表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/165

説得の試み


「それがどうしたというのか。うぐっ――」


 容赦しない稲妻が、セレネの胴体に傷をつける。

 だが、流石はドラゴンといったところ。私の魔法をまともに受けたにも関わらず、耐えてきた。


「私、あまりセレネさんと戦いたくないのですけど」

「だったら、吾輩はどうしたら良かったのだ?」

「それは、クローニア学園のことはもう手遅れかもしれないけど……。普通の学生として勉強に励んだり、してほしいかなって」

「哀れな……」


 セレネは怒った表情になるも、特に攻撃をしてくるわけではなかった。


 やはり、セレネの心の中には迷いがあるのだろう。

 少しのあいだ、この場が静まり返る。


「だがしかし、吾輩は竜の子孫なり。ドラゴン以外の肉体に呪いを放つ賢者の石は、この手で絶対に守らねばならない」


「賢者の石に呪い……なるほど……?」


 既に結晶化している、私の左腕が気になりだす。

 これはもしかして、肉体がドラゴンではないと、拒まれるということなのかな。

 だとしたら、少し盲点だった。


 ギベオ校長は賢者の石を使っていたが、直接肌に触れることなく……。


 肌身触れるのかは、あまり関係ないか。


 ギベオ校長が結晶化していたのは、ギベオ校長自身がドラゴンではないから。

 そして、呪いを受け続けた成れの果てが、メルヘンマトン。

 一方で、肉体を持っていないであろう精霊は、呪いを受けない存在。


 精霊が放っていた欠片が、もし賢者の石であれば、結晶化していく仕組みとして成立する。

 魔法の膜が結晶化したので、ちょっと不可解なこともあるが。

 是非とも、今後のダンジョン製作に活かしたい知識であることに間違いない。


「うん? 貴様は吾輩を前にして、何を考えていたんだ?」

「なんでもありませんよ。ただ、呪いのことが少し気になって」

「貴様の左腕か。なるほど、賢者の石に触れたか」

「あっ、分かるんですね」


 現状、一切動かない左手をどうにかしたいところではあるが、セレネはこの解除方法をそう容易く教えてはくれないだろう。

 ブルースピリット五匹は、大きく動くような気配はない。

 今のところ待機命令でも出ているのか?

 私自身、エグゼクトロットを持った右手だけで対処できないわけでもないが、いざ動かれると対話どころではなくなるのは事実だ。


「賢者の石の呪いの解除方法を探って、吾輩に勝つつもりなのか?」

「セレネさんを必ずしも倒さなくて良いのです。ただ、私はセレネさんには、自由になってもらいたくて」

「この吾輩が自由? ふざけたこと言わないで!」

「何が駄目なんでしょうか?」

「全てだ。クローニア学園のことは、何もかも吾輩のせいだ!」


 結局、ギベオ校長に踊らされていた。

 セレネはその一点張りで、心に深い傷を負っている。


「全然そんなことないですから……」


 私の言葉に、力強さがなくなる。

 落ち込み続けているセレネを見続けていた私までもが、気が病みそうになってきた。


 でも、決して諦めない。


 ダンジョン設計は楽しい!

 ダンジョン探索は楽しい!

 ダンジョンは楽しいもの!


 私は、自身にそう言い聞かせて、あやふやな気持ちをもみ消していく。


 ところで、セレネは私との時間を楽しんでしたのだろうか。


 教室で怯えており、助けを求めて。

 装置の破壊をして、メルヘンマトンを倒して。

 グラウンドは手遅れだったけど、セレネは無事に突き進めて。

 体育館の地下では、気が病んだけど。

 第一精霊研究所では知恵を披露して。


 その後の隠し通路では、楽しく飛び跳ねて。

 リズムよく。ただ無邪気に。

 セレネと、フィナと一緒に笑った。


 こうして辿ると『楽しい』は、確かに存在するのに。

 そんなことも忘れて、ただ悲しんで。

 怒り狂って、ドラゴンになって。

 そんなセレネのことは、もう見たくない。


 私は、エグゼクトロットを右手で回して、構えなおす。


「セレネさんには、力で示すしかないのですか? 教えてください!」

「ふん、説得を諦めたか。それと――吾輩に、二度も同じ手は通用しない」


 セレネは遠吠えする。


「説得を諦めたわけではありません。ただ、どうしてもセレネさんと戦う道しかないというのならば、こうしてあげるしか出来ないですから……」


 これを言い出した私は、実に未熟だ。

 戦うのは最終手段。それをするということは、セレネにはそれなりに覚悟を持ってもらわないといけないことに……。

 いや、そんなもの、セレネにはとっくに出来ているか。

 だったら遠慮なくやるしかない。


「聖なる花ふぶっ……」


 あれっ?


 詠唱の途中で、エグゼクトロットの先端に魔力が注げなくなった。


 この感覚、魔法を封じられたような……。

 制御装置はフィナがとっくに破壊したはず。だったら、原因はどこにある……? 


「あそこか!」

 セレネの背後、巨大な賢者の石に小さな魔法陣が展開されていた。


お読みいただき、ありがとうございます!!

面白いと思いましたら、感想、ブックマーク、評価をお願いします。作者の励みにもなるので何卒よろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ