北の魔王城を偵察をするには
「おーい、集め終わったぜ」
ヴァルハリーザの大きな声が聞こえてくる。
空をぼぉーっと眺め続けていた私は、瞬きをして振り向く。
先ほど倒したプレイヤーの死骸で両手が塞がっていたヴァルハリーザとフウリンが、船の上に乗っていた。
「集めた素材アイテムは、あちらの魔方陣の上に置いてください」
私が指示をすると、ヴァルハリーザとフウリンは何のためらいもなく実行する。
素材アイテムを魔方陣の上に置かれると、クラフトルームへと転送される。
ヴァルハリーザとフウリンは何が起こったのか理解できないだろうが、どのみち現状では私がやるしかない。
「私はこれから魔方陣に入って、準備を整えたりします。ヴァルハリーザさんとフウリンさんは指示があるまで船の上での待機でお願いします」
「おう!」
「る、ルトラも気をつけてよね?」
「はい。皆で協力してピリコさんを奪還しましょう!」
「奪還作戦になるのか、面白そうだ」
「ヴァルハリーザ、ガツンとわからせないといけないわよ」
「……では、私は準備に入らせて頂きます」
クラフトルームへと移動した私は、息を吞む。
南のクラフトルームでは、炎の結界が小さな渦となって巻きあがっていて、ピンク色の丸玉がみえていた。
そこで画面をひとつ出す。映り込んでいるのはヴァルハリーザとフウリン。
ピリコ様子が映った画面も出せたらよかったのだけど、それは何故か出来なかった。
ヴァルハリーザとフウリンが進行したら、見えるようになるのかもしれない。
「えっと、まずは……」
手元で使える素材アイテムの一覧表に目を通した。
回収した素材アイテムの数はそれほど多くはなかったが、私がしようとしていることだけに専念するなら十分足りる。
ただ、リソースが限られているので、ヴァルハリーザとフウリンがそれなりに動く必要がありそうだ。
特に今回は雪が積もっているフィールドでの戦闘になるので、体力管理には気を付けてもらわないといけない。
それと、ピリコにはヴァルハリーザをぶつける。
最善手は……偵察用の作成かな。
私は『壊れかけの鳥型模型』という、素材アイテムを取り出す。
ゴブリンのプレイヤーがドロップしていたアイテムのひとつである。
これを上手く使えば、上空から偵察できる。私の直感が鋭く光っていそうだった。
「そういえば、エネミースコア使えるのでしたっけ」
エルトリディスの行動によって、エネミースコアが消費されたことを実感していた。
もしかしたらと思い、シクスオのメニュー画面から行けるショップへとアクセスを試みる。
「これは……便利そう……!」
画面上には、これまでに私がシクスオの世界で入手したであろう素材アイテムの一覧がショップに並んでいた。
レアアイテムでなければ、ここでエネミースコアを消費してアイテムを入手できるようだ。
ちらほらと出てくる、ベータテスト版未実装なアイテムから目を背けながら――。
*
壊れかけの鳥型模型をモンスターとして空に飛ばすには、どうするべきか。
ゾンビのように魂を吹きかける原理を使えば簡単かと思うのはあるけれど、あくまでも目的は偵察。
制御不能で勝手に飛び回るのは良くないということは、モンスターを作成して飛ばすのは向いていないとなる。
「思ったより難しいかもしれない……あっ、これなら」
振り出しに戻りかけたところ、ショップからとあるアイテムの名前を見つけた。
白き磁石のリング。
金属系の素材アイテムである。
「ふたつ、あれば良いかな」
早速だけどエネミースコアを消費して購入した。
そして、素材アイテムを並べる。
壊れかけの鳥型模型ひとつと、白き磁石のリングがふたつ。
春風の杖を構える私は、集中力を高める。
手元は、ほのかに温かさを感じていた。
少々不安だが、やるしかない。
「燃え盛る炎の化身よ、結びたまえ」
魔方陣から飛び出た小さな火の鳥を、並べていた三つの素材アイテムと結び付けて同化させた。
頭の中で思い描いたのは、ゴーレムの応用である。
小さな火の鳥は魔力エネルギーの役割を担う。
壊れかけの鳥型模型が胴体の役割を持ち、二つの白き磁石のリングで起動がずれないようにする。
目標到達点は、ピリコが潜んでいるであろう北の魔王城の周辺までとなる。
その後の墜落は問わない。
港から目標地点まで、やや距離があるのは分かっていた。
それまでに雪が積もって落ちないように、偵察用は炎属性に身を包み込ませた。
「お願いします」
作成した鳥のゴーレムを魔方陣で転送させて、ヴァルハリーザが待機する上空へと飛び立たせた。
偵察用とはいえ、状況を見るのは私である。
クラフトルームの中で新たな画面を開けて、雪の地形を暫し眺めていた。
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