赤髪の男の子と、生徒会長
「炭鉱に大きな穴が出来るなんて……助けて。せめて、助けて……」
男の子の声が徐々に掠れていく。
これ以上心配させないようにと思い、私はこの男の子に近づいた。
「どうしたのかな?」
「助け……助けが来たのか……?」
「そうだよ。お名前とか、いえるかな?」
手を差し出して、男の子を立たせようとした。
「うん。僕は……」
男の子は首を横に振り、自力で立ち上がろうとした。
泣き言なんて言ってられない。そう思っているのだろうか。
けど、そんなもの。
無意味なんだということを、思わせるような雰囲気を漂わせていた。
男の子の足元には、円の形をした砂のくぼみが出来ていた。
耳を澄ませると、サラサラと音を立てていて、それはまるで蟻地獄のように。
「これは……危ない!」
私が男の子に声をかけた瞬間、砂のくぼみから牙が出てきて――。
「うわああああっ」
虹色に光るミミズのようなモンスターが、男の子を丸呑みにした。
「エマ、ルークさん、気をつけて!」
「はいっ。武器を取り出すよ!」
「あれがデルタワームか。登場が早いような……」
戦闘態勢に入った私たちは、ミミズのようなモンスターを警戒する。
だが、私達のことはお構いなしに、ミミズのようなモンスターは地面に戻っていった。
「やはり、ストーリーイベントとしての確定遭遇だったか……」
ルークは気が抜けたのか、ため息をついていた。
ふと、本のオブジェクトがどうなっているのか気になったので、確認してみると。
何も浮かんでこないので、ストーリーはまだ終わっていないのかもしれない。
「えっと、エマの後ろから誰か来る?」
エマがその場で振り返ると、唐突に足音が聞こえてきた。
「解き放て、疾風のや……?」
黒い王冠を被り、黒色のマントをなびかせる、金髪の美少女が困惑していた。
その金髪の美少女が身につけていた制服をぱっとみた感じでは、クローニア学園のものと完全にデザインが一致していた。
「こちらから男の子の悲鳴が聞こえたのだけど、どちら様でしょうか?」
「私はパルトラです」
「エマだよ」
「ルークだ。貴様と争う気はない」
自己紹介をして、敵ではないことを伝えた。
「私はアイリス。某学園の生徒会長とだけ名乗っておきます。それで、ルビーアイ炭鉱で迷子になった男子生徒がいるのですが、心当たりとかありますか?」
「それなんですが……たぶん食べられちゃいましたね」
「食べられちゃいました?」
「あれは、デルタワームだろうな」
「パパよりも遙かに大きい、ミミズのようなモンスターだよ」
「……そうですか。私はこのまま奥に進んでいきますので、貴方達は身が安全なうちに撤退することをおすすめしておきます」
警告してきたアイリスは、ルビーアイ炭鉱の奥へと突き進んでいった。
ここで本のオブジェクトが強く光り輝いた。
第一話、完。――という文字が浮かんでくると、私の手元に通知が入る。
ルビーアイ炭鉱でのエピソードのひとつが終わりましたという、メッセージが来た。
それから、ストーリーを閲覧した証として、ステータス画面の左下辺りに、レコードという項目が増えていた。
閲覧したストーリーは、ダイジェスト版としてここから読み直しすることが出来るようになっている。
また、読んだストーリーの数に応じて、レアアイテムが報酬として手に入るとのこと。
これは数をこなして達成していくしかない。
「ルークさん、そのうちアレと戦うことになるのでしょうか?」
「恐らくそうだろう」
「それで、赤い髪の男の子はどうなっちゃうのかな……?」
「それは続きのエピソードを見ることによって解決出来るかもしれない。ただ一つ言うとしたら、デルタワームに飲み込まれたプレイヤーはリスポーン確定だ」
「えっ、パパっ! デルタワームの口から体内に入ってから攻撃をして、脱出を試みるということは出来ないの?」
「無理だ、諦めろ」
「がーん!」
仕様を知ってしまったエマは、ショックを受けた。
暫くは立ち直れないだろう。……とか思ったのだが、すぐに開き直っていた。
「まずはマウバットを倒しまくって。それから、それから!」
「エマが元気なのは良いことだ、行くぞ」
武器を振り回したルークは、ルビーアイ炭鉱の奥へと足を踏み入れていく。
「あっ……もう行くのね」
私も、ルークの後に続いたが、ステータス画面が開きっぱなしになっていた。
けど、ここはついていくことを優先したいと思った。
歩きながらでも、ステータス画面は閉じることが可能なので
そう思った矢先に、私のステータス画面が勝手に消えた。
「先輩、パパ、止まって!」
エマは異変に気づいていた。
「うん。エマ、どうした?」
「急におかしくなった。エマの戦闘ログがみえなくなった」
「そうか。……これは」
ルークは自身のステータス画面を開こうとしているのだが、一向に開かない様子だった。
「ログアウトだけは出来るみたいだが、困ったな」
「パパ。そうだね。チャット使えないよ」
ルークとエマは困り果てていた。
画面を触るのは駄目だとして、スキルは使えるかな?
とりあえずやってみるしかない。
「スキル発動、天翔る銀河の創造天使!」
私は口に出したが、何もおきなかった。
スキルに何らかの画面が干渉するのか知らないけど、発動自体できなかった。
「私のスキルが、使えません……」
「そうか……エマはどうだ?」
「えっと、武器の持ち替えは異常なく出来るよ」
「そうか。だとしたら、画面に干渉しないスキルなら使えるということか」
「ルークさんのスキルは画面に干渉するのですか?」
「その理論で行くと、俺のは問題なく発動できる」
「だったら、私の二つ目のスキルは問題なく効果を発揮するということですね」
「そうだろうな。……うん?」
「ルークさん、どうしたのです」
「迷宮神殿のダンジョンマスターは、固有スキルが二つ持っているのか?」
「そうですけど、何かあるのですか?」
「何でもない。気にするな」
「それなら、これからどうするかを考えないとですね」
私はひとまず天井を見上げた。
私の固有スキルが二つあることを知ったルークの気が動転する、か……。
なんか、今更な気がするけど。
外部との連絡を取れなくする効果を実感しているにも関わらず、ほんの少しだけ、私は冷静になれている気がした。
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