北の魔王城と案内人のファーガス
それはそうと、『電脳世界』という言葉の意味が気になってきた。
シクスオは、ゲームの世界である。魔界ダンジョンもまた、ゲームの世界。
私とネフティマの手によってシクスオが電子の星になったとはいえ、現実世界から見た場合だとひとつのVRゲームという認識からは変化していない。
アマノハクの言葉は、そのことを踏まえて考察しないといけなかったりするが……。
「魔神の討伐は済んだが、堕天使ルトラは戻るのか?」
「北の魔王城ですね。当然です!」
「そうか。それなら一緒に連れていってくれ」
ニケにお願いされたので、風神の和太鼓をすぐに取り出してくるくる回し始めた。
ワープ先は、北の魔王城の近辺である。
ただ今回は魔力が十分に回復していたので、城の入り口すぐ傍にしても大丈夫そうだった。
「お待ちしておりました。堕天使ルトラさま、それと……」
ワープ直後の私の目の前にいたのは、一礼するファーガスだった。
「邪魔になりそうなら、ここで待っとくが」
「ニケさん……」
「お連れ様もどうぞついてきて下さい。北と南、魔王同士の戦いはもう始まっていると思われます」
「そうなの?」
「はぁ、こっちに来てください。二度も言わせないでくださいな」
どうやら、北の魔王城をファーガスが案内してくれるみたいだった。
入り口から入っていくと、早速だがプレイヤーたちがその場でくつろいでいた。
大広間にはリスポーン地点があり、戦闘に疲弊したプレイヤーたちの癒しの場として機能してそうだった。
私がプレイヤーたちに目を向けてもただの来客者という認識になっているのか、いきなり襲われることはなかった。
黙ってそのまま通り過ぎると、次に廊下があった。
廊下は明るく、うっかり迷子になることはなさそうなんだけど……そのまま廊下を歩いていっても、他のプレイヤーたちとすれ違うことはなかった。
そして、奥の部屋の手前までやってくると、物陰に隠れたような位置にフウリンが息を潜めていた。
「る、ルトラさん。ご無事で」
私と視線が合うと、フウリンから話しかけられた。
「ヴァルハリーザさんとピリコさんは、この先にいるのですか?」
「そ、そうよ。戦闘は既に始まっていますわよ。どちらも決め手に欠けているみたいだけど」
フウリンの話によれば、ヴァルハリーザとフウリンの実力が拮抗しているとのこと。
ヴァルハリーザは近接系が得意で、ピリコは中距離からの魔法が主体。
ただ、ヴァルハリーザは守りを固めてやや警戒心を強めながら戦っていた。回避に重きを置いているピリコが、どちらかというと戦いの主導権を握っているような雰囲気が出ている。
軽やかな動きを見せてる辺り、ピリコの家系は忍者ということで間違いないのかも。
「ピリコ、どうしてオレたちは魔王の座を掛けて戦わなくてはならない? このゲームを開始した直後に話し合っただろ、オレが魔王になるから、ピリコは見守るって」
「それは……気が変わったということでも……なく……、ナッ」
ヴァルハリーザの持つ斧を、強化魔法を施した拳で受け止めるピリコ。
しんみりした表情で固い口が思うように動かないのか、頭を少し下げている。
「る、ルトラ。横入りして二人を助けませんか?」
「それは、しません。ですが……ファーガスさん……!」
「聞きたいことがあるのすね」
「はい。ヴァルハリーザさんとピリコさんの関係、そしてピリコさんが何で悩んでいるのか知っているのでしょう」
「だいたいは、ですね」
記憶の中に心当たりがあるファーガスは、渋い顔つきになる。
「まずはそれを私たちに話してくれませんか? お二人を止めるかの判断はそれからでも遅くはないです」
「堕天使さま、果たしてそうでしょうか。一瞬のスキを突いて決着がつくのが先だと思いますけれど」
「それは戦況を見ていればすぐにわかりますよ。二人とも辛抱強く戦っています」
ヴァルハリーザとピリコ、どちらも回復アイテムはキッチリ数を用意していたので、長期戦になること間違いなかった。
個人的に気になることもひとつあったりするし、聞いて損はない。
「では、話しましょう。まずは」
ファーガスは、ヴァルハリーザとピリコの出会いについてから語る。
二人が初めて出会ったのは、ピリコが公立高校に入学した日の帰宅途中である。
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