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北の魔王と決着の時


 ファーガスの口から、その呼び名を聞くなんて思いもしなかった。


 メリーロードはシクスオの世界から既に消失しているので、現実世界とシクスオの世界は比較的平穏を保たれている……とは言い切れるのだけど。


 ヴァルハリーザとメリーロードが血縁関係にあったのは、予想外だった。


「ファーガスさん、ありがとうございます。それで、ヴァルハリーザさんとピリコさんのことですが、決着がつく瞬間まで見守ろうと思います」


 私は、この場にいる皆に伝わるように言葉を発した。


「堕天使ルトラさま、それが望ましいでしょう。戦況は北の魔王がやや押されてしまっておりますが……」


 不安がるファーガスの顔をみてしまった私は、戦う二人の様子に目をやる。


「くっ、ヴァルハリーザ……!」


 ピリコは両膝を地面につけて、息が荒くなっていた。

 対してヴァルハリーザはまだまだ余裕そうだった。ヴァルハリーザらモンスタースキルを使用していたのか、皮膚の一部分がドラゴンのような鱗に覆われていた。


 互いに回復アイテムを使い切っていそうなので、決着の時は近い。


 斧を持ったヴァルハリーザがピリコに走って接近すると、横スイングで切りかかる。


「くっ……」


 体力的にピリコの限界は近かった。



 ヴァルハリーザの斧を使った攻撃を、拳と結界で抑えるも完全に力尽きた。

 強化魔法が解けてしまい、ピリコがうつ伏せに倒れ込む。


 こうなってしまうとまともに動けない。ピリコに残されているのは僅かな気力だけである。


「ピリコを倒す前に聞いておきたいのだが、話してくれるか?」

「ヴァルハリーザに話すことなんでないナッ……」

「それは噓だろう。オレが後悔したくないだけというのもあるけど、ピリコはオレ絡みのことで悩みの種があるのだろ?」


「ヴァルハリーザはなんでもお見通し、だったかナッ」

「いや、全部じゃない。むしろピリコが悩んでいる理由に心当たりがなくて、さっぱりだが……」

「そ……う……なのか……ナッ……?」


「いや、ピリコがひとりで何かを抱えてなんにも話さないから」

「ヴァルハリーザ……ごめんなさい、ナッ」


 ピリコは謝罪する。悩みを気軽に打ち明けることのできない環境と心の未熟さが、ピリコの心を曇らせていた。

 ここにファーガスが横入りすることも考えられたが、フウリンが首を横に振ったので足が止まっていた。


「まぁ、深堀りする悪趣味なんてねえし。オレが目指すのは、真なる魔王だけだ」

「ヴァルハリーザはまっすぐで強いのナッ」

「オレが強いのは当然だが、ピリコもオレと肩を並べるくらいには強かったんだけどな……」


 ヴァルハリーザからして、いまのピリコの姿はみっともなかった。

 何かから逃げては、ヴァルハリーザとの直接対決で負けそうになっているのだから。


「オレはこのまま武器を動かさない。ピリコ、しょうもない悩みごとは全部吐いてくれ」

「ヴァルハリーザ……」

「動けないなら、オレが支えてやる。さぁ、来い」


 ヴァルハリーザは隠し持っていた回復アイテムの瓶を、ピリコに対して使用した。


「どうして、どうしてなのナッ!」


 少しだけ体力が回復し、立ち上がることが出来るようになっていたピリコは険悪感を抱いていた。


 どうして、こんな時にヴァルハリーザは優しくしてくれるのか。

 ピリコは理解できずにいた。


「このまま北の魔王が負ける筋書きこそ、一番正しいはずなのにナッ!」


 ヴァルハリーザの両腕を掴んで、いまにも斧を無理やり振り下ろそうとしていた。

 斧が落ちれば、ピリコの頭に直撃してリスポーンは避けられない。それを分かった上で、ヴァルハリーザの腕を掴んでいた。


「ああ、もう全部言えばいいんだよね。ずっと心の片隅で罪悪感を抱いていた要因は、ヴァルハリーザの妹さんのことダナッ!」

「妹……? オレのか?」

「妹さんを暗殺したのはワタシの家系だけど。妹さんとヴァルハリーザの笑顔の対面を奪ってしまったのは、間違いなくワタシなんだから!」


 環境が許してくれなかった。自分がヴァルハリーザと接したのが罪だった。

 思い込みが激しくなってきたピリコは、強化魔法をヴァルハリーザにかけていた。


「暗殺? 妹は? ピリコはいったい……」

「現実世界でずっと見てきた優しいヴァルハリーザは何もわからなくても良い。ただ、ワタシは罪滅ぼしがしたいだけだったのかもしれないナッ」


 ピリコの両目が青く光ると、ヴァルハリーザの腕が勝手に動きだした。


「ごめんね。こんな方法しか思いつかなくて」


 再び謝りを入れるピリコに向かって、斧が落ちていく。


「早まるな、ピリコっ!」


 ヴァルハリーザは懸命に斧を止めようと、腕に力を入れようとしたが出来なかった。

 そのまま斧が、ピリコの身体を切りつけてしまい――。


 ピリコはリスポーンした。



「……これで、倒すべき魔王はあとひとりなのか」

「そうだね。この地もヴァルハリーザさんの手に入ったかは、あとで確認してみますけど」


 決着がついてすぐのこと。私は、ヴァルハリーザの元に無意識に駆け寄っていた。


「なぁ、ルトラ。ピリコは結局、オレに何を求めていたんだ?」

「うーんと……ピリコさんはきっと、楽しく遊びたかっただけかもしれませんね」


「ふん、しょうもないな。けど、ここは遊びの場でもあるからな。現実世界で悩むくらいなら、ここで暴れてもらうのが気が楽だろうし」

「そうですね。ストレス発散、大事ですね」


 でたらめなことを言っている自覚はあるけれど、あながち間違ってはいないと思う。


「おう。そういえば手に入ったんだな」

「ヴァルハリーザさん、なにがですか?」


「西の雷鳴石に、北の氷結石だ」


 目を輝かせるヴァルハリーザの手のひらの上には、二つの石があった。


「これで、まだ取っていないレアアイテムは……東の時空石だけになるか」

「ヴァルハリーザさんのこと、応援してますね」

「おう! ベータテスト版が終わったら……オレ自身がピリコと、もっと向き合わないとなっ」


 ヴァルハリーザは、もう前を見ている。

 ピリコの方はまだ時間が掛るかもしれないけど、きっと前を見れるようになるタイミングがきっとやって来る。


 その時が来たら……ヴァルハリーザとピリコ、この二人が過去の行動に囚われることなく深く結ばれることを願っています。


お読みいただき、ありがとうございます!

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