城の中に送り込むには
くーるくる。
風神の和太鼓を回して、ヴァルハリーザたちと一緒に北の魔王城へと大きく近づく。
ワープ先は、魔神ムグルルの背後である。
ちょうど付近に隠れられそうな白い岩があったので、ワープしていきなり襲われることはなさそうだ。
「あれが魔神ムグルルか。オレの敵ではない」
斧を握るヴァルハリーザは腕をプルプルと震わせていた。
魔神ダイダロでの感覚を覚えていたのか、どことなく怯えているようにも見える。
「ルトラ……ど、どうやって立ち向かうのですか?」
「魔神の相手は私がやります。ヴァルハリーザさんとフウリンさんは北の魔王城へ入ってもらえるとありがたいです」
「あ、ありがたいというけど……相手にできないというか」
フウリンは私のことを心配しているのか、しんみりした表情をみせる。
「大丈夫です。今から助っ人を呼びますので」
慣れた手付きでメッセージを送る。
送り先はニケである。
もし魔神が現れたのなら、いつでも呼んでくれと言われていた。
「ほう、あれが新たな魔神か」
ニケはすぐさま駆けつけてくれた。のは良いけど、白銀のショベルを片手にもっていまにも振り回そうとしていた。
私の魔力が自然回復しないことには、魔神の討伐はおろかまともに戦うことは難しいかもしれないというのに。
お構いなしに、ニケは張り切っていた。
「メールの呼び出しをしておいて体力の限界か……へばっている暇なんてないんだろ? ほら、これを使え」
とニケに言われると、青色の瓶をひとつ渡された。
「これはなんですか?」
「使えば一定時間魔力がたくさんみなぎってくるエクスメンタルポーションだ。一応新アイテムでもあるが、試しにどうかと思ってな」
「うーん……使わせて頂きます!」
私は瓶を開けると、すぐに飲み干した。
すると、ニケの言う通り魔力がたくさんみなぎってくる。
「どう?」
「なんか凄そうです」
素直な感想を述べた私は、すぐにシステムログを開けた。
エクスメンタルポーションの効果時間が五分程度。
魔神を倒すには、これでも十分かな。
私は魔神ムグルルの立ち位置を、目視で確認した。
まずはヴァルハリーザとフウリンを北の魔王城の中に送り込みたい。
その為には、魔神ムグルルの注意を引き付けると同時に、ピリコを守る部隊をなんとかしないといけない。
魔法で狙いを定めてこちらに注目をさせるのは容易そうだけど、北の魔王城までは距離が少しあって魔法が中途半端に消えてしまう可能性が高い。
何か上手いこと飛び道具があったら……。
「そういえば、堕天使ルトラに渡しておかないといけないものがあるよーうな」
独り言のようにぼやいたニケは、私にエグゼクトロットを渡してきた。
「ニケさん、空気が読めるのは流石ですね!」
「派手に暴れるつもりなのだろう? 一緒に混ぜてくれる?」
「それはもちろんですよ!」
私はエグゼクトロットの先端を、北の魔王城の入り口に向けた。
その場で思いっ切った遠投。エグゼクトロットは私が持つ固有スキルによって、音速をも超える速さで何処までも貫いていった。
暫くするとぐさりと音がして、北の魔王城の城壁に刺ささる。
ここでエグゼクトロットを引き戻すように意識して。
「こ、これは水……?」
「なるほどな。フウリン、貴様のモンスタースキルをオレに使え」
「え、いいの? こ、こんなやり方で」
フウリンは戸惑いながらも、ヴァルハリーザが溺れないようにする加護を与える。
そして、私が作り上げた水の線の上に乗る。
「では、ハイエルフのニケさん。頼みましたよ」
「ここでハイエルフのスキルをお試しで使うことになるとは思いもしなかったが、面白そうだ!」
ニケの手には、緑の魔方陣。風の精霊の導きをこの場に引き起こした。
次の瞬間、ヴァルハリーザとフウリンは音速で北の魔王城に到達していた。
ヴァルハリーザがフウリンをお姫様抱っこをして、片手に壁を当てている……ように見えたけど、距離が遠めなだけあってハッキリとはわからなかった。
けど、上手くいったのは間違いない。
「戻ってきて、エグゼクトロット!」
私の手元に返ってきたエグゼクトロット。先端がきらりと光る。
『ムグググググッ!』
魔神ムグルルは、私とニケの存在に気がついたようだ。
顔の向きを変えて、威嚇の鳴き声を出していた。
「堕天使ルトラ、魔神が来るぞ」
「わかってます!」
魔力が回復していたので、予定通り魔神ムグルルを北の魔王城から大きく突き放す。
一度エグゼクトロットしまい込み、新たに取り出したのは、風神の和太鼓。
くーるくる。すぐに回す。
私とニケ、それと魔神ムグルルを巻き込む形でワープゾーンを出現させた。
移動先は、北の魔王城から離れた場所であり私自身が一度でも目視しているエリアに限る。
条件に当てはまって好きに暴れることが可能な場所は、現状ではあそこしかない。
「いざ、南エリアにある神殿付近のひろいところへっ!」
ワープすると、殺伐とした原っぱが辺り一面にひろがっていた。
ここなら他のプレイヤーと遭遇する可能性が低めなので、戦闘に巻き込んでしまう心配をあまりしなくても良い。
『ムグググッ?』
「魔神ムグルルを、ここで倒します!」
困惑するムグルルに対して、エグゼクトロットの先端を向けた。
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