悪いことは許しません!
「絶対、何かあるよね……?」
「先輩には、関係ないから」
エマは頬を少し膨らませて、俯き気味になる。
エマの両足が止まる様子はなさそうなのだが、ルークのため息が何度も繰り返されるのをみている限り、とても深刻なことでも抱えているのだろうか。
もう暫くは下り坂が続くので、転ばないようにできるだけ前をみていてほしいのだけど。
私の声は全然届きそうになかった。
ただ、時々動くエマの冷ややかな視線はどう考えても、茂みの奥に向いていた。
「誰かいるのかな? それが気になって」
「先輩は、わかるの?」
「いまは気配だけです。流石に詳細は、ダンジョンに入らないとわからないけど」
「そっか。……先輩は、ダンジョンに入る前と後、どっちで確認したい?」
顔を上げてくれたエマは、私に問いかけてきた。
ダンジョンに入ってしまうと、ダンジョン入り口付近の地形を把握した上で奇襲攻撃とかに備えないといけないから、調べるチャンスは今がベストとみる。
「ダンジョンに入る前が良いかな?」
「わかった。……エマ、今から悪さをするフリをするね」
「これは作戦ですか?」
「たぶん、そうなるかも。先輩、今からエマのSSR武器を渡そうとするから拒否して」
「はい?」
いきなりエマが、SSRの武器三種を差し出してきた。
状況がまったくもって理解できていない。
けど、いまはエマに従うしかなさそうだった。
私は困惑しながらも、アイテムの受け取りを拒否しようとした。
すると――。
「そこまでです! シクスオでの悪いことは、このわたしが許しませんから!」
赤い帽子を被ったツインテールな山吹色の髪の女の子が、右手を伸ばして堂々と出てきた。
キラキラした両目に星型のマークが入っていて、ヒラヒラのスカートを揺らす。
全体的に見渡すとなると、林檎をイメージ出来そうな派手さのキャラクターでも演じているのかなと思わせる雰囲気をすごく漂わせていた。
それはまるで、魔法少女のように。
「わたしは、魔法少女アプフェルハートっ!」
簡潔に自己紹介を終えると、右手には可愛げのあるハートのステッキを握っていた。
彼女は魔法少女だった。
「先輩、とりあえずキャンセルをお願いね」
「エマちゃん、わかりました」
私はよそ見しながらも、エマからのアイテムの受け取りを断った。
「キャンセル確認済みだよー。……それで、エマ達に何か用事があるの?」
エマは鋭い目つきで睨みつけていた。
とても馴れ馴れしさがある……この人は、エマの知り合い?
「ぎくっ!」
顔色を悪くしたアプフェルハートは、何事もなかったかのように立ち去ろうとした。
「そうやって、エマから逃げるのですか?」
「単なる敵だろう。ここはシクスオなのだから、油断しないように」
背後に回り込んでいたルークが槍を突き立てて、アプフェルハートの首元を狙う。
この状況に、アプフェルハートは涙目になっていた。
「お、脅しても無駄ですよ!」
「そうか。ならば倒すが」
「それはシステム上できなくて、ひぃっ……!」
アプフェルハートはルークの槍に対して、完全に怯えていた。
このまま倒すのかなと思ったのだが、ルークはそのままの態勢を維持していた。
「ルークさん、とどめを刺さないのですか?」
「このまま俺が攻撃しても、無駄行動になる」
「ルークさんの攻撃が通らない?」
私は不思議がった。ルークとアプフェルハートの距離が現在ほぼないのだから、攻撃を回避をできるわけがなくて……何か引っ掛かっる。
でも、ルークの言葉を思い返してみると、すぐに違和感に気づけることだった。
アプフェルハートが口に出していた、システム上出来ないという言葉だ。
システム上出来ないということは、無敵の存在。そう思ったほうが良いのだろう。
そもそもの話、アプフェルハート何者なのか。
今にも不満の声が爆発しそうなエマをみる限り、アプフェルハートはエマの知り合いで間違いないのだろうけど。
「エマちゃん、アプフェルハートって結局のところ何者なのですか?」
「先輩。あの人は、シクスオを監視する四天王のひとりです……」
「シクスオの監視する者、ということは」
アプフェルハートは、運営側の存在ということになる。
だとしたら、攻撃を受け付けないという仕様を適用されていてもおかしくはない。
そしてアプフェルハートが四天王ということは、彼女以外に三人、実際のフィールドで監視をしているのだと予想がつけれる。
けど、それならどうしてここに一人いるのだろうか。
アプフェルハートの反応を考察したら、私とエマとの嘘の取引に釣られて表に出てきた感は否めないのだが、本当の目的というものがあるはずだ。
あと気になるのは、エマの態度である。
エマは険悪しているのか、しかめた顔でアプフェルハートを睨み続けていた。
「エマちゃんが怖い顔をしているけど、完全に誤解だよ。わたしがこの辺りを散策しているのには上からの命令だし」
「……やっぱりそうなんだ」
「エマちゃんは関心なさそうかな。でも、知っておいて損はないかなと」
「私が知って問題ないこと? どんなこと?」
「外部との連絡を取れなくする現象が、今日未明この近辺で観測しまして。現地調査しているのですよ!」
「ふーんだ……」
歩きだしたエマは、アプフェルハートからそっぽを向く。
私は様子を見守りながら、エマの背中を追いかけていった。
外部との連絡を取れなくする現象そのものは、フィナの調査で噂の実態を耳にしていた。
だが、ルビーアイ炭鉱周辺でも発生していたなんて思いもしなかった。
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