堕天使ルトラVS妖魔天使ティルティ
「おう、東の魔王はルトラの知り合いなのか?」
「蓋を開けてみたら、そんなところでしたね……」
「まぁ、あれだ。誰が相手であろうとも勝つのはオレってことだ!」
斧を持っているヴァルハリーザは、ジャンプしてティルティに切りかかる。
「南の魔王、それは効きませんよ」
ティルティが持っている極細の傘が開くと白い結界が現れて、ヴァルハリーザを押し返した。
「なんだ、硬いというか」
「ティルティちゃんに押し戻された感じですね。近距離の攻撃を当てるのは難しそう……」
ティルティが持っている極細の傘が閉じると、傘の先端を私に向けてくる。
魔法の銃でも飛んできそうだ。
私は堕天使の翼を広げて上空に逃げる。
「二対一では分が悪そうでしたので、分断させて頂きます!」
ティルティが再び傘を広げると、半透明な結界が水平に広がっていった。
その結界は地面からやや離れた高さに貼られた。
「ルトラ、大丈夫か?」
「うん……でも」
見上げてくるヴァルハリーザは、時計の針の上にいる。
「そっちも気を付けてください」
「おう、わかった!」
状況をすぐに飲み込むヴァルハリーザが振り向いた先には、デュラハンの見た目をしたプレイヤーたちがたくさん待機している。
「配下たちよ、やりなさい」
ティルティの指示で、デュラハンの見た目をしたプレイヤーたちは動き出す。
「おう、来るか。オレが相手になってやる」
やる気に満ちていたヴァルハリーザは、右手に斧、左手に片手剣を持つ。
ここで見せてくる二刀流。ヴァルハリーザに隠された奥の手が開放されることによって、戦況はやや有利になるかもしれない。
「南の魔王が雑魚の相手をしてくれるようで助かります。これで堕天使さまは、ティルとのおデートですね!」
「ティルティちゃん……」
「ティルはね、あの日……オブスタクルの世界大戦を超える、本気のバトルをここでしたいのっ!」
目を輝かせるティルティは、私と本気で戦いだがっていた。
「ティルティちゃんがそのつもりなら、わかりました。宿れ、炎の球体――」
ここはティルティの欲求を飲み込むしかなさそうだったので、牽制目的で炎の弾をひとつ解き放った。
「おっと、危ないっ……」
ティルティが大きく横に逸れると、私は思ったより意表が付けたことに納得していた。
現実世界で優れた身体能力をもつティルティの反応速度は流石だと言いたいところだが、私の攻撃スピードが勝る状況でもある。
次なる一手はもう打ってある。
避けに注視したティルティの一瞬の隙をみて、エグゼクトロットを遥か上空に飛ばしておいた。
「堕天使さまへの、反撃いきます!」
ティルティの武器である閉じた傘の先端が私に向くと、魔法の銃弾が発射される。
タイミングはベストだった。けれども、角度がおかしくて……。
この軌道、読めてしまう。
私がまったく動かなければ、魔法の弾に当たることはない。
「ティルティちゃん、闇雲に撃ってませんか?」
「そんなことないもん!」
意地を張るティルティは、頬を少し膨らませる。
「今度はちゃんと当てるからっ!」
再びティルティが魔法の銃弾を撃ってきた。
何度も、連射する。
けど、私の身体に掠めることはなかった。
身体能力は文句なしでパワーがある、戦術もそこそこ良いものがありそう。だけど、ティルティに足りないものがハッキリと分かった気がする。
飛び道具を使う上で、雑な一面があるのだ。
ティルティが使ってくる魔法の銃弾を私に当てるには、距離の計算と集中力がいる。
ホーミング要素があっても話が変わってくるのだけど、ティルティの頭の中には、そのようなイメージが全くないのだと思われる。
「今この場で魔王同士の戦闘が始まったとして、南の魔王さんが満足しなさそうですね」
「ふえっ、そんなっ……!」
ティルティは愕然とする。
オブスタクルの世界一になったセンスだけでは、シクスオの世界に潜む強敵を倒すことは出来ない。
まずはイメージ力だ。よくあるファンタジーゲームの世界に溶け込むイメージだけで事足りる。
それと身体能力をはじめとした、アバターの動作を掛け合わせる。
ティルティには、それがない。
だからこそ、ティルティには学んでもらいたい。
私自身も、シクスオの世界を通じてより強くなった自覚がある。
「エグゼクトロット――」
私が右手を上げると、エグゼクトロットがティルティの傘にぶつかった。
「きゃっ……!」
反応できなかったティルティは、武器である傘を思わず手から放してしまう。
これで結界を気にしなくて大丈夫だ。
「ティルティちゃん……行くよ」
堕天使の翼を広げて飛んだら、ティルティに急接近する。
「煌めく星の波動よ、網目状となりて包み込め」
魔法の威力は控えめにして、リスポーンを避ける。それでもティルティに学びの機会を与える良いきっかけにはなりそうだ。
「まずは魔法です。この世界での魔法は、自由な発想を実体化させたものなので、強いイメージを持つのが大事です」
私の手元に展開している魔方陣から、薄い霧が放出される。
それを用いてティルティを包み込んだ。
ティルティは、白い毛玉の中に包み込まれたような感じになった。
「なにこれっ、うっ……動けなっ……!」
「ティルティちゃん、私の魔法はどうですか? これは攻撃性能こそありませんが、相手の動きを止めるのには十分です」
私はエグゼクトロットを右手に持つ。
「これでトドメです」
動けないティルティの顔に狙いを定めて、エグゼクトロットを投げた。
「まさか、ティルがヤジョウツバサさんに負けるだなんて……!」
「はい、ストップ。私が倒す意味はありませんので」
エグゼクトロットに待ったをかけると、ティルティの顔に当たるギリギリのところで停止した。
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