東の魔王城を探そう
東の大陸へと到着すると、ヴァルハリーザをはじめとしたプレイヤーたちはすぐに船から降りていった。
砂浜があって、深みのある森がある。
最後の魔王城がある場所はいったいどこなのか。
船の上からでは、ごく普通の無人島のようにしか見えなかった。
「私は行きますけど、エルトリディスさんはどうするのですか?」
「心配ご不要です。一応……この身は商人だから、適当に仕入れとかするだけですね」
椅子に座って手をぶらぶらさせるエルトリディスは、穏やかそうにしていた。
「そうですか……。ありがとうございます!」
エルトリディスにお礼だけ伝えると、私は船から降りた。
「あれ、もう行ったのかな?」
砂浜の上で、ひとりぼっちで立っていた。ヴァルハリーザたちの姿はもうない。
残された足跡を辿ると、森の方に続いていた。
ヴァルハリーザたちはもう突き進んでいる。まずは東の魔王城にたどり着くことを考えているのかな。
私としては、東のクラフトルームの発見を先にした方がいろいろやりやすくはなるが……。
「これまでの傾向を考えると、東のクラフトルームは魔王城の中にある可能性が高いような気がするけれど」
悩んでも仕方ない。
エグゼクトロットを片手に持った私は、森の中に入っていった。
森といっても、とても穏やかで静けさがあって、とてものんびりと出来そうだ。
どれくらいかというと、プレイヤーたちの気配はおろか、基本は自動生成されるであろうモンスターすらいないレベルである。
ただ、この長閑な空間はそう長くは続かない。
森の中を歩いていくと、景色が一変した。
見晴らしのよい平坦な黄金世界が、のうのうと広がっていた。
足元をよく見てみると、この黄金は時計の針であることがよく分かる。それがいくつも交わり、何千、何万と重なり合って地面を形成していた。
時計の針同士が交わる隙間には、赤い海が見え隠れしている。隙間といっても指が一本入るか程度なので、地形を壊さない限りプレイヤーがいきなり落ちることはなさそうだ。
あとは、魔王城らしき建物も見えていた。
それと、ちらほらとプレイヤーがいる。
その殆どが、鎧を身にまとったモンスターの見た目をしている。
「東の魔王を支える大多数の者は、デュラハンのアバターを使用しているのだろうな。デュラハンのモンスタースキルはジェネラルガードだから、物理耐久はそこそこ高そうだ」
口出ししてくるヴァルハリーザが、私の後ろから急に出てきた。
「えっと……ヴァルハリーザさんだけですか……?」
「他の奴らは何故かここを認識出来てないというか、壁だと言うんだ」
「何らかのギミックがあって、ここには来れないということですか?」
「そうなる。オレが突破出来たから、どうでも良いが」
森の中で足止めされている仲間を心配しつつも、前を見続けるヴァルハリーザは斧を手に持っていた。
「あの奥にあるのが、東の魔王城か」
「はい。間違いないでしょう」
「そうか。……オレは行くぞ、どこからでもかかって来なっ!」
ヴァルハリーザが先陣を切っていく。
キンキンキン、キキュン――。
時計の針の上を走っていくことになるので、金属音がどこまでも鳴り響いていく。
「他所の魔王……絶対に倒ス……!」
「おう、やる気いっぱいのようだな」
ヴァルハリーザは、一番近いデュラハンと相対する。
でも、勝負は一瞬でついた。
ヴァルハリーザが斧を水平方向にひと振りすると、デュラハンがリスポーンしていった。
「ふん、オレの敵ではないな」
勢いに乗るヴァルハリーザは、東の魔王城へ着実に近づいて行った。
その後ろ姿を、堕天使の翼を広げた私が飛行してついていく。
ヴァルハリーザが懸命に戦っているのを見ていると、あまり手を出したくはないが、相手は複数で襲い掛かろうともする。
それを阻止する程度で、火の玉の魔法を使って牽制していく。
(私の魔法が直撃すると、デュラハン程度ではリスポーンなのは把握できているけど……)
相手になっている、この場のプレイヤーたちあまりリスポーンさせたくないのもあった。
ここでのリスポーン先は、森の中だ。
リスポーンさせると、それだけ森の中に敵戦力を送り込むことになる。
そのまま倒しまくっていると、自然とヴァルハリーザの援護として手を貸すプレイヤーたちの負担が増えていくでのある。
それでも、私とヴァルハリーザは進むしか出来ない。
ヴァルハリーザが一体ずつ確実にリスポーンを狙い、私が援護をする。
その繰り返しで、東の魔王城へはちゃんと近づけていた。
「お客様です。おやめなさい」
音程が高めな声と共に、パチッと。
指をはじく音がした。
すると、ヴァルハリーザの周りにいたデュラハンが戦意をなくし、距離を取り始める。
「どうした?」
「ヴァルハリーザさん、目の前に誰かが来ますね」
私が息を呑むと、ワープゾーンが出現して、指をはじいた者が目の前に現れた。
その者は、耳を隠すグレー混じりの白髪。頭に黄色い月の輪が浮かんでいて、背中からは白い天使の羽が生えている美少女だった。
「われ、東の魔王です。お待ちしておりましたよ、南の魔王に、愛しき堕天使さまっ!」
ノンワイヤーで丈が短めなブライダル衣装を身にまとっている彼女は、輝かしいアクアブルーの瞳で私のことを見つめてきた。
なんで私に視線が……。
普通は、ヴァルハリーザに向くのではないのかな。
「ふん、ここで東の魔王のお出ましか。てか、なんでルトラ以外に天使が存在している?」
「これは純粋な天使ではなくて、妖魔天使という種族です。闇に染まる妖精と純白な天使の間に誕生したハーフ、といった説明がありました」
「何かの隠し要素か? オレは知らないけど、モンスターアバターの上級職みたいな感じとかの道筋ならあるいは……」
「まぁ、そんなところですかね!」
微笑む東の魔王は、とても好戦的。
武器とみられる極細な水色の傘を両手で持ち、いつても戦闘に入れそうな状況になっていた。
「おう、やる気か」
「南の魔王を倒せば、城のレベルアップに必要なレアアイテムが揃います。それに、堕天使さまと戦えるのを心より待ち望んでいました」
「あの……すみません。私、東の魔王さんと会ったことすらないですよね……?」
「正式な名乗り申し上げを忘れておりました。妖魔天使ティルティです!」
「ティルティ……」
「はい。とってもお久しぶりですね、ヤジョウツバサさん!」
東の魔王からのハイテンションな台詞を聞いた途端、私は失神しそうになった。
このベータテスト版って、たしかアマノハクが単独で立ち上げた企画のはず。
シクスオの世界とは、ちょっと切り離されている面がある。そんな状況下で、ティルティは私のアバターと実名を一致させてきた。
現実世界にはもう帰れない身としては、どうでも良いことかもしれない。
けど、ちょっぴり嬉しい。こうしてティルティが目の前に来てくれたこと、シクスオの世界に溶け込む中で密かに望んていたのかもしれない。
そして……どうしてそうなった。
ティルティが東の魔王として、私たちの敵となり立ちはだかってきたからである。
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