立ちはだかる精霊《ブルースピリット》たち
たとえ頭数が増えたとしても、対処法はあまり変わらないだろう。
片方のブルースピリットに狙いを定めた私は、エグゼクトロットを投げる。
『ウ、ヨメタ』
地面に溶け込んでいたメルヘンマトンが、急に浮き彫りになった。
そのメルヘンマトンは腕を伸ばし、ブルースピリットを庇うような姿勢になる。
「あっ、エグゼクトロットが……」
「弾かれましたね」
奇襲攻撃が失敗に終わった。
それだけじゃない。さっきの攻撃によって危険を感知したみたいで、ブルースピリット二匹がこちらを警戒していた。
『キケン、キケン』
『ハイジョ。ハイジョする』
ブルースピリットは、青い魔方陣を展開していた。
「とにかく、降りますよ」
「パルトラさん、わかりました!」
急いでこの場から離れるように、指示を出した。
『ハッシャ、ハッシャ』
『ハッシャだ、ハッシャする』
ブルースピリットの魔法は、直進上に放たれる氷のレーザーだった。
これまでに出くわしたブルースピリットたちと比べると、この二匹はとても攻撃的である。
「宿れ、炎の球体!」
落下していく私は、メルヘンマトンの顔を狙って、炎の魔法を放つ。
『サセナイ、サセナイ』
今度はブルースピリットの片方が庇いにいき、炎の弾を受け流した。
「おっ……防ぐとは、やりますね」
つい、驚いてしまった。
そして、見落とす。もう片方のブルースピリットを――。
『テキダ、テキがいる』
「わたくしが相手ですよ!」
『ハイジョ。ハイジョする』
どうやら、セレネに意識が向いていたみたいなので、私への追撃はなかった。
状況はよくないが、完全に崩された訳ではない。
地面に両足をつけた私は、付近に転がり込んでいるエグゼクトロットに駆け寄った。
その後すぐに拾い上げて、武器を構えなおす。
「パルトラさんの攻撃を連携で対処するあたり、凶暴性がありますね。やはり、賢者の石が近いからでしょうか?」
「おそらくは、そうでしょうけど……。セレネさん、あのモンスターたちを倒すために、協力してくれますか?」
「当然です!」
私も、セレネも、全力で戦う覚悟は出来ている。
物理攻撃がほぼ通じない、メルヘンマトン。
魔法を受け流す、ブルースピリットが二匹。
苦手なタイプで攻撃しようとすると、互いに庇い合って耐え凌いでくる。
『コオレ、コオレ』
『カチコチ、カチコチだ』
ブルースピリットが作り出す魔方陣から、氷のレーザーが飛んでくる。
横方向へ逃げれば回避できるが、戦況を打破する方法を考えるだけの時間は与えてくれなさそうだ。
『ダイチヨ、ヒビケ。ヒビキタマエ――』
両腕を大きく振りあげたメルヘンマトンは、大地を揺らす動作に入る。
「白き翼よ、我に聖なる加護を与えたまえ」
詠唱した私は、背中に羽を生やして空中に飛び上がる。
「イク――」
水晶で覆われた両腕で地面を叩きつけると、グラグラと大地が揺れた。
「ひゃわっ!」
バランスを崩したセレネは、その場で尻餅をついてしまう。
「いたたっ……あっ……!」
急接近していたブルースピリットが、セレネに追い打ちをかける。
『ハッシャ、ハッシャ』
『カチコチ、カチコチだ』
魔方陣が作られる速度が、思ったより早い。
「セレネさん、こっちです!」
全速力で飛び込んでいく私は、セレネに向かって手を伸ばした。
「えっ、パルトラさん!」
セレネの左手が地面から離れたので、エグゼクトロット持っていなかった私の右手で片腕を掴み取り、上空へ退避した。
その直後、氷のレーザーによって床の一点が凍てついた。
「ふぅ……助かりました」
間一髪のところで、氷のレーザーを避けれた。
それにしても、どうしたものか。
上からモンスターたちを眺めてるが、何も解決策が思い浮かばない。
『コオレ、コオレ』
『ハッシャだ、ハッシャする』
ブルースピリットが魔方陣を展開して、また氷のレーザーを撃ってきた。
訂正だ。単に相手するのが面倒なだけかも。
横方向へ軽々と避けた私は、徐々に低空飛行に切り替える。
「セレネさん、剣を構えれますか?」
「はい、出来ます!」
宙ぶらりんの状態であるセレネは、右手に持っていた剣の先端をチラッとみる。
「合図をしたら、片手剣をお面に突き刺して一旦手放してください」
「はい……?」
「お願いしますね?」
「わかりました!」
セレネが頷くのを確認したら、私は低空飛行を維持して、メルヘンマトンに接近する。
『ダイチヨ、ヒビケ。ヒビキタマエ――』
両腕を大きく振りあげたメルヘンマトン。さっきと同じ挙動である。
もっと近くに、ゼロ距離を狙う。
「セレネさん、今です!」
「はいっ!」
セレネはメルヘンマトンのお面に、片手剣を突き刺した。
その直後、腕を振り下ろしてきた。
大地が揺れるが、私とセレネは空高く飛んでいたので影響を受けなかった。
『ハッシャ、ハッシャ』
『ハイジョ。ハイジョする』
二匹のブルースピリットが、こちらの位置を感知して魔方陣を展開してくる。
これも予想通りの挙動である。
ただ意識するとしたら、飛行位置の微調整くらいか。
できるだけ確実性をとりたいので、できるだけメルヘンマトンに近づいておきたい。ただ、私は右手でセレネを抱えているので、あまり無理に詰めることは出来ないだろう。
「でも、ここで勝負に出ないとね!」
私は、急降下し始める。
「ひゃわーっ!」
「ごめんなさい。ちょっとのあいだ、振り落とされないよう頑張ってください」
「わ、わかりましたあああ――」
セレネにとっては、ジェットコースターと大差ないような激しい動きになると思った。
でも、今回の敵の強さを考慮すると、大胆さはこのくらいは必要でもおかしくない。
むしろ、ここまで低く見積もっていたかもしれない。
もしかしたら、気にするだけ無駄なのかも。
急降下し続ける私は、メルヘンマトンのお面に目がけて突き進んた。
『コッチガ、アイテカ?』
「相手? それはごめんなさいね!」
『コトワリ? ナゼッ――』
メルヘンマトンが喋っていると、氷のレーザーが飛んできた。
『ウゴ、カチコチダ』
予め刺しておいた片手剣から冷気が伝わって、メルヘンマトンの顔が凍てつく。
「上手く行きましたね」
「おおっ。パルトラさん、凄いです」
一方で私たちは、横にずれることによって、氷のレーザーの標的から免れていた。
連携プレイを逆に利用させてもらった。
これによって、メルヘンマトンは身動きがとれなくなった。
『オ、オノレ……! ワレハ、ヤブレタリナド……』
いや、魔法は弱点か。氷のレーザーを受けたことによって、水晶の腕が徐々に崩壊していっている。
メルヘンマトンが消滅するのは、時間の問題だろう。
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