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隠された金属の通路


「さっきの話に戻りますが、研究所が三ヶ所あると伝えましたよね? 実はクローニア学園には、第四の研究所があってですね、そこは精霊魔法総合研究所というの!」


 緩やかな下り坂が続いていく金属の通路で、私たちの先頭に立っていたセレネは、とてもイキイキしていた。


 これから行くのは、精霊魔法総合研究所という場所。

 施設の名前に総合と名付けられているのだから、先ほどの個室とは違って、きっと規模が大きいのだろう。


 そこに賢者の石がある。

 無事だといいけど。


 トントントン――。


「これ、わりと好きでして」


 セレネは、普段以上にかかとを踏むのを強くしていた。

 金属の上を歩く際になる音が、どことなく気持ち良いのだろう。


 トントントン。

 トントントントン。


「これを聞いていると、嫌なことなんてすぐに忘れられるのに……」


 トントントン――。

 トントン。


「私も加勢しましょうか?」


 トントントン。

 トントントントン。


 たしかに、これをやっていると嫌な物事くらい勝手に忘れていきそうだ。


「フィナもやってみます?」

「ああ、そうだな」


 トントン。

 トントントン。


「たしかに、病みつきになりそうだ」


 フィナは楽しそうに足踏みする。


 トントントン。

 トントントントン。


 トントン。

 トントントントントン――。


 これは楽しい。


 金属の踏みつけが、楽しくなってきた。

 やる度に病みつきになって、前に進むことが出来なくなるかもしれないけど、つい何度もやってしまう。


「そろそろ、進みましょうか。少しはスッキリしましたので」


 大きなため息を吐いたセレネは、自らの心を落ち着かせようと意識を持っていた。


「そうですね。施設までどのくらいの距離がありますか?」

「うーんと、この道は先端は行き止まりになっていて、ワープゾーンがあるから。歩く距離はそんなにないですね」

「行き止まりだなんて、厳重だな」


 フィナは、クローニア学園のセキュリティの厳重さに関心を抱く。


 でも、私はそうは思わない。

 問題があるとしたら、ワープゾーンで、セキュリティを入れていることか。

 待ち伏せ……というよりかは、そこにいる者が既に襲われてモンスターになっているパターンが容易く想像出来てしまう。


 念のため、ワープゾーンまで来たら、武器を構えなおすのが無難かも。


 トントントン。

 トントントントン。


 もう暫くは、金属の音を楽しみながら、進んでいくことになりそうだ。


 トントントン――。

 トントン。


「ここで、行き止まりです。えっと……」


 セレネは下を向いて、薄っすら見えていたワープゾーンの印を確認していた。



「まだ使えそうですね」

「それなら、行きましょうか」

 私は、エグゼクトロットを握りしめる。


「セレネさん、フィナ、念のために武器を取り出しておいてください」

「はい。その通りですね」

「あたしも、準備万端だ」


 セレネは弓を持ち、フィナは白い剣を取り出す。


 この先にある賢者の石を巡って、今回の紛争が発生している。これまでに受けていたクローニア学園の被害規模と、ブルースピリットが逃げた先として相応しい隠れ場所を考慮すると、ワープした先が敵陣の本拠地になっている可能性が大である。


「持ち物よし、では行きます。いざ、精霊魔法総合研究所へ!」


 私が一番最初に、ワープゾーンへ踏み込んでいく。

 続いてセレネ、最後にフィナが入る。


「ここが、精霊魔法総合研究所?」


 赤い煉瓦の壁に覆われた、薄暗い通路が続いていた。

 幸いにも、ワープゾーン周辺にモンスターの気配は感じられなかったが、油断しないように。


「まずは、どこに向かえば良いのか……」

「えっと……賢者の石はね、ここよりもっと下の階層にあります」

「もっと下のほう? それなら授業するのさえ、大変そうに思えますけど」

「パルトラ、ここって研究所だから、そんなものじゃない?」

「時間割とか気になってくるのですが……」

「それは気にならなかったかも。賢者の石を使った授業の日は、他の科目の授業はないから」

「なるほどです」

「あとは、寝泊まり出来るようになっているかな? わたくしは、まだ一度も利用したことないけれど、賢者の石を使った授業は数日間行われることもあって」

「賢者の石って扱うだけで大変そうだな」

「それはそうと……」


 地面には時々、水晶の破片が落ちている。

 ひとつ拾い上げてみようかな。


『失われた青き水晶の破片』を獲得した、というメッセージが入る。


 この素材アイテム……。

 ブルースピリットがもつ発色と、とても似ている。


「とにかく、進みましょう」


 戦闘が発生するとしたら、ブルースピリットがいることを考慮しないといけない。

 そうすると、ここは私が先頭に立って動くしかない。

 いつでも魔法の膜を張れるように、心の片隅で意識しておく。


「二人とも、慎重にお願いしますね」


 そうお声掛けもした。

 足音をできるだけ立てないように……。私たちは、淡々と歩いていく。



 やがて、見晴らしのよい広間へとたどり着く。


 幾つかの通路が伸びていて、上り階段と、下り階段がある。


「ここから下に行けば、賢者の石がある場所に近づくのですね?」

「そうですね。ただ……何か、います……」

「敵だな」


 階段の上から覗き込むと、ブルースピリットが、飛んでいた。


 数は、二。ではなく、三である。

 遠距離から仕掛けてもよさそうだが、いや駄目だ。


 初めてブルースピリットと戦った際に、私は二つの魔法を使ったが、どちらもブルースピリットに効き目がなかった。

 逆に、エグゼクトロットを投げた攻撃で、あっさり破壊することはできた。

 すぐに再生してしまったけど、ブルースピリットに対しては、物理が有効打とみて問題ないだろう。


「さて、どうしますか?」


 一応、ブルースピリットの情報を、この場にいる二人と共有しておく。

 その上で、強行突破を試みるか、別の手段を考えるか。


「あの、すみません。ひとつ思い出しました」


 セレネが指さしたのは、私たちが通ってきた道とは別の通路。


「あの先に、星のように煌めく水晶を保管しているのを思い出しまして。先にそちらを確かめに行きませんか?」

「賢者の石を放置するのか?」

「フィナ、ブルースピリットが下の階層にいる時点で、賢者の石がすでにマークされているということに変わりなくて。私とフィナがここへ来た、本来の目的を忘れましたか?」

「あたしたちの目的は、精霊のスカウトと、星煌めき水晶を探すことだが……あっ……」


 口に出してみたフィナは、ピンと来た。


「もしかして、あたしたちが探している素材アイテムがそこに?」

「恐らくは、そういうことです」

「うむ……。パルトラが、そう言うのなら……」


「はい、ありがとうございます!」


 すこし背伸びした私は、フィナの頭を撫でてみた。

 これといって嫌がる様子は見せなかったので、不満はないのだろう。


 あとは……何だか微妙に誘導されている感が否めないのである。通路の先に罠が仕掛けられているかもしれないけれど、今はセレネの意見に従って進むべきだ。

 引き続き、大きな足音を立てないよう気を付けて進んでいく。


お読みいただき、ありがとうございます!!

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