いざ、水の都アクエリアへ
「フィナ、この先にいるのは……」
「大半は商人だよ。橋の上では戦闘禁止だから、代わりに盛んになる文明があるんだ」
「へえ、そうなんですね」
橋の上に足を踏み入ると、私の背中に出しっぱなしだった白い羽が消滅する。
プレイヤーを有利にするバフが、強制的に切れたのである。
「掘り出し物とかあるかもだし」
「そうですね。……ただ、いまはお買い物という気分ではありませんので」
「ここを渡りきると、水の都アクエリアだからな」
「フィナ、わかっていますから」
国境を越えれば、フィールドに出現するモンスターの種類が大きく変化する。
念入りの準備をするなら、ここでしろ。ということなのだろう。
「そういえば……どうなっているのかな……」
興味を持つ私は、橋の隅っこ寄るよう移動した。
橋の隅っこはレンガが積まれている。高さは程々なので、そこから下の方向へ覗きこむこともできるようになっている。
いざ、見下ろしてみると、砂の滝が広がっていた。
落ちれば無の世界。うっかり踏み外すと、橋の上にリスポーンしてしまうだろう。
「これ全部、酸の土でしょうか?」
「そうだろうな。これを絶景と呼ぶべきか」
「うん、次行きましょうか」
私はさっさと橋を渡りきることにした。フィナは少し欠伸をすると、商人が寄ってくる。
その商人は商売繁盛しているのかなと思ったのだが、そうでもなさそうだ。
何故か話しかけられなかった私と距離が少し離れてしまったが、問題はない。フィナがキッチリと断りを入れてから、駆け足で私の元に向かってきた。
「何をおすすめされましたか?」
「あの商人は、ポイントでは買うことのできない回復アイテムを出してきた」
「回復アイテムって、もっとたくさんの種類があるのですね」
「ポイントで買えるもの以外は、回復させるというよりかは身体強化するものが大半だけどな」
「強化魔法が使えない環境なら、重宝しそうでしたね……」
「システムの都合上、仕方ないかと。シクスオに無いのは回復魔法だからな」
「回復魔法が存在しない……?」
「気づいてなかったのか?」
「そ、そうですね……つまり、それだけでアンデッドって倒しにくいのかな……」
「いや、そうでもないかもしれないな」
「どんな方法がありますか?」
「投げてダメージを与える系のアイテムとかあるし。毒が入った瓶とかだな」
「ふむふむ、私のダンジョンでは使われた形跡のないものばかりですね」
「調合しないといけないから、攻撃系のアイテムはそこそこ貴重だよ」
「貴重なアイテム、気が向いたら手に取ってみたいかも」
「そうだな。――そろそろ、渡り終えるかもな」
「そうですね。いよいよです」
フィナと雑談しているだけで、あっという間に橋を渡り終えてしまった。
「ここから、アクエリアですね!」
無事に国境を越えた私は、大きく深呼吸する。
フィールドのあちこちに水たまりがあって、とても清らかだ。
吹いてくる風に水気があるのか、とても涼しい。この場にいるだけで、気持ちがどんどん潤っていきそうだ。
「どんなのがいますかね……?」
遠目で黙視する私は、エグゼクトロットを手に取る。
周囲にはカエルのような形をしたモンスターと、空飛ぶクラゲがいた。
試しに戦ってみようかな。
そう思った矢先、フィナが私の腕を掴んできた。
「目的のダンジョンに行くまで、戦闘を控えてもらったほうが」
「どうしてです……?」
「他のプレイヤーたちに、注目されているからだよ」
警戒心を持っていたフィナは、フィールドマップを広げて戦況を把握していた。
「来るなら、別に返り討ちにするだけで……」
数人で出来たグループが複数あり、それら全てが私に向かって進んできているのが、画面から見てとれる。
こちらに接触を図ろうとした動きは、興味を持っているからなのだろう。
それが複数あるとなると、ちょっと相手にするの面倒と思う。
「接触される前に、ダンジョンに潜っちゃうか」
「そうですね。海殿――グレイブ・クローニアでしたっけ?」
「そうだよ。ここから南に行くと、入り口のワープゾーンがあるはずだ」
フィナは私の腕を強く握りしめて、駆け足で移動しはじめる。
私はフィナに抵抗されるがまま、案内される。空気が潤っているので、とても走りやすい。
動くこと数分後――。
目的地には大きな池があった。
その池には、池の中心部分へと続いていく長方形の足場があって、古びた四つの柱が立っている不思議な地形が見えていた。
「あそこに、入り口ありますね」
柱で取り囲んでいるのが目安だ。私は長方形の足場を渡って、ワープゾーンを踏みにいく。
すると、ワープゾーンが青く輝き、意識が一瞬だけ飛んだ。
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