商談と、やりたいこと
『ただのメイドなのに、困りますわ』
「みゅー。コルテの事情を知らなくて驚かないほうが難しいと思うのですが……」
「くっくっくっ。シュラウドガウン家に仕えるメイドの一件、この私でも驚かされたからな」
馬車の中に隠れていた、金髪の男性が降りてきた。
清潔感ある白いジャケットに黒の長ズボンの格好をしている。白いジャケットには真珠のアクセサリーがたくさん付いており、全体的に見通してとても煌びやかだった。
「みゅー。ヴィクタ国王に言われても説得力がありません」
「失礼な……まぁ良い。私は私の仕事をするまでだ」
ヴィクタという名の金髪の男は、私に興味なんて示さずフィースペードと視線を合わせていた。
「さて……私は国王のヴィクタ・アギナーイだ。二人で商談の話をしよう」
「代理人のフィースペードだ。本日は宜しく頼む」
ヴィクタとフィースペードは植物のツタが絡んでいるチェアに着席をして、複数の資料をテーブルの上に広げ始めた。
これから何が始まるのだろう。
「みゅー? パルトラさん、あれは契約書ですね。電脳世界シクスオとエルトリス王国が良好な関係性を築き上げていくための、はじめの一歩となるのですよ」
「エルトリス王国……?」
「みゅー。エルトリス王国は拙者や国王が住んでいる国ですよ。規模もヴィトエール大陸の中でも一番大きいところになります」
「一番大きいところ……」
エルトリス王国。
エルトリディスという商人の名前と、何となく似ている。
魔界ダンジョンでの出来事を思い返すと違和感も覚えたが、気のせいだろう。
そんなことよりも、フィースペードとヴィクタ国王、二人のやり取りが気になって仕方ない。
「ゲームの世界で契約書を出してくるの、はじめて見たような気がします」
「内容は主に貿易関係の取引ですね。地球とは違って物流交換が出来るみたいなので。あとは教育っていう項目もあります」
優しい声で私に説明してくれたアマノハクは、背筋を伸ばしてそわそわしている。
「アマノハクさん、もしかして緊張してますか?」
「みゅー。フィースペードさんと国王が商談に入ったので、こちらもそろそろ始めようかと思いまして」
「何を始めるのですか?」
「拙者とパルトラさんでシクスオの世界を冒険です。厳密にいえば、お遊びですが……言わば予行練習みたいなものでして……!」
そわそわした気分が止まらないアマノハクは、急に私に抱きついてきた。
「エルトリス王国にある大きな学校で、戦闘に関して教えてることのできる教員が少ないことに悩まされていまして。実践経験を積ませるという意味でも、電脳世界シクスオはとても魅力的に感じるのです」
「それで私と遊びたいと……。私のダンジョンではないのですね」
「みゅー。パルトラさんのダンジョンにお邪魔するのは難易度の問題で気が引けそうです」
「そ、そうなんだね」
最近は強いモンスターほど深い階層に引っ込めているつもりなんだけど、新しく作成したモンスターはお試しも兼ねてダンジョンの出入口付近に配置しがち。
私に固有スキルがいっぱいあって、何故か冒険者にいきなり狙われやすいのが問題なんだけどね。
「それでは、遊びに行きましょう!」
エグゼクトロットを手元に出した私は、下り坂となっている狭めの道に視線を向けた。
壁に植物のツタが張り巡らされており、地面の土は濃茶色となっていた。この土には栄養がたっぷりありそうで、ダンジョン内に生い茂る植物の成長の手助けをしていそうだった。
現在の階層はボスフロアでもある。ここから降りていくと、キラリが作成したダンジョンのモンスターがゴロゴロといるエリアへと入ることになる。
モンスターを好きなように倒しても大丈夫とはいえ、アマノハクは予行練習としてどう使えるかを知りたがっている。
私がモンスターを倒しすぎるのは、良くないかもしれない。
今回の冒険では、私がサポート中心で立ち回ってみるのも悪くないのかも。
「今の状況で、アマノハクさんがリスポーンした時ってどうなるのですか?」
「みゅー。地球からログインした際と同じですよ、一番近くの復活場所で目を覚まします。このシステムが訓練にも向いているのですよ」
『もしリスポーンシステムがヴィトエール大陸にもあったなら、魔神を王国から追っ払うのに苦労しなかったでしょうけど』
「みゅー! コルテ、それは言わない約束では?」
『カボチャだけに、たまには冗談も言いたくなるのですわ』
ゲラゲラと笑い声をあげるコルテは、自ら飛び跳ねて移動していた。
カボチャがぴょんぴょん動いていくのは新鮮ではある。
使い魔が先頭に立って安全確認をする。そんなシチュエーションであることを感じ取れた。
それはそうと、魔神のこと……。
いま聞き出そうとしたらアマノハクにドン引きされそうなので、この話題は後にしようか。
「ボス部屋からひとつ手前のエリアということは、強いモンスターがいそうだね」
「みゅー。セオリー通りなら、そうするでしょう。ですが、問題ありません」
アマノハクは自信に満ち溢れていた。
武器すら持たず、両手をプラプラしながらダンジョン内を歩く姿は、流石に無防備すぎるような気がした。
何か策略でもあるのだろうか。
モンスターや冒険者に遭遇してみたら、いろいろとわかってきそうではある。
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