ボス部屋への到達率
クレイキューブの地下迷宮の最深部に到達したパーティーが、三組も出てきたのである。
一組目は、前衛と後衛のバランスが取れていそうな六人パーティー。
戦闘開始直後に、私が十六の白い隕石を落として全滅させた。
二組目は、それぞれ違う属性の効果をもたらす剣を持ち込んでいた、三人パーティー。
炎の弾でひとりずつ撃ち抜いて終わり。
三組目は、フィナとアレイ。ソルシェイドもいた。
魔法で石化させて終了――。
私がボスらしいことをしているだけ、と言ってしまえばそれまでだけど、クレイキューブの地下迷宮後半に出現するダークスライムの攻略をして、ボス部屋への到達頻度が上がっていたのは事実である。
そして、ダンジョンマスターが頻繁にボス部屋へ出向くとなると、ダンジョンそのものの難易度は適切なのかどうかの懸念も生まてしまう。
「フィナ、ゼリーゴーレムをたくさん作りましょう!」
「そうだな。それで、あたしは何をすれば良い?」
「そうですね……さっきと同じように、人間の型をつくることが必要ですから」
「あたしは、寝転がるだけの簡単なことをすれば大丈夫なんだな?」
「ひとまずは……人間の型を三十くらい用意しましょう」
この部屋の地面が凸凹になるかもしれない。けど、それをやる価値はあると思う。
フィナが地面に寝転がって、私が魔法の膜を使う。
その後、フィナの上に乗って土の表面をへこませる。これの繰り返し。
この作業が、三十分くらい続いた。
「こんなものか」
「そうですね。フィナ、お疲れさまです」
「ああ、パルトラもお疲れさま」
三十個目の人間の型を作り終えて、起き上がったフィナは、風神の和太鼓を手元に用意した。
「ゴーレム作りであたしが出来ることは、これだけだな」
「フィナは、これからどちらに行くのですか?」
「うん。オシリスの街路に、ちょっとした噂が流れていてな。詳しい聞き込みをする」
「噂……どんな内容なのですか?」
「オシリスの南西に、黒き清らかな渓谷というダンジョンがあるのだけど、つい先日、新たな階層が見つかったらしいんだ。そこで、有名な冒険者パーティーが調査に向かったということなんだが、新階層に入ってからすぐに音沙汰なしになってしまったみたいで」
「音沙汰なし、ですか。パーティーが全滅したわけではなさそうですね」
「パルトラの言うとおり、たぶんそうだろうな。シクスオのシステム上、倒されたらリスポーンして、誰かひとりはチャットくらい出来るようになるはずなんだろうけど……まだ誰も外部とやり取りすら出来てないから、探索状況は不明のままらしくてな。有名な冒険者パーティーと仲が良い冒険者の数名が、一切やり取りを交わせていないことが何日も続いているということで、迷宮神殿オシリスのギルド周辺では変な噂まで広まり始めていてだ」
「ふむ……不思議、ですね」
「そうだろ。黒き清らかな渓谷は、パルトラが作ったダンジョンではないから、余計に不穏というか……」
フィナは何かに恐れていた。
目を細め、腕を組み、まるで何かを思い出そうとしている仕草が見受けられる。
「プレイヤーが作ってないとなると、運営サイドで用意したものになりますからね……触らぬ神に祟りなしと言いたいけど、フィナが無理をしないというなら構いませんよ」
「わかった。気をつけて行ってくるよ」
風神の和太鼓を回したフィナは、ダンジョン内の移動を行う。フィナはきっと、ダンジョンの最深部にあるワープゲートを使って、オシリスのギルドへ行くつもりなのだろう。
「それはそうと、外部との連絡を取れなくする……再現性とかは……」
流石に何も思いつかない。
とにかく今は、ゼリーゴーレムを作成したい。
「えっと、土台となる人間の型はできてるから、流し込む作業からしていかないとね」
私は魔方陣を描き、ダークスライムを呼び出した。
それをたくさん。もっといっぱい呼び出して……。
「ダークスライムさん、この中に入ってくださいね!」
私は普段より大きめを意識して声を掛けた。
すると、呼び出したたくさんのダークスライムは、素直に人間の型に入っていった。
各個体が均等になるように入っていくので、やっぱり私のダンジョンにいるダークスライムは賢いのかな。
ダークスライム自身、何も喋らないからわからないけど。
なんとなく、私はその場でお辞儀をした。
「ありがとうございます。では……!」
私はさっきと同じようにブルースピリットを呼び出して、霧を使うよう指示をした。
『マスター、了解ダー』
ブルースピリットは霧を出すと、部屋中が青々しい輝きで溢れかえった。
ゼリーゴーレム。
三十体が完成した。
これを何度か繰り返した後、私のダンジョンに解き放つ。
送り出す場所は当然、現状ダークスライムのみが出てくる階層である。
「……ふぅ。とりあえず五回したから、数は大丈夫でしょう」
手間は掛かったが、これでボス部屋に赴く機会が減れば調整が上手くいったと言えるだろう。
ダンジョンのボス戦をすることも、なんだかなんだ楽しいのだけど、やはりダンジョンそのものの難易度というのは気になってしまうものだ。
なので、新たに作成したゼリーゴーレムというモンスターの存在は、私にとって大きい影響を与えるものとなりそうであった。
「さてと、次はどうしようか……うん……?」
私の元に、メールがひとつ届いた。
送り主はノアからだった。
「三カ国ダンジョンマスター交友会を開催するにあたり、パルトラ様の衣装のことで少しご相談したいことがありまして、今からお迎えに行ってもよろしいでしょうか?」
ノアちゃんが、私のお迎えをするの?
いまはモンスター作成にひと区切りがついたところで、時間には余裕があるけれど……。
私はいま身につけている白いローブに、目を向ける。
「この格好でも戦闘時はじゅうぶん動きやすいけど、やっぱり見栄えを気にしているのかな?」
わざわざメッセージで伝えてきたのには、何か理由があるのだろうか。
三カ国ダンジョンマスター交友会の開催……ノアにとっては大きなお祭りのような気持ちで望みたいのだろう。
この企画自体にセレネが絡んでくるので、大役とまでは行かなくとも何かしら演じることくらいは想定しておかないといけない。
仕方ない、ここは――。
私はメッセージを打ち込んだ。
「やりたいことがひとまず終わったばかりなので、いまからでも大丈夫です」
そのことをノアに伝えてから、合流場所を考える。
やはり、ダンジョンクラフトの部屋が一番手っ取り早いだろう。
メッセージでノアに場所を伝えてから、風神の和太鼓を回して、ダンジョンクラフトの部屋に移動した。
「すみません。パルトラ様、お待たせしましたか?」
私がダンジョンクラフトの部屋に入るほぼ同時のタイミングで、この部屋に設置してある記憶の石像の前にノアがワープしてきた。
「私もいま来たところですし……。時間もたっぷりあるから何も気にしてないですよ」
「それなら、ノアちゃんの余計な心配は不要でしたね。ではでは」
小さな手を伸ばしてきたノアは、私の右腕を優しく握ってきた。
「早速になりますが、天空都市セラフィマに行きましょう!」
ハイテンションなノアの声は、私のダンジョンクラフトの部屋に響き渡っていた。
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