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蒼き炎と、黒き結晶の大剣


「三回戦、ですか……」


 セレネがいなくなって、ダンジョンを探索する楽しさはどこへいってしまったのか。

 私の心に残るものは、憎悪だけ。


(あお)き炎、目覚めの旋律。ひれ伏せろ」


 詠唱を終えると、教室の床全域に青い炎が湧き出ていた。


「ほぅ、徐々に俺様の体力を削る気なのか。実に面白そうだ」


 ギベオは怯むことなく、両手を合わせていた。


「黒の欠片と、黒の欠片。烙印調合!」


「同じ素材アイテムの宣言をされると……」

「組み合わせによっては、なんの問題もない!」


 黒い紋章が浮かび上がり、素材アイテムが混ぜ合わさって。


「黒き結晶の大剣だ。ふんぬっ!」


 ギベオは、黒くて大きな剣を構えた。


 ただ、あの装備は……。

 切れ味がそこまでよくないように思える。


「行くぞっ!」


 ギベオは右足を前に踏み込み、こちらに接近してきた。

 私はエグゼクトロットを強く握りしめて、大剣による攻撃を受け止める。


「接近戦は、やはり通じないか」

「それがどうしたのですか?」


 メルヘンマトンのお面は、いつも笑っている。


 憎い、憎い、憎い。よくわからないけど、憎い。

 私の心から湧き出てくるその想いが、青い炎を強めていった。


「ぐっ……」


 ギベオは私との距離をとったけど、無駄である。

 青い炎は、どこまでもついていくのだから。


「やるな。このままだと、俺様の身体が燃えていくばかりだ」


 体力を削られていくことに焦りを覚えはじめるギベオは、スーツを気にしていた。

 でも、よそ見はいけないと思う。

 私はエグゼクトロットの先端に魔力を込める。


「聖なる花吹雪。激しく散り逝き、大地を燃やし尽くせ」


 狙いは、ギベオが身につけているメルヘンマトンのお面だ。

 そのお面を中心に、爆発を引き起こした。


「馬鹿なっ」


「割れた……?」


 お面の表面が、ピンクの花びらとともに、崩れ落ちる。


「ふっ、ふはははは――。そうだ、そう来なくては!」


 ギベオは突然、高笑いしはじめる。


「私、何かおかしいことをしましたか?」


「別におかしくはないが。……時にパルトラ君。俺様が譲った、エグゼクトロットの使い心地はどう思っている?」


「なっ……!?」


 お面が崩れ去ってからの男性声に、私は聞き覚えがあった。

 ギベオという男、もしかして……。まさかの再会に、驚きを隠せない。


「けど、今は敵同士であることに間違いないですね」


「そうだ。だから俺様も本気でぶつかっていくだけだ」

「それなら、私だって」


 燃やし、燃やして、燃やし尽くせ。

 青い炎は、更に勢いが増す。


「ぐっ……」


 もはやその場から動くことすら出来ないくらいには、ギベオの身体を焼いていた。


「まだ、終わらない……」


 ギベオは両手を合わせて、黒い紋章を出す。


「烙印調合。……俺様と、賢者の石!」


 また再生か。いや、ギベオはすでに身体の一部が結晶化している。

 これ以上使うと、結晶で身体が飲みこまれてしまい……。


「この肉体がモンスターと化した時、四回戦に入らせてもらうぞ!」


 とっくに覚悟を決めていたギベオは、黒き結晶の大剣を後方に捨てた。


「更に烙印調合。良質のお肉と、銀の砂時計だ」


 加速する肉体を使った。

 ギベオは、再び私との距離を詰めてきて、全力の一撃を与えようとするだろう。


「四回戦には入らせませんよ!」


 私のエグゼクトロットで、拳をすべてをはじき返す。


 時間が経過すればするほど、青い炎が勢いを増して、肉体が朽ち果てるまで焼いていくというのに。

 まだ足掻くというのか?


「ちっ、はぁはぁ……」


 ギベオはすぐに息切れしていた。

 肉体に負担がかかりすぎているのは、仕方ないか。


 この戦いを終わらせる為に、私は詠唱をする。


「輝く隕石。地を這う汚れし魂に、虚無の刻を与えたまえ」


 ギベオが完全なモンスターとなってしまう前に、決着をつけたい。

 魔法によって教室に出現した隕石は、急速に落下していく。


「うおおおおおおおお!」


 ギベオは、全力で吠えていた。



 勝ちたい、勝ちたい。勝ちたい。



 ギベオは全力でシクスオを楽しんでいる。その気持ち、とても伝わってきている。



 でも、勝つのは私です。



 落下した隕石は破片となって飛び散り、教室全域に波動が伝わった。

 この波動に巻き込まれたギベオの身体が、石になっていく。


「この俺様が、負ける訳にはっ……」


 ギベオは石像になった。

 そして、ギベオがリスポーンしたという通知が流れる。


「ギベオさんは、強かったです」


 固有スキル、烙印調合の使い手。

 流石、タクトの師匠というだけのことはあった。


「そういえば、まだ燃えてますけど、そのうち鎮火していくかな」


 教室に広がっていた青い炎は次第に石へと変化していき、もの静かな空間に戻っていくと思われる。


『パルトラは、メテオライトの宝玉を入手しました』


 その場で棒立ちしていた私に対して、アナウンスが入った。

 ギベオを倒した報酬としてSSRの装飾品を獲得したのである。見た目はグレーの色味をしているが、表面に光を当てると綺麗な輝きを放ちそうだった。


 効果は、補助魔法の効果適用中、体力の消耗を宝玉がすべて肩代わりしてくれるというものだった。


 持っているだけで効力を発揮する。

 現状、私で重宝するシーンというのは、天使の羽を使った補助魔法くらいかも。


 なかなか強い効果だが、水晶みたいな形をしているので、小物として身に付けることは出来なさそうだ。


 これにて決着、と言いたいけど。


 このダンジョンの攻略は、まだ終わっていない。


「セレネさん……」


 気が抜けない私は、賢者の石が置いてある教卓に、目線を向けた。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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