レアモンスターを討伐します
「エネミー判定はオフにして……」
迷宮神殿オシリスのギルドに到着した私は、ステータスを確認した。
クエストを受注して出発すると、しばらくフィールドを歩くことになるので、冒険者として必要だと思うアイテムを手元に揃えておきたいところだ。
「パルトラは、ポイントを所持してなかったか……」
「私にあるのは、エネミースコアのほうですね」
「うむ……回復アイテムはあたしのほうで用意するので、個数を言ってもらえれば……」
「では、お言葉に甘えて。体力を回復させるアイテムを三つほどお願いします」
「スタミナポーションが三つか。他には傷口を癒やすライフポーション、疲労した後でも魔力の回収率を上げるメンタルポーションがあるのだが、本当にそれだけで大丈夫なのか?」
「あっ、回復アイテムはフィナに投げる用ですね。アイテムを必要とするラインまで体力を消耗してしまうつもりなんて、私にはありませんので」
「パルトラは魔法使いだから、アイテムなんて必要ないということか」
「理解して頂けたでしょうか?」
「ああ、よくわかった」
主旨を理解したフィナは、体力を回復させるアイテムを三個渡してくれた。
「ありがとうございます。それでは、クエスト受注しましょう」
「パルトラ、もうちょっと待って。あと聞いておきたいのは、一定数集めたポイントで武器ガチャ10連も出来るけど必要かな?」
「私には必要ないと思います。フィナ、行きますよ」
気がそわそわしている私は、受け付けのお姉さんに話しかける。
「あの、すみません。クエストの一覧表をみたいのですけど……」
「パルトラ様、フィナ様、お疲れさまです。クエストの一覧はこちらになります」
受け付けのお姉さんは慣れた手つきで一覧表を表示させる。
「ええっと……」
今回は、国境付近にできるだけ近いところで発生するクエストを選ばないといけない。
「あっ、これ良いかも」
私は直感で、とあるクエストを受注したいと思った。
「何かあったのか?」
「マップ内のレアモンスターを討伐するクエストですね。レアモンスターはフィールドで探し尽くすよりも、こちらで確実に戦闘を行うほうが手間も掛からなさそうで」
「確かに。そう思えるなぁ……」
「それじゃあ、行ってみましょう」
私は早速、クエストを受注する。
「今回受けられたクエストに出現するレアモンスターは、ジャンボダンサーという名前でございます」
「はい。討伐、頑張ります!」
私とフィナは、ギルドに出現したワープゾーンを使い、水の都アクエリアとの国境付近まで移動した。
「あのさ。受付の方は、ジャンボダンサーって言ってなかったか?」
両足を震えさせるフィナは、人型のモンスターの威圧感に耐えるのがやっとだった。
「たしかに、そう言ってた気がしますけど」
ジャンボとついてるからどこかしら大きいとは思っていたのだが、想像以上だ。
ガイコツの頭がでかい。腕が図太い。持っている剣が振り下ろされると、間違いなく町がひとつ壊れるだろう。
『コホン。……貴様らが、挑戦者か?』
ただ、このモンスターは好戦的ではないのが救いなのかもしれない。
私がダンジョンで作り出していたグールを百五十倍くらい大きくした身体であることは間違いないが、どんなに大きくても倒しやすさが変わらないのも事実だろう。
「そうです。……が、早速お片付けしてしまいますね」
私は、持っていたエグゼクトロットに魔力を込める。
「白き翼よ、我に聖なる加護を与えたまえ」
詠唱を終えると、私の背中から白い天使の羽が生えてきた。
いま使ったのは、自身の身体能力を強化する魔法である。その影響を受けた私は、とても軽やかな気分になっていた。
「パルトラ……?」
「ちょっと行ってきます」
私は軽々と両足を浮かせると、ジャンボダンサーの身体をひと目で一望できるところまで浮上した。
「ここまで行けると、あとは……」
ジャンボダンサーって結局はアンデッドなのかな?
もしそうなら、ひとつ試したいことがある。
「フィナ、私に向かってライフポーションを投げてください」
「わ、わかった!」
足元に小さく見えるフィナが、全力でライフポーションを投げた。
多少コントロールがズレるのは、私で調整すれば良い。
私はエグゼクトロットを両手で握りしめると、大きく振りかぶり、全力でスイングをした。
「いっっっけけけけけぇぇぇぇぇ!」
エグゼクトロットとフィナが投げたライフポーションが接触して、中身がジャンボダンサーに降りかかった。
『ぐおおおおおぉぉぉぉぉ!』
ジャンボダンサーはライフポーションによって浄化されて、消滅してしまった。
その直後、クエストをクリアしましたという通知が来た。
報酬の二万ポイントが私とフィナにそれぞれ入り、ジャンボダンサーのドロップアイテムと思われる、闇に染まらない大きな剣をひとつ手に入れた。
「フィナ、クエスト終わりましたね!」
「ジャンボダンサー……。レアモンスターとはいえフィールドでのエンカウントだから、冒険者が倒しやすいように設計されていたな」
「そ、そうなのですか?」
「とにかく、戦闘お疲れ様だな」
「はいっ……!」
フィナとハイタッチを決めた後、私は周囲を見渡した。
この後、直接アクエリアに向かいたいところである。
「フィナ、ここからどの方角に進めば良いのかな……」
「うん、あっちのほうだ」
フィナが示した方角に目を向ける。
まだまだ草木が生い茂っている草原が続いているのだが、途中で陸地が途切れていた。
隣の国へは、どうやって行くのかな?
フィナだったら、詳しいことを知っているのかも。
「パルトラは知らないか。国の境界線には橋が掛けられていて」
フィナは進む方向を変えようとしていた。
「橋を渡る必要があるということですね」
「そうなる。着いてきて」
「はい……わかりました……!」
ここからは、フィナが先陣を切って進むことになりそうだ。
私はフィナの背中を見つめつつ、歩いていく。時々周囲を警戒するが、モンスターは愚か、他のプレイヤーの姿すら見受けられなかった。
見晴らしの良い草原なのに、どうして殺風景のように感じられるのだろうか。
息を呑む私は、少し不安になってしまう。
しかし、その不安もすぐになくなった。
橋が見えてきた。その橋が見えてきたくらいに、プレイヤーたちの賑やかそうな声が徐々に聞こえはじめていた。
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