋に着いたね。パパは、いない?」
「ルークさんなら、先に進んでいったね」
「パパらしいかといえば、そうだけど……」
エマは少しばかり、しんみりしていた。
やっぱりエマは、ルークとも遊びたかっている様子だった。
「あっ、パパからのメッセージだ」
エマの元に、ルークから個人メッセージが届いた。
それを読むエマは、何度か縦に頷いた。
「何で書いてあったの?」
「あのね、パパがね。……これ以上、先輩を進ませるなって」
エマが俯き気味になると、私がパーティーから外されて、エマもパーティーから外される。
「急に、どういうことかな?」
「たぶんね、パパがこの手で問題を解決したいということだと思うの」
双剣に持ち替えたエマは、悲しい顔をしていない。むしろ、ルークの行為に対して期待を寄せていそうだった。
「エマちゃん、私がここから先に進むといったらどうします?」
「エマは戦います。たとえ先輩が、相手になったとしても」
エマは真剣だ。その様子を見た私は、エグゼクトロットを構える。
どうしてこうなったかって?
その答えは決まっている。
「ここって、そういうゲームだから!」
「ここって、そういうゲームだからね!」
ルビーアイ炭鉱の中で、私とエマの声が共鳴した。
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