北の城に現れた巨大な鳥
北の魔王城まで距離があるということは、少しばかり手が空く。
忘れないうちに、ヴァルハリーザより前線に立つモンスターの作成を行いたいところではあるが、回収した残骸はそんなに数がないので前衛部隊へのリソースは限られている。
爆発で何かが起きている可能性も考慮して、すぐには作成しないことにした。
ヴァルハリーザとフウリンが退屈そうに欠伸をしているが、少しばかり辛抱をしてもらうしかない。
状況は把握できれば、好きなように暴れまわってもらいたいのだが……どうだろうか。
ただ今は待つしかできない。
「ふぅ……」
思ったより私の魔力を消耗している気がするが、腕を動かす限りまだまだ大丈夫そうだ。
解き放った鳥のゴーレムが飛んでから五分ほどが経過したので、北の魔王城らしき建物が見えてきた。
北の魔王城の周辺では、ゴブリンの見た目をしたプレイヤーが多数、城の入り口に張り付いて守っていた。
『ムグググググッ!』
城の入り口にいたのは、緑色の大きな鳥だった。頭に王冠を身につけており、巨大な翼を羽ばたかせてプレイヤーたちを容赦なく吹き飛ばす。
これはシクスオにもいないモンスターだった。
詳細を調べてみると、鳥肌が立った。
魔神ムグルル。
ダイダロの時と同じく、魔神の名が付いていた。
「北の魔王城の周辺が、とても荒れている……」
もし状況が見えない中で前衛部隊を出して、ヴァルハリーザたちを進行させていたとしたら。
魔神の名を持つモンスターは、魔王と呼ばれる役持ちが三人でも全くもって歯が立たなかった。
情報なく対面したら……どうなるかの想像は容易かった。
「モンスターよ、こっちだっ! ぐわーっ!」
「何度やられても、我々は永遠不滅。我らの王を必ずお守り致しますぞ。ぐおーっ!」
ピリコをお守りする部隊が数で応戦するも、魔神の前には虚しく朽ち果てる。
魔神ムグルルが飛ばしてくる羽は鋭く、盾で守りを固めても容易く貫通する。
撤退の二文字が頭にないプレイヤーたちがリスポーンを繰り返して、なんとか耐え忍んでいる様子だった。
リスポーンの速さからして、北の魔王城の中に復活場所があることも読み取れた。
『ムグッ?』
魔神ムグルルが何かに反応をみせた後、風が靡くエフェクトが翼から出現した。
次の瞬間、画面からの映像が途切れてしまった。
「あっ……」
思わす声が出てしまった。
これはやられたとみて間違いない。
偵察用で飛ばしていた鳥のゴーレムが壊されたのだ。
これ以上の情報を得るには、天翔る銀河の創造天使を発動すれば良いのだけど……魔力をちょっと使い過ぎていた。
少し休めば問題ないとはいえ、現状をヴァルハリーザに伝えるのが先にするのがベストか。
ワープをして、待機しているヴァルハリーザとフウリンに、北の魔王城の状況を簡易的に伝えた。
「新たな魔神か。オレの相手ではないなっ!」
強がるヴァルハリーザは、ひとりで北の魔王城へと向かおうとしていた。
「ど、どうするのですか?」
「フウリンは行かないのか。オレだけで十分ってことだろう」
「魔神には……か、勝てなかったんだから。魔王の役持ちが三人集結したとしても」
フウリンは魔神の強さを理解していた。だからこそ、ヴァルハリーザを止めている。
ヴァルハリーザがひとりでいったところで、返り討ちに遭うのは見えている。
でも、ピリコを見捨てるわけにもいかない。
ヴァルハリーザの決心は固い。彼の真顔を見ていればはっきりと分かる。
「まず北の魔王城に入るには、なんとかして魔神ムグルルを動かさないといけないんですよね……あっ、そうだ」
私の手元には、あのアイテムがある。
上手く使えば、北の魔王城と魔神ムグルルを突き放せるかもしれない。
やってみる価値はある。
「北の魔王城へ行きましょう」
私はヴァルハリーザに加勢する意思をみせた。
ひとりでは行かせないのもあるけど、うまくいけばヴァルハリーザとピリコをぶつけさせることが出来るかもしれない。
「し、仕方ないわね。一緒に行けば良いのよね?」
すぐに諦めがついたフウリンも、渋々ついて来る意思を示す。
「フウリンさん、ありがとうございます。それでは北の魔王城へ向かいましょうか」
「と、ところで……北の魔王城へは徒歩でいくのかしら。距離が遠そうに思えますけど」
「それなら心配には及びません。私は堕天使ルトラですからね」
風神の和太鼓を取り出したら、それをぎゅっと握りしめる。
これを使えば、ヴァルハリーザとフウリンの体力を温存しながら、北の魔王城へ行くことが可能だ。
鳥のゴーレムで北の魔王城近辺の地形を一度見たので、風神の和太鼓を回すことによって問題なく移動することが出来る。
但し、問題は残っている魔力だろう。
ワープを一度使うと、暫く上位系の魔法は使えないと予想している。
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