激闘の先にあるもの
「さてと、お次はどうしましょうか」
残っているのは、ブルースピリット二匹。
『サァ、ワレノイシニシタガエ!』
『サア、ワレノイシニシタガエ!』
ブルースピリットの体内から、白い霧が吐き出される。
これは、姿をモンスターに変形させてしまう危険な攻撃だ。
「セレネさん、とりあえず着地します。距離は少しありますので、なんとかなるでしょう」
「それで、わたくしは何をしたらよろしいのですか?」
「弓を用意しておいてください」
手先に魔力を込めた私は、エグゼクトロットを両手で握りしめる。
「では、魔法の膜を張ります!」
私は、大きめの薄い膜をつくる。
これで、耐えしのぐことは出来るだろう。ただ、問題はここからである。
白い霧に晒された魔法の膜は、水晶のような色合いが出て、表面が硬くなってしまった。
「やり過ごしは出来そうなところですけど」
「パルトラさんと、閉じ込められちゃいましたね」
「そうですよね。とりあえず表面が堅いのかどうかくらいは把握しておいて」
エグゼクトロットで、水晶になってしまった表面を叩いてみる。
――が、手応えはなし。
結晶の壁を、叩いても、叩いても、決して崩れていくことはなかった。
「メルヘンマトンが防ぐのは物理攻撃、だったはずですから」
魔法を当てれば、水晶の壁は崩れていく。
そう踏んでいた私は、この状況を打破できる一手を想像する。
「ブルースピリット二匹はここから見えていて……」
結晶になってしまっていた膜の純度が高いので、ぼんやりとだが周囲を把握することは出来ている。
問題は、攻撃手段。投擲して届く距離であるが……。
「セレネさん、片手剣をここに持ってくることは可能ですか?」
「あっ、出来ますよ!」
セレネは魔方陣を作り出して、メルヘンマトンのお面に刺した片手剣を足元に持ってくる。
「それじゃあ、セレネさんは弓を放ってください」
「弓ですか、わかりました!」
セレネは結晶に向かって弓を構える。
「発射します!」
白い魔法の弓が放たれて、結晶にぶち当たる。
すると、内側からヒビ割れしていき、結晶は完全に崩れさった。
『グエッ――』
エグゼクトロットを投げた私は、ブルースピリットを一匹仕留める。
『グエッ――ト』
もう一匹は、片手剣を投げて仕留めた。
セレネの片手剣は、ブルースピリットが放っていた氷のレーザーに晒されていたので、少しひんやりしたものの、投げるのには問題なかった。
『ニゲロ、ニゲロ』
『キケン、キケン』
二匹のブルースピリットは、残像を出して復活していた。
だがしかし、すでに戦意消失しており、この場から逃げていくだけであった。
これにて戦闘終了である。
出していると体力を消耗し続ける天使の羽は、一旦しまっておこう。
それと――。
『失われた青き水晶の破片』を二つ獲得しました。
流れてきたログにより、アイテムドロップの確認が出来たのである。
これはつまり、ブルースピリットを倒せていたということを意味する。
倒したブルースピリットがすぐに再生されたように見えていたのは、その場で即復活するようになっている以外に考えることが出来なかった。
もし、そのような性質が本当にあるとしたら、ダンジョンにて、宝箱の中身を補充させる仕事の適性を持っているということに。
欠点は物理攻撃に弱いことなので、そこはなんとか調整したい。
「あれは……」
エグゼクトロットを拾い上げた私は、鉄の扉が視界に入っていた。
とても気になる。もしかして、ここが……。
「セレネさん。賢者の石を保管しているのは、この先でしょうか?」
「そうです。扉、開けますね……」
セレネは、鉄の扉の表面に手を当てた。
「基本的に部外者には反応しないのですが、先生や生徒であれば……」
鉄の扉が横方向へスライドした。
「行きましょう」
セレネが先に通路へ入っていったので、見失わないようついて行く。
この先に賢者の石があるということは、恐らく元凶をが潜んでいる可能性が高いということ。
いつでも戦闘に入っても大丈夫なように、心づもりしておく必要がありそうだ。
「そういえば……。わたくしって、剣と弓のどちらを持っていたほうが良いですか?」
指を口にくわえかけていたセレネが、訪ねてくる。
「弓でお願いします」
私は即答する。
すると、セレネは弓を握りはじめる。
この先で戦闘が発生するのかわからないけど、いつでも武器を使えるように準備してくれていたほうが安心感をもてる。
「それで、えっと……普通に授業するところ……?」
通路を抜けた先には、窓のない教室が存在していた。
そこには、教室用机と椅子が二つずつある。私と、セレネが座るために用意されたものだと思われる。
「パルトラさん、ここが精霊魔法総合研究所にある教室ですが?」
首を傾げるセレネは正直に答える。
可愛げのある仕草を意識してなのか、セレネの顔はにこやかだった。
あとは、メルヘンマトンのお面をつけた、スーツ姿の黒髪男が教卓の近くに突っ立っていた。
「この御時世だし、俺様が賢者の石についての特別授業をしてやるから、二人とも座りたまえ」
「セレネさん、あれは誰ですか?」
「あの方は、クローニア学園を統括する、ギベオ校長先生です」
「ギベオ校長……クローニア学園にて一番のお偉いさんですかね」
「はい、そうです。それにしても、ギベオ校長先生が何故ここにいるのか……」
すでに着席していたセレネは、この場に違和感があることを自覚していた。
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