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炭鉱に眠りし妖精


「別にエマちゃんは謝らなくても。可愛いが全てを許してくれるお年頃だし」


 アプフェルハートは、エマの頭をなではじめる。


「むっ……」


 緊張してるのか、体を硬直させるエマはこれ以上何も言わなかった。


「アプフェルハートさんとエマちゃんは、どんな関係なのですか?」

「えっと、それはね……」


 アプフェルハートは私の元に近づき、耳元に小声で囁く。


「そのね……エマちゃんとは、異父姉妹の関係なの。わたしの父親はもう病気でお亡くなりになっていて、その後にわたしの母が再婚したのよ」

「ルークさんはそのことを知っているのですか?」


 質問してみると、アプフェルハートは首を横に振った。


「ルークさんとは、直接会ったことはないよ。そもそもわたしは母親と十六しか離れていないのだけど……」


 ニ度目の囁きは、現実での事情が重くのしかかっている気がした。


 ただ、少なくともエマが年下で間違いないとみている。

 アプフェルハートが私の元を離れると、今度はビャクズの死骸に近づいていった。


「あっ、こっちは倒しちゃったか……これをマスタールームに持って帰るとして、いま大問題なのは」


 アプフェルハートは危機感を覚えていた。


 眠っているトルードのダンジョンマスター、キラリのアバターをどうするかだ。

 そもそも、プレイヤーは無事なのか?

 アプフェルハートから聞き出したいところだ。


「すみません、眠っているプレイヤーは大丈夫なのですか?」

「パルトラさん。あのプレイヤーさんなら、楽しくシクスオを遊んで貰っている状況なので、気にしないでもらっても大丈夫です」

「楽しくシクスオを遊んでいる状況……?」

「えっとね、トルードの国に世界樹があるでしょ? このアバターが急に乗っ取りされたとあったものだから……それで、彼女には一時的に世界樹をアバターとして動かしてもらっているの」

「世界樹のアバターというものがあるのですか?」


 普通なら風景として置かれているだけのモノでさえアバター操作可能となると、シクスオというゲーム、自由度が高すぎる。


「今回はボット人形が関わっていたから、上の御方からそういう指示が来て……」


 アプフェルハートは、口酸っぱくなっていた。

 事情は理解した。あのアバターを操作していたプレイヤーがシクスオを楽しく遊べているというのなら、ひとまず安心は出来そうだ。


「それで、アプフェルハートさん。この囚われたアバターを助けることは出来そうですか?」

「こういう時にゲームマスターへの連絡が出来なくて……どうしようかと……」


 アプフェルハートは困惑していた。

 画面に干渉できない現象はアプフェルハートにまで及んでいるらしくて、上の者に指示を仰げないとのこと。

 運営サイドの手に負えない事態になってるレベル、となると……。


「どうしましょうか。アプフェルハートさんがこの場から離れて連絡している間は、ここで待機するとかですか?」


「いや、ちょっと待て」


 ルークが、本のオブジェクトに近づいていった。


「現状出来ることは……ストーリーイベントを起動させてみる、というのはどうだ?」


「ストーリーイベントは遮断されているものと別回線だから、そこから上手くアクセス出来れば……マスタールームに届くかもしれないね」


 アプフェルハートは、何かが起こることに期待していた。

 言葉を聞いたルークは、本のオブジェクトに触れる。


「何も……おきない……?」


 この場が静まり返る。

 生徒会長どころか、ゴブリンですら出てくる気配すらない。

 むしろ、大きな変化が起きたと思ったのは、眠っているキラリの方だった。


「この肉体の持ち主を、助けてあげたいの?」


 私の頭に直接、少し生意気そうな女の声が話し掛けてきた。


「はい……シクスオのダンジョンのマスターとして、ですが」

「そうか。ならこうしよう」


 キラリを囲んでいる黒い円形に、大きな縦の亀裂が入った。


「何だ……?」


 ルークが真っ先に警戒していた。

 少し遅れて、エマとアプフェルハートが気を引き締める。


「あの、キラリのいる方向から女の声が聞こえませんでした?」


 私は皆に問いかけてみた。


「知らないな」

「先輩、エマは何も聞いてないよ」

「うーん、マスタールームにさえ通信できれば……」


 聞いた限りでは、誰も女の声を聞いていなさそうだった。


 私にだけ聞こえたってこと?

 そんなことが出来るとしたら、現状では……。


「ビャクズさんが仰っていた、組織のボスさんだけかな?」


 私は、一歩前に出ていた。


「流石はご名答ね。ご褒美をあげましょう」


 今度は斜めに亀裂が入って、黒い円形が崩れ去った。

 そして、キラリの体が空中に浮かんでいた。


「本来の固有スキルは、妖精の加護か。面白いな」


 キラリのアバターを自由自在に動かしている者は、ビャクズが所属しているとみられる組織のボスで間違いないと思われる。

 私にだけ直接話しかけてきた女の声と合致して、胸がざわつくのだ。


「キラリさんじゃない……貴方は何者ですか!」


 私はエグゼクトロットを構えた。


「メリーロードよ。悪の美学に忠誠を誓う、悪しき教導である」


 エメラルド色の妖精の羽をより輝かせ、眩い光で視界を遮った。



 ちょっと待って。


 この場から、逃げるつもりなの?


 何か答えてください、お願いだから……!



 私はエグゼクトロットを持っていない左手を、懸命に伸ばしていた。



 だが、そんなものは届くはずもなく。

 部屋の明るさが元に戻ると、キラリのアバターが姿を暗ましていた。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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