ダンジョンマスターの招集
私のダンジョンクラフトの部屋には、普段見慣れないであろう青色水晶のテーブルが設置されていた。
そこに丸い椅子が三席並べられており、私とセレネが既に着席していた。
残りの一つはまだ空席となっているが、もうすぐ到達するとみられる。
「パルトラちゃん、元気にしていた?」
ご機嫌な笑みを浮かべるセレネは、気安く話しかけてきた。
「私は元気ですけど、フィナは家族旅行でお出かけされていて、暫くの間はシクスオに顔を出さないそうです」
「そっか、フィナちゃんは不在なのか。残念だねー」
「フィナが帰ってきたら、お土産話をしたり……出来るかな……」
「それ、良いかもね!」
「そうですね……そうしてみます。ところで……」
バチバチバチ――。激しく弾ける音が鳴った。
「パルトラちゃん、どうしたの?」
「セレネさんが持ってきた、この石は何でしょうか?」
私はテーブルの上に置かれている、電気が帯びている黄色い石が気になって仕方なかった。
「パルトラちゃん、これはラムウ石だね」
「ちょっと触っても大丈夫ですか?」
「うん。気をつけてね」
私はラムウ石の表面をそっと触れてみた。
すると、ラムウ石をエネミースコアで交換できるようになったという通知が来た。
これはモンスターが落とす、素材アイテムのひとつだった。
交換レートは五千で、レア度は少し高い。
この素材アイテムを落とすモンスターの出現率は、低めだと思われる。エネミースコアは余ってるからひとつ交換して、テーブルの上にぽんと置いた。
「あれ、ラムウ石が増えたね」
「素材の詳細が気になって、つい買ってしまいました」
どんなモンスターが調べておきたいところだった……が、私がまだ遭遇したことのないモンスターだったので、詳しい情報は得られなかった。
「ラムウ石を落とすモンスターは、どこに出現するのでしょうか?」
「パルトラちゃんは、それを知りたかったのか。えっとね……少なくとも、グレイブ・クローニアには出現しないよ」
「そうなんですか?」
「うん。たしか蛇みたいなモンスターだから、グレイブ・クローニアの近隣にあるダンジョンに出てくるはずで」
「うっ、そんな話を聞いてしまうと、探索したい場所が増えていく……」
「そうだね。シクスオは広いから、いろんなところ行きたくなるね」
「セレネさん、まさにその通りです……。それはそうと、ノアちゃんはまだ来ないのですか?」
「ノアちゃんは、もうすぐ来ると思うよ? ほらねっ!」
セレネが言ってた矢先に、私が設置してある記憶の石像が起動して――。
「すみません。お待たせしました」
ワープしてきた人型のアバターが実体化して、ノアは両目を開けた。
互いに挨拶を穏便に済ませて、本題へと入っていく。
「パルトラ様に、失われた青き水晶の欠片をお返し致します。先日、無事に解析が終わりましたので」
ノアは失われた青き水晶の欠片を、私に返却してきた。
「私が三つ持っていたこのアイテムのこと、何か分かったのですか?」
「はい。失われた青き水晶の欠片は、新たな失われたシリーズを生み出す為の材料となります。ノアの推測では、ラムウ石と組み合わせることによって、まだ知らない失われたシリーズを作り出すことができると思っています」
「新たな失われたシリーズ……合成だったら、セレネさんのところで出来るのですよね……」
「うん。だけど、賢者の石の反応がなかったの」
「反応なしということは、合成ではない……調合は?」
「パルトラちゃん、それもたぶん違うと思うよ?」
「だったら、何だったらいけるのでしょうか……」
「そこなんですが、おそらくパルトラ様の力が必要になってくると思います」
ノアは、何かに期待している様子だった。
調合でも合成でもない。
私に出来るとしたら、モンスターの作成くらいだ。
「最悪、天翔る銀河の創造天使を用いてやってみるしかないか……」
「パルトラ様、ありがとうございます」
ノアはニコッと笑顔になった。最初からこれを期待されているのかと思うと、私には少し荷が重い気がする。
「もしモンスターが出てくるというのなら、襲われないようにパーティーを組んでおこうね」
「セレネ様の言うとおりです。リーダーは念のためパルトラ様にしておきましょう」
「えっ、私ですか?」
「うん。そうだね」
「何卒よろしくお願いしますね」
ノアとセレネの顔が、私の元に押し寄せてきた。
えっと、現在のパーティーを一度解散して、もう一度組み直し……。
セレネとノアが、パーティーに加入した。
これで、パーティーを組んでいる間は、私が放った攻撃魔法に巻き込まれなくなって、作りだしたモンスターに敵意を抱かれなくなった。
「とりあえず、魔方陣を描きますね」
私は適当に黄色い星形の魔方陣を、ダンジョンクラフトの部屋に刻み込んだ。
そして、失われた青き水晶の欠片を合計三個、三角形の先端部分に置いた。
「ふむ、ラムウ石はどうしよっか……逆三角形に置いてみようかな」
私はラムウ石をもうひとつ引き換えると、失われた青き水晶の欠片を置いていない三角形の先端に置いてみた。
そしたら、星型の中心部分に赤い二重丸が出現した。
「やっぱり……アレが必要っぽく思える……」
この場を割り切るしかないと思った私は、スキルを発動した。
天翔る銀河の創造天使――。白き天使の四枚羽が私の背中から生えてきて、シクスオのあらゆるダンジョンが見渡せるようになった。
見渡す必要なんて全くもってないのだけど。いま必要なのは、赤い二重丸の中心部分にエグゼクトロットの先端を突き刺して、魔力を注ぎ込むことだけだ。
なので、スキル発動時の演出が過剰に思えてしまい、ため息が出てしまった。
「はい、これでどうですか?」
元の姿に戻った私は、魔方陣の中心部分でエグゼクトロットを突き刺した状態にいた。
残念ながら、モンスターは出現していない。
代わりに現れたのは、モンスターの名前が付いているコアに似ている、黄色い歯車だった。
私はそれを左手でつかみ取ると、アイテムの名前が表示される。
失われた電気コア。
魔方陣の先端に置いていた合計六つの素材がひとつに合わさり、このアイテムが誕生した。
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