交友会のお誘いをしてみる
――敵、いませんけど。
エマの声が聞こえてくると、鋭い刃物が空を切る音がした。
「くれぐれも油断はするな、エマ。敵はどこからでもやって来るんだ」
ルークの手には、黒い槍のようなものがあった。
名前は、黒精霊の槍。SSRの武器となる。
この場に立ち止まっていきなりそんな武器を出してきたということは、ルークは周囲への警戒心がより強まっているということを意味する。
私はステルス能力なしに追尾していたので、流石に気づかれたかと思ったのだけど……こちらに視線が向いてくる気配は全くなかった。
とはいえ、この二人の進行先には階段があるので、このまま進むと視界からいなくなるのは目に見えていた。
ここはどうするか。ひとまず高く上がってみるしかない。
「パパ、この先にあるのがギルドで本当に合ってたっけ?」
「エマ、その通りだ。それで、この近辺の地形が駅前そっくりだろ」
「ギルドの見た目とかは……確かにそうだけど……」
「ギルドに入ると安全地帯だから、敵の警戒を解いても問題なくてな……で」
「パパ? どこ向いているの?」
「そろそろ顔を合わせて来たらどうだ? 誰だか知らないけど」
ルークは、私がいる方向を的確に見抜いていた。
武器を持っている状態とはいえ、敵意は持っていなさそうだった。これなら、私からのお話くらいは通じそうだ。
「私、パルトラと言います。迷宮神殿オシリスでダンジョンマスターをやっております」
ゆっくりと降下する私は、着地する地点を探っていた。
もし不意打ちされても即座に逃げれるようにする為、ギルドにより近い位置へ陣取ったほうが安全は保てる。
それにしても、見た目が実物にある駅そっくりすぎる。
ぱっと見た感じでは、ギルドとは到底思えなかった。
「それで、俺たちに何の用だ? と言いたいところだが」
ルークは画面を触りだすと、パーティーの勧誘が私の手元に届いた。
「なになに、パパの知り合い?」
「別に違うけど。ただ、天空都市のダンジョンマスターが、そういう新入りが現れたという言いふらしを耳にしていてな」
「情報源は、やっぱりノアちゃんかな?」
「ここで無駄口を叩くくらいなら、さっさとギルドに入ったほうがマシなのだよ」
ルークは一直線に歩いていき、ギルドの中に入っていった。
「パルトラさん、だっけ……。これからダンジョンマスターになるエマから見ると、先輩になるんだねっ!」
エマは笑顔をみせると、スキップしならがルークの後についていった。
「新しいダンジョンマスター、か……」
私はパーティーの勧誘に承認してから、フェニクルのギルドへ入ることにした。
「ルーク様、エマ様、パルトラ様、お疲れ様です」
ギルドの中に入ると、いつも通り受け付けのお姉さんが声をかけてきた。
この後はお辞儀をしてきて、動かなくなる。そこまでは他のギルドとまったく同じなんだけど。
フェニクルのギルドでは受付のテーブルがなくて、改札口が横に広がっていた。
「ここは、ギルドですよね……?」
困惑する私は、無意識にルークへ問いかけていた。
「確かにここはギルドだが、フェニクル国内を快適に移動する為の場所でもある」
「つまり、列車に乗ることが出来るってことですか?」
「そうだよ。ちなみに列車に乗って移動する際には、現実世界と違って賃金は発生しない」
「そこはゲーム内だから、ということですか?」
「まぁ、そうなる」
「そうなるー。そうなるー」
表情の硬そうなルークとは対照的に、エマはまるで無邪気な子供のような態度をしていた。
盗み聞きした内容どおりなら親子であってるはずだけど、見た感じ仲はよさそうである。
「それで、迷宮神殿のダンジョンマスターがここへ来た理由は何だ?」
「ノアちゃんから、三カ国ダンジョンマスター交友会を開催するというお話を聞いていますよね?」
「ああ、そんな要望があったな」
「その件についてですが、新しいダンジョンが見つかったということで、六か国で開催することを望んでおりまして」
「パパ、六つの国のダンジョンマスターが集まるって、どういうこと?」
エマは首を傾げた。
すると、ルークはエマの頭を撫ではじめた。
「俺が一度断った話だ」
と言って、首を横に二度振る。
「俺にはやるべきことがある」
「楽しそうなことをするだけなのに、パパは断るつもりなの?」
「あくまでも、優先順位の関係だ。今の俺がすべきことはエマの成長を願うことだ」
「パパ……」
自身の胸元に手を当てるエマは、自覚していた。それは私でも理解できることだった。
廃墟を見た感じかた伝わってくるダンジョンマスターの経営としての才能のなさ、エマへの期待に希望を持っていること。
そして、私がフェニクルに来てから現状を目の当たりにした、シクスオのBOT問題。
ルークは英雄にでもなりたいと口にしていたが、どういう意図を持ってエマに伝えたのかまでは定かになっていない。
「話は終わったか?」
「いえ。もう一つあります」
「そうか……何だ?」
「その、私をパーティーに誘った意味ですね。私がダンジョンマスターの一人として、エマの成長を手伝ってほしいということでしょうか?」
「そんなことは一ミリも考えてない」
「あくまでも、ノアちゃんのお話を断るだけの為に、ということですか……」
「ふん、そうなるな」
表情が一向に変わらなさそうなルークは、改札口に向かって歩き始めていた。
「ねぇ、パパ! エマは、そんなことこれっぽっちも思ってないよ!」
必死に追いかけて、足止めしようとするエマ。ルークの足にしがみつき、微量の涙を流した。
「これからダンジョンにいる強敵を倒しに行くんでしょ! だったら、エマにとってなおさら必要だよ。パルトラ――先輩を、一緒に連れていってほしい!」
「はぁ、そうか……」
ルークは立ち止まった。
「歓迎はする。好きにしろ」
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