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ヴァルハリーザの船に潜む商人


「エルトリディスさんは、どこにいますか?」


 デッキの上に着陸したら、周囲を見渡した。

 海の上の進行中にエルトリディスの気分が悪いことを確認したら、現実世界に帰るよう促したけど、反省はしない。

 船が北の大陸へ停泊している今なら、こっそりログインしているのではないかと思ったのもある。


 船内をむやみやたらに歩き回るのは良しとしないが、やむを得ない。

 少しでも早く万全な状態でピリコの元へと向かいたいので、風神の和太鼓を手元に出してみた。

 私が西の大陸にあるクラフトルームへと飛び込むのも手ではあった。最終手段でもあるが、これも仕方ない。


「ちょっと待ちなされ」


 上から声がしたので、私は見上げる。

 揺らめく船の真っ黒な旗から、小柄な人型アバターがひとつ落ちてきた。


「ルトラさん、ここはベータテストの真っ最中です。クラフトルーム以外で天翔る銀河の(アンドロメダ)創造天使(クリエイト)を使おうというのなら、ゲームに負荷がかかりすぎて最悪の場合、ルトラさんが消滅しかねませんよ」


 不満気そうな顔つきをみせるのは、エルトリディスだ。

 頬を膨らませていたので、思わず指先でぷにぷにしてしまいそうだった。


「負荷が掛かるってことは、私の固有スキルはハリボテなのかな……」

天翔る銀河の(アンドロメダ)創造天使(クリエイト)の固有スキルは以外は魔界ダンジョンで使用しても問題ないと、先ほどニケから伝達がありましたよ。あとはエグゼクトロットだったかな、あれを最適化させるさせるまではもう少し時間がかかるので待ってとのことです」

「そうだね、武器のことも忘れていました。それはそうと、聞きたいことがあって……」


 ようやく本題を聞けるかと思った矢先、北の魔王城の方角から爆発らしき音が響いてきた。


 それは大地を揺らぐ程の振動が発生して、船が大きく揺れた。

 揺れる、揺れる。

 これは非常に不味い。

 再びエルトリディスが船酔いでもしてしまえば、私が聞きたいことを聞き出せなくなってしまう。


 そう思ったのだが。


「やれやれです。ルトラさんは現在、不測の事態なのでしょう……無条件解禁は使用料、高くつきますよ?」


 エルトリディスはピンク色の魔方陣を展開していた。

 発動しているのは、何の魔方なのかな。


「開かれし南の門よ――」


 魔方陣と桃色の水晶が八つ、新たに出現した。それは私とエルトリディスを取り囲む位置であった。

 桃色の水晶を線で結ぶと、八方形の星になる。

 でも、これ自体は巨大な魔方陣ではない。


「この場の水晶を全部壊すことによって、南のクラフトルームが出現するギミックとなっております。ちなみにですが、ひとつ壊すごとに十万エネミースコアが必要になりますー」

「水晶を壊せば……エネミースコアが必要なのですか?」


「はい。そうでーす!」


 エルトリディスは笑顔からは、腹黒い何かがにじみ出ているのを感じ取った。


 この機に及んで商売とは、なかなかやりおる。

 でも、私がここで拒んで準備を整えなければ、ヴァルハリーザ達は安全に北の魔王城へと進めない。


 (爆発もあったけど、ヴァルハリーザたちはまだ近辺にいるので別の何者かが動いたとみて間違いない)


「手っ取り早く行きます。こんなところで立ち止まったりなんか、しませんので!」


 弓に持ち替えた私は、魔法の矢を放ってひとつずつ割っていく。

 エルトリディスは黙って見守る。


 水晶を割るごとにエネミースコアが大量に失われていくのは、不快感極まりないが、それ相応の何かがあるというのなら、やってみる価値があった。


「これで、全部です……!」


 水晶を全て割り終えた私に待っていたのは、船の中心地に位置するところに現れた大きな魔方陣だった。

 この魔方陣の大きさと質感には見覚えがあった。

 西の隠しダンジョンの仕掛けが解けた際に出てきた魔方陣そっくりである。


「これってもしかして」

「ワープした先は南のクラフトルームですよ。もっとも、現行のバージョンでは関係者及びシクスオのダンジョンマスターしか入ることが出来ませんけど」


 そう言ったエルトリディスは満足したのか、再びログアウトしてしまった。

 その際、細くて白い光が天に登ったのを目撃する。


「エルトリディスさん、ありがとうございます」


 魔界ダンジョンの空に向かって、軽くお辞儀をした。


 クラフトルームに入れば、わざわざ天翔る銀河の(アンドロメダ)創造天使(クリエイト)のスキルを使用しなくても色んなモノが作成できる。


 つまり、ピリコの待っているであろう北の魔王城へ安全に進めれるようになる。


「ヴァルハリーザさん、フウリンさん、周辺の素材を集めてこっちに来てください!」


 船のデッキから声をだして指示をすると、ヴァルハリーザとフウリンは大きく両手を振っていた。


 ピリコ奪還作戦に用いる私たちの拠点地が、ヴァルハリーザの船の上になるとは思いもしなかった。

 それはそうと、エルトリディスは南のクラフトルームが何処にあるのかを知っていた。


 ピリコ奪還作戦実行中の物陰で、謎がひとつ増えていた。

 エルトリディスはニケから聞いたと口にしていたが、彼女自身が運営サイドの者という話は聞いたことがないのである。


お読みいただき、ありがとうございます!

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