マーケットでの衣装選び
海の上に浮かぶ島が無数に存在している、天空都市セラフィマ。
その中で一番高い島に、立派なお城が建てられている。
「パルトラ様、到着しました!」
お城の側面に置かれている記憶の石像は、ノアが設置したものだ。敢えてダンジョン内に設置していないのは、ノアちゃんなりの意図があってなのだろうか?
少し気になるところだけど、今はノアについていくことだけを考えておきたい。
「パルトラ様。ノアの記憶の石像がどうしてここにあるのか、気になっていますか?」
「てっきり、私と同じようにダンジョンの中に置いてあるのかなと思ったのだけど……」
「ここだと見晴らしが良いですからね。それに」
ノアはお城の外壁に手を当てる。
「このお城はギルドなんです」
「ギルド……!」
「それだけじゃないですよ。天空都市セラフィマのギルドと、ノアが管理するダンジョンが一体型になっている、ということですので」
「お城が、ギルドであり、ダンジョンでもある?」
「ただ、本日はそちらに用事はなくてですね。向こうのほうに行こうと思っております」
ノアが指をさしたのは、ここからひとつ下にあった浮かぶ島である。
その浮かぶ島には、途中まで続いている橋が掛けられており、たくさんのプレイヤーたちの姿が見受けられた。
「あちらは、天空都市セラフィマの名物となるエンジェルマーケットとなっております」
商人がいかにもたくさん戯れていそうな名称を耳にした私は、少し思い返した。
あの橋の構造は、水の都アクエリアへ行った際に渡った橋と非常に似ている。
「もしかして……エンジェルマーケットでは、戦闘は出来ないようになっていますか?」
「パルトラ様、ご名答です。エンジェルマーケットのエリア内では武器を手に持つことは出来ません」
「やっぱり、そうなのですね」
「なので、主におしゃれの基本となる、衣類をはじめとした物品が多く立ち並んでおります」
「ふむふむ……」
「とにかく行ってみましょう!」
「ノアちゃん、そうですね」
道案内するノアについていきながら、シクスオのおしゃれについて考え始める。
性別や髪型といった見た目に関して変更可能なアイテムが、シクスオには存在しているが、同様に衣類や装飾品といったおしゃれの基本となるものもたくさんあるとは思ってもみなかった。
事前情報として得ていたインターネット上の書き込みでさえ、アイテム一覧表は文面でしか記載がなく、着せ替えといった細かいカスタマイズ要素に関しては記述すら見受けられなかった。
とりあえず、目で見て把握してみないことには何も始まらない。
私の新たな衣装を探す目的。
ノアから送られてきたメッセージには、そう書かれていたけど……良いものが見つかるかな?
それはそうと、目的地である橋に到着していた。
「ここがエンジェルマーケットですね」
商人がたくさんいて、衣類の展示が無数に続いていた。
とても賑やかで活気のある橋の上を歩いていく私は、ノアとはぐれないように手をつないでいた。
「パルトラ様は、お好きな衣装をひとつ選んでください。衣装の交換に必要なポイントは、ノアが全部負担いたしますので、気にしないでください」
「あ、ありがとうございます……」
ノアが気遣ってくれている。とはいえ、ぱっと見た感じではピンと来るものは今のところなさそうだ。
ところで、衣装の試着は出来るのかな?
いろいろ試して、似合っていそうなのを選びたいところだ。
「ノアちゃん視点からみた場合、どういうのが似合うと思いますか?」
「パルトラ様が、お似合いになりそうな衣装は……そうですね……」
ちょっと小難しそうな顔になるノアは、小動物のように首を横に振る。
「どういうものが良いでしょうか。スキルのこともありますし」
「スキル、ですか?」
「そうです。パルトラ様は白のローブを身につけておられるようですが、何もスキルを付与されていないのですか?」
「ノアちゃん、このローブには恐らく何もないと思います!」
「やはり、そうでしたか……。それなら、いまから説明したいと思います」
ノアは、陳列してある衣装のひとつに指をさした。
「シクスオの防具……衣類には、探索基礎スキルと分類されるものを、ひとつだけ付与することができます。その衣類にアクセサリーが付いていた場合なら、これが二つとなります」
「ノアちゃん、衣類にアクセサリーというのは、取り外し不可能な宝石の形をした首飾りとかですか?」
「その通りでございますね」
私が理解できていることを把握したノアは、何度も頷く。
探索基礎スキルというものは、ざっくり言ってしまえばモンスターの位置を把握出来るようになるスキル、持っているだけでプレイヤーのスキルのレア度を参照できるようになるもの、宝箱を見るだけでミミックかどうかの判断が可能となるスキルといったものが該当している。
付けれるスキルが多いに越したことはないが、身につける衣類の見た目に関しては、あくまでおしゃれがメインであって、スキルの強さはそこまで重要視されている訳でもなさそうだ。
「衣装の試着もできますので、パルトラ様が気になったものがあれば、お伝えください」
「ノアちゃん、それはわかっていますけど……」
これが意外と難しい。
お気に入りの衣装がすぐに見つかれば良かったのだけど……うん……?
微かに聞こえたのは、鈴の音色。
振り向いたら、それは私の視界に入っていた。
私のすぐ傍を横切っていった、茶髪の女の子が商品棚に乗せて運んでいる衣装のひとつ。
ロリータ服を連想させる薄紫の吊りワンピースが、私の瞳に焼き付いていた。
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