ヴァルハリーザとピリコの出会い
ピリコの家系は忍者である。それは裏の話であり、ピリコ自身は普段から令嬢のような雰囲気を出して身だしなみを整えていた。
当然、学校への送り迎えには送迎の車が用いられる。
だがしかし、入学式の日はピリコの強い要望によって送迎の車を用意しなかった。
それが結果として、ヴァルハリーザとピリコが対面する状況を生み出した。
ピリコは、ファーガスと一緒に帰宅していた。
ヴァルハリーザは学校の教室に忘れ物をしたということで引き返す。
そこで偶然、鉢合わせる。ヴァルハリーザとピリコの二人が顔を合わせた瞬間、一目惚れしたほうはピリコの方だった。
その日を境にして、ピリコの様子が少しばかり変わってしまった気がする。
毎日、ピリコはヴァルハリーザに対して控えめなアプローチで好奇心を伝え続けていった。
その想いは何故か届かない。
そのまま一年が経過した。
ピリコはヴァルハリーザに、問いかける。
「私が好きな人に想いが届かないの、どうしてかナッ」
すると、ヴァルハリーザはこう答えた。
「どこに住んでいるのかわからない、実の妹がいるんだ。あまり気にかけたことがないのだが、オレが異性に対して冷たいのは接し方や距離感がよくわかっていないからだと思う」
「妹さんって、どんな人なのかナッ?」
「気が向いたら、オレの前に顔を出してくる。でも、すぐにいなくなる」
「すぐに隠れちゃう……まるで忍者のようですナッ」
「悪名高いことで有名だから、普段は人前に出たくないとだけ知っている」
「へぇー。仲がよいのかナッ?」
「ふん。妹との特別な思い出なんて、これっぽっちもないからな。向こうがどう思っていようが興味なくてだ」
その時のヴァルハリーザの表情は、どことなく優しい顔つきだったそうだ。
ただこの程度では、ピリコの片思いの熱は冷めなかった。
そこからさらに二年が経過した。
ヴァルハリーザとピリコは、別々の大学へと通い始める。
六年が経過した。
ヴァルハリーザの方から、VRゲームをやらないか? というお誘いがあったそうだ。
詳しい内容は、シックス・スターズ・オンラインに関するベータテスト版の抽選会に参加しようぜ。というものだった。
ピリコはその話に、すぐに食らいつくつもりでいたが……家系の者は何故か反対意見ばかり。
最終的な落としどころとしては、家系の者に気を使ったファーガスが、ピリコの監視役という形で一緒に抽選会へと参加することになった。
抽選会は一次選考と二次選考があった。
一次選考はオンライン上で行われ、二次選考はシクスオを運営する者のひとりである、『アマノハク』と一対一の面談方式となっていた。
ヴァルハリーザ、ピリコ、ファーガスは二次選考を無事に通過し、ベータテスト版をプレイする権利が与えられた。
二次選考を通過した次の日、ヴァルハリーザとピリコは久しぶりに顔合わせしていた。
何故かお呼ばれされなかったファーガス。自身も忍者なので、忍び寄ることで二人の会話を盗み聞きできた。
「そういえば妹さん、元気にしているのかナッ?」
「数年前から音信不通になっている。けど、妹は今もどこかで生きているだろうし、オレが心配することもない」
「いまもどこかで生きている、ですかナッ……」
ヴァルハリーザのさり気ない言葉。
ピリコにとっては、心の中に引っ掛かるものがあったのだと思う。
この日の夜、食事を行っていたピリコは、家系の者に向かってヴァルハリーザの言葉を言いふらす。
「ああ、あそこの家庭か」
「そういえば、あれが五十年ぶりに行われたのよね。ターゲットはたしか、悪名高い名で知られていた……あっ……」
家系の者は一斉にピリコから視線を逸らしたそうだ。
「みんなどうしたのかナッ?」
ピリコは問い詰めた。
家系の者はその場で誤魔化して、真相をピリコに伝えなかった。
気を遣うことにしたファーガスは、タイミングを見計らいピリコに伝えるつもりでいた。
風呂を済ませた後のこと。忍者として情報収集をする直前のことだった。
「ひとつお伝えしたいことがあります。実のところ、悪名高いことで知られていたヴァルハリーザの妹についてですが、我々の家系に属する忍者が暗殺しました」
ピリコはその場で泣き崩れましたが、歯を食いしばって、大きな声を出すことはありませんでした。
但し、この時ばかりは、自身の感情をコントロールすることが困難になったと思われます。
ちなみにですが、ヴァルハリーザの妹には二つ名がありました。
それは、悪しき教導メリーロード。
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