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ヴィトエール大陸からの来訪者


 私は、ドラゴンの上に乗っていた。

 雲一つない大空が広がるシクスオの世界を優雅に飛んで、神風の集落トルードへ向かっている最中であった。


「降ろすのは世界樹のてっぺんで構わないのか?」

「セレネさん、それでお願いします」


 私の声は風によってかき消されているかもしれなかったが、ドラゴンの姿になっているセレネはそんなのお構いなく突き進むだろう。


 ふと地上の景色を見てみると、広大な森が広がっていた。

 たぶん神風の集落トルードの上空を飛行しているのだと思う。


「いよいよだね……」


 私の心臓の鼓動が少し荒れそうになる。緊張してきたのだ。


 目の前には世界樹がある。


 アマノハクと会う約束。

 ヴィトエール大陸の住人とのはじめての交流。


 私がシクスオの世界に初めてやって来たとき以上の不安を、心の中に抱いているかもしれない。


「着いたよ?」


 セレネの声が聞こえると、私は我に返った。

 世界樹のてっぺんには目印となる深緑のクリスタルがあった。


 このクリスタルに触れると、トルードのダンジョンマスターであるキラリが管理しているダンジョン『世界樹の神秘道(しんぴどう)』の最深部へ直行することができる。

 今回の待ち合わせ場所は何故かそこになっている。


「無事に到着しましたね。この後、セレネさんはどうするのですか?」

「ベヒュモに行って遊ぶつもりよ」

「そうなのですね。……行ってきます!」


 私はドラゴンの胴体から飛び降りると、深緑のクリスタルに触れた。

 ワープゾーンが出現して、転送される。



「ちゃんと来れたかな?」


 両足が地面についていることを確認すると、顔を上げた。

 目の前には大き目の四角いテーブルがあって、植物のツタが絡んでいるチェアがいくつか綺麗に並べられていた。


 アマノハクはまだ到着していないご様子。

 だけど、私は少しばかり顔が緩んだ気がする。


「フィナっ!」


 私は声を出す。

 すると、彼女はこちらに気づいた。


「……だから、あたしのことはフィースペードだって言ってるのに。今回はニケの代理人としてこの場にいるのだけど」

「フィーちゃんに怒られたっ! でも、第一声がそれで大丈夫ですか?」

「あっ、ごめん。パルトラ、元気にしてたか?」

「私は元気ですよ。堕天使の帰還イベントをやり過ごすのは大変でしたけど……」


「へぇー、そうなんだ。ふっ」

 フィースペードは小さく微笑む。


 結局のところ、あの突発的なイベントは記憶が曖昧になるくらいにハチャメチャだった気がした。

 でも、もう過去のことだし、脳みその片隅で封印しておこう。


「それはさておき、アマノハクさんが来ませんね……」

「そうだな。約束の時刻はもうすぐだから、間もなく来るんじゃないのかな」


 メニュー画面を開いていたフィースペードは、両手で文字を打ち込んでいた。

 おそらくニケとやり取りでもしているのだろうか。

 真剣な眼差しだったので、内容は仕事に関すること。十中八九アマノハクのことであると予想している。


「先に座って待ちましょう」


 私はひとり、先にチェアへ座ろうとした。


 その時だった。

 私の視界に入っている地面が光りだして、大きな星の魔方陣が出現した。



 煌めく白き魔方陣に、異世界のものとみられる綺麗な文字列の並びが見受けられた。

 この文字列の並びは揺らめく線とも見て取れる。

 それが波打ちして、馬車のオブジェクトが徐々に形成されていった。


「来たようだな」


 フィースペードがメニュー画面を閉じると、馬車のオブジェクトに近づいて行った。

 私はのんきに座ってなんかいられない。

 急ぎ足で、フィースペードの左側へ立つようにした。


「いよいよですね……」


 ヴィトエール大陸からの来訪者だ。

 私とフィースペードがシクスオの代表者として、おもてなしをする。


 馬車が実体化すると、すぐにドアが開いて、空色の髪の幼き少女が降りてくる。


「ごきげんよう。拙者は、アマノハク・シュラウドガウンです」


 アマノハクが丁重な挨拶をすると、水色ベースに白の縦ラインが入っているメイドロリータな服装がゆらっと揺れる。


 服装から可愛かった。静かに永遠と見守ってしまいそうな愛らしさがあるのだけど、まずは挨拶しないと。


「パルトラです……!」

「フィースペードだ。噂には聞いていたが、こうしてお目にかかると……どうも緊張してしまう……」

「みゅー? お二人さんとも顔がカタいですよ?」


 アマノハクが首をかしげると、黒いスペードの髪留めがキラッと光る。


「こういうときこそ……こ、この度は……」

「フィナ、さっさと座りましょう」

「すまない、パルトラ」


 咄嗟に謝るフィナは、頭の中が真っ白になっていそうだった。

 ここは私が言ったとおりにしてもらったほうが、無難な流れを作り出せるはず。

 ただ、ひとつ大きく引っ掛かることがある。アマノハクが両手に抱えこんでいる、オバケかぼちゃの置き物が少しばかり気になっていた。


「みゅー。以前ニケから聞かされていた通り、本当にお二人さんは仲良しですね」

『ニケって、お嬢様の前世の記憶に残っていた知り合いでしたっけ?』

「そうそう。ニケはこの場にいないけどね~」


 和やかな表情をみせるアマノハクは、オバケカボチャを高く持ち上げた。


 いまさっき、女性の声が聞こえたような。

 アマノハクひとりと思ったのだけど。違う……?


 怪しいのは、オバケカボチャ。

 そのカボチャと私の視線が合うと、口をパクパクとさせてきた。



『あー、自己紹介してなかったわ。ワタシはシュラウドガウン家の専属メイド、コルテですわ』


 カボチャが喋った。


 もう一度、言う。

 カボチャが喋ったのだ。


お読みいただき、ありがとうございます。


第6章が始まりました。何卒よろしくお願い致します!!

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