ゴーレムを作成する
ブルースピリットが持つ能力を借りるとしても、まずは土台作りから始めないといけない。
「ゴーレム系は人型で、腐敗してなくて……」
アンデッド系の作成時とは、また違った質感が求められる。
ゴーレム系の素材で考えられるのが、機械か魔法生物である。機械の体は私の手で作成する技術すらないので、後者一択しか考えられない。
ただ、魔法生物を大量に作るとなると、今度は魔力を激しく消耗しそうではある。
「フィナ、ちょっと思い返してほしいのですが……」
「どうした?」
「メルヘンマトンの身体って、どう作られていると思いますか。硬い表面じゃなくて、内側に隠れている動体です」
「パルトラに、どうって言われても……。そうだ、あのモンスターに反撃を受けたとき、腕に弾力が少しあった気がする」
「弾力、ですか……」
「硬いようで、人間のような滑らかさがあってだ」
メルヘンマトンの反撃を受けてド派手に転んだことがあるフィナの感覚は正しいのか、疑問に思うところがあるのだが、きっと腕の動きに関しては見落としてなかったのだろう。
それはそうと、弾力があって身近にいる魔法生物は……。
ダークスライム……ゴーレム作成の素材として使えるのか?
やってみないと何も始まらない。とはいえ、ダークスライムの姿を人型にするには、ちょっと工夫が必要そうだ。
鉄を流し込むのと同じような感覚で、ゴーレム系の身体となりそうな素材アイテムを固めてみることをしないといけないような……。
「あたしが人間のサンプル品になろうか?」
「それは駄目です。フィナの身に何かあってはいけません……!」
「そうじゃない。ダークスライムを固めた際に、人間の形をしたくぼみが必要なんだろ?」
「たしかに……お菓子みたいに型を用意出来れば……」
私は、クレイキューブの地下迷宮のマップ広げて、隅々まで見渡してみた。
ダンジョンには、幾つかの製作部屋がある。その中にたしか、酸の土で埋め尽くしそうになっていた部屋がひとつだけあって……。
人型の型紙、お菓子づくし、フィナ……。
「酸の土の上に寝転がって、人間の形を用意すれば良いのかな?」
「そうだな。流石、パルトラはイメージするのが早い」
「そうかなぁ……?」
フィナが先に思いついていたアイデアを共有した私は、風神の和太鼓をくるくると回した。
行き先は当然、酸の土がある部屋である。
人間の型を作り出すのに大量の土が必要となるのだが、今回使用する部屋にはたくさんの酸の土が既に置いてあるので、これといった問題は今のところないと思われる。
「ふぅ……ここでフィナが寝転がり……」
ワープが終わって酸の土を眺めていた私は、モンスターを作るための手順を見直していた。
人間の型を用意する。
ダークスライムを呼び出す。
ブルースピリットに固めてもらう。
完成。
工程が定まっているとはいえ、上手くいくのかどうか。
「砂浜みたいに柔らかいわけではないから、沈まない」
フィナは仰向けに寝転がるが、沈んでいく気配はなかった。
「それじゃあ、魔法の膜で覆ってみますね。そこから少し沈める感じで」
「ああ、わかった」
「フィナはこれから、魔法の膜によって私の声が聞こえなくなるのであわてふためかないでください。……では、いきます」
私は魔法を放ち、フィナの全身を魔法の膜で覆ってみる。
その後、フィナの身体の上に立って、ぴょんぴょんとなんどかジャンプを繰り返した。
すると、フィナの身体は徐々に沈んでいった。
「これなら行けそうですね」
疲れない程度で程よくジャンプを繰り返し、適当なところで止めた。
「魔法の膜、解除」
「終わったか」
「そうですね。人型は出来ましたので、ダークスライムを呼び出します」
私はエグゼクトロットを取り出し、魔方陣をつくる。
ダークスライムをこの部屋に呼び出して、さっき作った人型の中に入ってもらう。
「パルトラがやっていること、まるでお菓子作りのようだな……」
「き、気のせいです。次いきますよ!」
再び魔方陣を作った私は、ブルースピリットを呼び出した。
『マスター、要件はナンダー?』
「人型の中に入ったダークスライムを固めてもらえませんか。お願いします」
『マカセロダー』
ブルースピリットは、ダークスライムに対して霧を出した。
すると、ダークスライムの表面が結晶化していき、青い輝きを放ちだした。
何が起こっているのかな?
私は静かに見守った。
『オワッタノダー。カラバコニ補充、サイカイスルノダー』
ブルースピリットは、ふわりふわりと飛び去っていく。
「パルトラ、モンスターはどうなった?」
「えっとですね……これは、なんでしょうか……」
胸元に青い渦巻きが描かれている、二足歩行の人型スライム。
色合いはダークスライムと大差ないのだが、私がいままでに見たことないモンスターであることに間違いなかった。
ひとまず、モンスター名を調べてみる。
ゼリーゴーレム。
これは上手くいったというべきなのか、いまいちピンとこない。
見た感じ大人しそうなので、よっぽど変なことをしない限り、暴れたりしないと思われる。
「フィナ、軽く攻撃してみますか?」
「そう言うなら、一撃だけっ!」
白い剣を取り出したフィナは、ゼリーゴーレムに剣先を突き立てようとして――。
「なんだ、これは」
柔らかい表面によって、フィナの一撃は弾き返されてしまった。
「ふむ、魔法はどうでしょうか」
エグゼクトロットを構えた私は、得体の知れない物体を燃やすイメージを抱く。
「宿れ、炎の球体――」
ゼリーゴーレムに対して、炎の弾を放ってみた。
「パルトラ、どうだ?」
「うーんと……これはなんとも……」
ゼリーゴーレムが持っている柔らかい表面によって、炎の弾が止まった。
表面は徐々に焦げていく感じがしたのだが……一定時間停滞したのち、炎の弾はあらぬ方向に飛んで行ってしまう。
「もう一度、同じ場所を狙ってみますね。宿れ、炎の球体――」
二回目の炎の弾は、焦げたところに狙いを定めて解き放った。
すると、今度は炎の弾が弾き返すことなく、柔らかい表面を溶かし切って貫通した。
そして、体力が尽きたのか、ゼリーゴーレムは消滅する。
「ふむふむ……。ゼリーゴーレムは、物理と弱めの魔法であれば弾き返しちゃうので、ダークスライムと同じ階層でのみ出現させるのが良さげかな」
「そうだな。ボスの部屋にたどり着くのが難しくなりそうだ」
「それはそれで、悪いことではないのですけどね」
エグゼクトロットの先端に視線を向けた私は、ここ一週間でのボス部屋の出来事を思い返す。
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