衣装にスキルを付与する
「パルトラ様、到着しました。こちらがスキル付与装置でございます」
ノアが立っている場所は、エンジェルマーケットとなる橋と陸の境目となる場所だった。
そのすぐ横には、手の形が刻まれた石碑が立てられている。
「これがスキル付与装置ですか?」
「そうです。パルトラ様、まずは、手の形に合わせて触れてください」
「こうですか」
私は石碑に手を当てた。
すると、画面が出てきた。
「あとはノアがやりますので、見ておいてください」
ノアは、出てきた画面に触り始める。
「スキル付与、衣類にレアスキル判別、鈴のアクセサリーにスポットライト。ポイントの支払いをして……」
「ノアちゃん、すぐに終わりそうですね……!」
「はい、これで終わりとなります」
ノアが決定ボタンを押して、スキルを付与する作業が終了した。
私に追加されたスキル。
レアスキル判別Lv.1
スポットライトLv.1
新しい衣装を身に着けている時のみ、その効果を発揮する。
「一応、これでレアスキルを持っているかの判別が可能になりましたので、試しにノアのことを見てください」
「ふむ……」
私はノアと顔を合わせる。
そして、私でも閲覧することのできるプレイヤーネームを確認すると、プレイヤーネームの右下に赤い星のマークが付いていた。
「この、赤いマークのことです?」
「そうです。赤いマークがあれば、レアスキルを持っているということですね。そしてレアスキルを二つ持っていると、赤いマークも二つあるのです」
ノアから熱い視線を感じる。
レアスキル二つはきっと私のことだろうと思いつつ、ため息を我慢しながらそっぽを向いた。
そして、空を見上げる。
とても青くて、雲ひとつない景色が続いていた。
「ノアちゃん、今日はありがとうございました」
「いえいえ。ノアも楽しかったです」
ノアは、私の両手を軽く握りしめる。
「ノアは……人と離れちゃうタイミングが来ると、寂しく思ってしまいます」
「シクスオで会おうと思えば、すぐに会えるのに……?」
「そうですね……。この気持ちを抱くことを、すごく変に思ってしまう方もおられますし」
「ノアちゃんは別に変じゃない、普通だと思う! スキルのデメリットを除いて!」
「えへへ……そうですね。それで、いまから吸血衝動が……」
「えっ、やめてねっ!」
「冗談です」
「それなら良かった……」
この格好で、しかも人目が飛び交うエンジェルマーケットでの吸血行為となると、流石に私も速攻で気絶してそうだ。
「えへへ。とりあえず歩きましょうか」
ノアがエンジェルマーケットの外に出たので、私も一緒について行く。
「それで、パルトラ様のお見送りはどちらで」
「セラフィマのギルド内で大丈夫です。風神の和太鼓がありますし」
「和太鼓……ですか?」
「便利なワープアイテムですので」
「ノアの知らないアイテム……興味深いところですね……」
「後でチラ見せするだけなら」
「えへへ、見せていただけるだけでも感謝します」
「私に感謝されても……」
風神の和太鼓に関してなら、一番感謝しておくべき相手はアレイだ。私は、感謝しながら使っているに過ぎないのである。
「それはそうと、天空都市セラフィマのギルドと、ノアちゃんのダンジョンが一体化していることはもう聞いていますけど、どんなダンジョン名になっているのかな?」
「ノアが管理しているダンジョンの正式名称は、セイントキャッスル号となります」
「ノアちゃんのダンジョン、なんか船のような名前ですね」
「大空を飛ぶお城のような船、というイメージが一番近いと思います。出現するモンスターは主に飛行するタイプのものと、スケルトンをはじめとした二足歩行のアンデッドですから」
「飛行するタイプのモンスターか……。私のダンジョンでも、今度バリエーションを増やしてみようかな」
「パルトラ様、どうかされましたか?」
「いえ、単に私のダンジョンのことを考えていただけですよ」
「パルトラ様はダンジョンについての開拓が熱心なのですね。尊敬します」
ノアがニコッと笑うと、足を止めた。
「ギルドに、到着してしまいましたね」
少しがっかりするノアは、ギルドの出入り口となる扉をすんなり開けた。
「パルトラ様のお見送り、ここで大丈夫ですかね……?」
「はい。ノアちゃん、シクスオでまた遊びましょう!」
そう言った私は、振り向くことなくギルドの中に入っていく。
そして、風神の和太鼓をくるくると回した。
†
迷宮神殿オシリスのギルドを経由して、私は自分のダンジョンに帰っていった。
「パルトラ、お帰り」
ダンジョンクラフトの部屋に入ると、フィナが正座して待っていた。
「はい、ただいまです。新しい衣装、どうですか?」
「そうだな。可愛くて……とても似合ってる」
「ありがとうございます! ところで、フィナのほうは何か進展がありましたか?」
「そのことなんだが……突然、有名な冒険者パーティーと連絡が取れるようになったそうだ」
「ダンジョンの攻略が進んだのかな?」
「それが、そうでもないそうだ。いきなり連絡が取れるようになって、皆が不思議がっている」
フィナは、黒き清らかな渓谷というダンジョンで何が起きていたのか、考えている様子だった。
「皆が不思議がる……外部との連絡を取れなくする効果……。フィナの調査で、ダンジョンが荒らされていたとか、そういう変化の情報はありますか?」
「ああ、有名な冒険者パーティーが既に公表しているのだが……荒らされた形跡のある、植物の採取ポイントが複数個見つかったそうだ」
「荒らされた……誰か、もしくはモンスターの仕業でしょうか」
「そう推測しているが、今のところそれだけだ。今のところ実害は発生していない」
「ふむふむ……どこかにメモだけ残しておきますか」
「あたしにも、メモ書きを頼む」
「フィナ、私に任せてくださいね」
調査内容をメッセージ欄に書き込んだ私は、宛先をフィナにして送った。
どのみち、現在の情報だけでは、外部との連絡が取れなくなる現象の解明は不可能だ。
解決策も判明していないので、下手に遭遇することだけは避けたいところである。
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