賢者の石と近代的な歴史
「早速だが、授業を始めようと思う。クローニア学園の生徒ではない者がいるが、君の席も用意してあるから、ひとまず座りたまえ」
「あっ、はい……」
指摘された私は、空いていた左側の席に座る。
「座りました。それで、ギベオ校長は今から何を語るのです?」
「賢者の石の基礎知識について、おさらいからやっていこうと思う」
そう言ったギベオは、後ろにあった黒板に近づいていく。
その際、赤黒い宝石が教卓の上に置いてあることに気がついた。
もしかして、あれが賢者の石なのか。
あとで大丈夫だから、私の手で触れておきたい。
「まず、おさらいになると思うが、セレネ君は賢者の石がもつ性質について答えられるか?」
ギベオが指名すると、セレネが立ち上がった。
「合成能力と、再生です!」
「ご名答だ。正確には賢者の石を通じて、合成能力と、再生というスキルが付与される。スキルが付与されることによって、見えている世界を変えていくこともできる」
チョークを握っていたギベオは、黒板に文字を書き始める。
「世界を変える力……」
「そうだ。賢者の石は、それだけの力を秘めているのだと自覚を持つべきだった」
持つべきだった?
ギベオが強調した理由、深い意味合いでもあるのか。
「前振りはこのくらいにしておいて、今回の授業の本題に入っていこう」
ギベオが書いていた文字、それは。
賢者の石を巡って発生した紛争と、近代的な歴史。
言うまでもなく、クローニア学園のことが関与してくるだろう。
「まずは、はじまりの紛争についてだ」
「はじまり……?」
セレネが、まだ入学していない頃のお話なのだろう。
むしろ、設立当初に近い時期か。
今現在は既に何度も代替わりしいてもおかしくないので、ギベオでさえ、クローニア学園にいないのかもしれない。
「はじまりの紛争の内容は、ドラゴンと人間の争いだ」
……リュウノ、タカラ。
私はその単語が頭の中を横切った。
クローニア学園一階で戦った、メルヘンマトンが最初に喋っていたこと。
探している、と言っていたはず……。
「一見ドラゴン側が圧倒的に有利とされていたこの紛争は、人間側の勝利で終わった」
「ドラゴンに、勝ったのですか?」
「そうだ。人間側が勝ったのにはいくつかの要因があるのだが、一番影響力の大きいものは、制御装置だと言われている」
制御装置、ですか……。
それは、クローニア学園の職員室付近に設置されているものか。
稼働中はスキルや魔法を封じ込める力が働いて、私やフィナでさえ、ろくに探索出来そうになかった要素である。
もしかして、あの装置の力はドラゴンにも有効だったりするのかな?
魔法はともかく、スキルを封じ込める力はとても恐ろしいものだと痛感していた。
「少し雑談が入るが、クローニア学園の風紀を守っているあの装置には、賢者の石が用いられている。どうしてかわかるか?」
「はい、ギベオ校長先生。装置の仕組みとして、合成が用いられています」
立ち上がったセレネは、すらすらと答える。
「その通りだ」
「ふぅ……合ってたよ!」
セレネはこちらに振り向いて、微かに微笑んだ。
「その合成についてなのだが、特定の宝石を二種擦り合わせることによって、不思議な魔法を発生させていると、製造した者による説明書に書かれている」
「宝石の擦り合わせ……むっ……」
ギベオが言っていることが正しいことだとしたら、ダンジョンクラフトで、また何か新しい何かを作れるような気がしてきた。
とはいえ、宝石の入手は大変なので、現状では試せる機会がそう多くなさそうである。
「話が脱線したが、本筋に戻そう。人間側の勝利で終わったあと、再び紛争が起きた。二度目の紛争は少々複雑化していてな、人間が勝ったと歴史上では語られているのだが……」
ギベオは、口を酸っぱくしている。
人間が勝ったけど、やり口が非道徳である。
若しくは、裏切りがあったりして人間側が勝ったと言い切れないか。
いずれにしても、紛争と比べて良くない結果であったに違いない。
「まぁ、良いさ。そうやって歴史は積み上げられていくのだから」
ギベオは、深いため息をつく。
歴史は積み重なる。
たとえシクスオの中だとしても、それは同じだ。
「そして、今に繋がっていく。そのとき俺様は気づいてしまった」
その場でチョークを落としたギベオは、真面目に授業を受けているセレネと視線を合わせる。
「どうして、今回の紛争でクローニア学園の生徒がひとり生き残っているんだ?」
突如発せられたギベオの言葉に、思わず背筋が凍りそうになった。
「ふぇ……ギベオ校長先生っ……」
「セレネさん、武器を構えておいてください」
殺気を感じて立ち上がった私は、すぐにエグゼクトロットを構える。
「はいっ……ぐすっ……」
セレネは涙を堪えながら立ち上がり、弓を構える。
賢者の石が近くにあるせいなのか、恐怖感と、変な威圧がある。
「これはこれは、ついうっかりしていた。俺様は普段クールなのだが、時に情が大きく出てしまうことがあってなっ!」
ギベオは、お面越しに笑っていた。
表情は見えないのだが、何か悪いことを企んでいることくらい、余裕で伝わってくる。
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