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世界樹のダンジョンに潜むモンスターたち


「みゅー。分かれ道ですね」


 そう言ったアマノハクが、足を止める気配なんてなかった。

 下っているのは一方向のみで、振り向けば登り方向が二つ。


 このダンジョンは上に行けばボス部屋があるので、下るのが正解ルートだと思われる。


 モンスターの姿も、上方向には見当たらない。


「アマノハクさんには迷いがないですね……」


「みゅー? そうでもありませんよ」



 アマノハクが遂に足を止めた。

 黄色い蜘蛛と、ふわふわと浮かぶ植物の種に赤みのある綿毛がついていたモンスターが立ちふさがる。


「イエロースパイダーと、シードボムスだね」

「みゅー。ボス部屋周辺に出現するモンスターの中ではやや弱い部類ですが、厄介なことに変わりありません」


 モンスターの姿をしっかりと両目で観察するアマノハクは、気を引き締めていた。


 黄色い蜘蛛はそれほど動きは早くなく、苦戦はしなさそうである。

 一方で、植物の種のモンスターはいかにも爆発しそうな雰囲気が漂わせていた。


 訓練想定だとしたら、間違いなく悲惨になりそうだ。

 今回の場合、進めば進むほど訓練として適性な強さのモンスターに出会いやすくなるのだが、アマノハクとの冒険はまだ始まったばかり。


 そう簡単にやられない為に、アマノハクが本気を出す良い機会でもある。


「みゅー。ここは固有スキルを発動します!」


 両手を広げたアマノハクの前身から、魔法のヴェールなるものが湧き出てきた。

 ヴェールは青く波打ち、強い魔力の流れを感じ取れた。


「世界に在りし数々の原子たちよ。拙者の声に耳を傾けたまえ」


 アマノハクの身体を中心に、赤、青、黄色、緑、白、紫。様々な色の球体が宇宙の星屑のように広がっていく。

 まるで空白の泉の煌めく景色を見ているような気分になる。


「固有スキル、元素精霊の降臨――です!」


 アマノハクが解き放ったのは、精霊だった。

 それも一つや二つ程度ではない。小さな精霊が手を取り合って、変幻自在に変わり、テーブルナイフのような細くて鋭い刃となってモンスターに容赦なく襲いかかる。


 精霊の力はそれだけではなかった。

 たくさんの球体が目の前のモンスターを取り囲み、動きを止める。


 その後、黄色い蜘蛛と植物の種のモンスターは八つ裂きにされた。 


 元素が持っている性質をも利用されており、爆発することさえ許されない。



「これが、アマノハクの固有スキル……あれっ……」


「みゅー? パルトラさん、どうされたのです?」


 困惑する私に対して、アマノハクは首をかしげる。

 アマノハクには、ネフティマから聞いていたスキル名『厄災の贈り物』があったような……。


「みゅー。スキルのことですよね。いま発動した固有スキル、元素精霊の降臨は先ほど取得しました。転生後の初ログインという扱いでしょう」

「ふむふむ……シクスオのシステムに準じて、スキルをひとつ覚えるということかな?」

「そうです。そして、パルトラさんに疑問に思っているスキルがありますよね」

「厄災の贈り物……!」

「みゅー。それです、それも固有スキルであり転生前の拙者だけが持っているという扱いになっています。ですが……」


 嬉しいのかイマイチなのかよくわからないけど、アマノハクは照れくさそうにしていた。


「シクスというユーザーが持つ修復能力を用いて、ここへ来る前に移植してもらいました。つまり拙者は、パルトラさんの初期の頃と同じような状況になっています」

「アマノハクの固有スキルは、ふたつ……!」


 前例のないとんでもない確率を超えた、二人目の逸材になろうというのか。


 遂に私のことを理解してくれるプレイヤーが現れたということになる。


 いや、それは違うか。


 私にある固有スキルの数は、現在五つ。

 現在のアマノハクの固有スキルの数をもってしても、私の固有スキルの数には及ばない。


 アマノハクが今後の冒険を通じてシクスオの冒険者たちに存在を知られたら、多少は私が狙われにくくなるかもしれないけれど、雀の涙程度になることは目に見えて分かってしまう。


 それでも、アマノハクは凄いと思える。


 シクスオの世界では仲間にするのが難しい精霊。

 それをスキルで召喚することは、とても凄いことだ。


「元素の精霊たちを変幻自在に操って、シクスオの世界にあるありとあらゆる物質を作成できるのかな?」

「みゅー? それは違うよ。元素精霊は小型から中型くらいの強さがあるのだけど、元素精霊それぞれの個体に意思があるみたいなので、変幻自在になんでも生み出せるわけではなくて」

「そうでしたか、元素精霊のご機嫌次第ってことかな?」

「みゅー。そんな感じにとらえて大丈夫だと思います」


 頷くアマノハク。一度使っただけで、固有スキルの性質を理解していた。

 とても呑み込みが早いのかな。対応力を磨くと化けそうではある。


「でも、ちょっぴり不思議なのです」

「アマノハクさん、どうしたの……?」

「転生して生まれた拙者は、実のところ精霊体質なのです。こちらの世界でヒューマノ、地球でいう人間とは違う種族になるので」

「アマノハクさん自身も精霊でしたか。ややこしそうですね……」


「みゅー。その通りです。ヒューマノとは生活の基盤が違いまして、コルテには常日頃から苦労をかけてます」

『そんなことありませんわ。ワタシは元ヒューマノですが、専属メイドとしていつまでもお嬢様のお側にいますので』

「そう言ってくれるのが優しいです。拙者はとっても嬉しいです。あのさえ惨劇さえなければ、今もコルテと手を繋ぎ続けることが出来たのですけど……」


 過去を思い返したのか、アマノハクの表現がやや険しくなる。



 アマノハクの顔には、『後悔』の二文字が浮き彫りになっていた。


 転生前ではなく、転生後のことだ。

 ヴィトエール大陸には魔法があり、精霊や魔神が存在している。

 そんな世界でアマノハクが不幸に思う出来事が発生するとしたら、やはり魔神の何かが関係している……?


お読みいただき、ありがとうございます!


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