魔神ムグルル
「宿れ、炎の球体たちよ!」
三つの火球を飛ばして、攻撃を仕掛ける。
私個人として気になっているのは、緑の風のエフェクトを纏っている翼だ。
盾をいとも簡単に貫く羽飛ばし攻撃も厄介なのだが、それ以上の脅威になり得そうなのがムグルルの翼である。
『ムググッ!』
魔神ムグルルが火球に反応を示すと、飛ばした火球の三つ全てが急に方向を変えて翼に命中する。
挙動が不自然さを感じた。当然さながら、ダメージは入らない。
それどころか、飛ばした火球が緑に変色していた。
『ムググッグ!』
魔神ムグルルの鳴き声と共に、緑の火球があらぬ方向へと飛んで行った。
魔法のダメージを無効化させたというよりかは、魔法を吸収し、その魔法に追加で風属性を付与して無作為の方向へとはじく。
そのような動きがみられたのだ。
「どうかね。倒せそうか?」
魔法の挙動についての一部始終を目視していたニケは、私に何か期待を寄せている。
「ニケさん、どうでしょうかね。流石にバラバラにしてもらったほうが……」
「例の指揮棒のことだな。あれを使うとドロップアイテムもバラバラになる仕様なんだ」
「ドロップアイテムごとバラバラですか……。どういうことですか?」
「魔神モンスターにもレアスキルが設定されていてな、倒すと意味不明なレアアイテムを落とす。そこまでは調べがついているのだが、これ以上の調査をするにはレアドロップアイテムを手に取ってみないことには何も始まらないという状況と言えば良いかしら」
「ふむ……それで、今回は正攻法で倒したいということですか?」
「堕天使ルトラ、君を頼りにしている」
「あはは……がんばります……」
ニケの要望に対して、思わず口元が苦くなる。
魔神ムグルルを倒すのは簡単ではない。
纏わりついている風のエフェクトがレアスキルのものとみて問題なさそうだが、あれを突破する方法は限られていそうだ。
そして、倒してもネオムグルルとして復活することも想定できる。
状況次第では、一瞬でこちらがリスポーンするかもしれない。
だからこそニケは、できる限り私のサポートをするつもりでいる。
「まずは即死級に痛そうな無力化をさせておかないとね」
ニケは魔方陣を展開すると、二枚の片翼が付いている青い球体を召喚した。
肌が少しひんやりとしたので、氷の精霊なのだろう。ブルースピリットとはちょっと違う見た目をしている小型精霊といったところだ。
「この子を呼び出したら何か変化があるのでしょうか?」
「見ていればわかるよ」
ニケは地面を強く蹴ると、魔神ムグルルに急接近した。
『ムグッ!』
ニケの姿に目を向けた魔神ムグルルは、大きく翼を広げた。
羽飛ばし攻撃がやってくる。
とても危険で、当たれば待っているのはリスポーン。それが雨のように降ってくる。
「ふっ。この程度の攻撃、大したことない!」
ニケは接近し続けていた。
片手に持ったショベルを軽く振るだけで、魔神ムグルルが飛ばした羽をバキバキと折っていった。
折れる音……?
もしかして、凍っているのか?
凍らせることによって、魔神ムグルルの羽を無力化させているのか。
「そこだよっ!」
ショベルに魔力を込めて、強烈な振り回しを行った。
魔神ムグルルは足を数歩後退させて、頭を空の方向に向けた。
恐らく、ダメージが入ったのだろう。
魔神ムグルルがもがく以上、手痛いダメージであったことに間違いはない。
ニケが召喚した精霊のサポートによって、ニケは魔神ムグルルとの距離を詰めることに成功した。
そこから繰り出される攻撃は、確かに的確である。
だが、魔神ムグルルはそのくらいでは倒せない。
必要なのは、圧倒的な火力。
「ヘイトはニケさんが持っているんだよね。そしたら……」
両目を閉じた私は深呼吸をする。
鈍器が何かにぶつかる音を、何度も耳にしていた。
接近戦に持ち込んだニケが懸命に戦っている。耳を澄ませて知ることのできるニケの呼吸を聞いている限り、意外と余裕そうではあるけど……。
一撃。私も大きな一撃をお見舞いしたい。
だけど、良いイメージが思いつかない。
少しだけ、時間をください。
私の心の中で言葉として具現化したとして、ニケの心の中には入ってはいかないのだけど。
その届かないもどかしさは、私が解き放つ大きな一撃に乗せたいと思った。
私自身が、もっと考えないといけない。
ニケさんの戦法からも、何かヒントがあれば……。
シクスオでの飛び道具は魔法攻撃の判定がある。でも、ニケの攻撃には、魔法の効果が少しばかり入り込んでいる。
ショベル自体に魔法の効果が付与されているかは、わかっていない。
氷の精霊がいることによって、敵の攻撃を無力化しつつ、与えるダメージを大きくしているのは間違いなくて。
でも、氷属性では、地面の土が巻き上がっている音までは出せないと思う。
土が巻き上がる……? あれっ?
これかも。
でも、どうやって?
そもそも精霊は氷属性しか出ていないけど。
「すみません。ハイエルフのスキルって、具体的にはどんな性能をしているのですか?」
思わず目を開いた私は、ニケに訪ねていた。
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