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ピリコが抱えているものとは?


 いつまでも続いていきそうな気まずい雰囲気。

 これだからーという言動をするのは、ナシの方向でいきたい。


「私、そろそろ出ます」

「る、ルトラは割り切りが早いですわね……」

「面倒なことになる前に、城を落としたほうが早いので」


 赤き堕天の羽を広げると、高く飛び上がった。


「あーあー。ヴァルハリーザさまのお仲間からすぱいが出てしましましたねー」


 棒読み寄せで口を滑らせる。

 演技は思ったより慣れてないが、やるしかない。


「おっ、配下の一角もそう言ってるぞ。ピリコ、戻ってこい」


 ヴァルハリーザが乗っかってきた。

 それにより、ピリコはごにょごにょと口元を必死に動く仕草をみせた。


「あちらはピリコ様のお仲間ですか」

「そう、だったら良かったナッ……」


 ピリコの瞳から、涙のしずくか一滴ぽろりと落ちた。


 やはりこれは、何かを抱え込んでしまっている。

 こういう時にやるべきことは、えっと……。


「ありがとう。でも……ここから先は、行かせないナッ!」

「ピリコっ?」

「至急、防衛体制を整えなさいナッ。ワタシは城に戻ろう」


 ピリコは、ヴァルハリーザに対して背中を向けた。


「待て。……ピリコーっ!」


 無意識に叫んでいた。


 ピリコが遠くに行ってしまう。

 そのことを恐れていたヴァルハリーザは、必死になって呼び止めようとした。


 左手を懸命に伸ばして。届かない距離になっても掴もうする。

 そんなヴァルハリーザの前に立ちはだかるのは、フードを被ったゴブリンの集団だった。


「王のお戻りだ。命令通り、反逆者を抑えろ!」

「うるせぇ! うおおおおおっ!」


 ヴァルハリーザは覇気を飛ばすと、手早く斧を構えた。


 雑魚敵はヴァルハリーザに任せておいて、私だけでピリコを捕獲……と思った矢先に、ピリコの足元にワープゾーンが出現していた。


 そのままピリコは逃げてしまい、ワープゾーンもあっという間に閉じてしまった。

 ただ、移動したのはピリコのみ。ファーガスはまだ近くにいる。

 サクッと倒しても良さげなのだけど、ピリコの隠し事について何かしらの情報を聞き出したいところではある。


「よし……!」


 私は狙いをつけて、急降下していく。

 着陸地点はファーガスの背後だ。


「すみません。ちょっとお尋ねしたいことがありまして」


 ファーガスの背中に、春風の杖の先端をくっつける。


「おや……堕天使さんではありませんか。なんのことでしょう」

「ピリコさんはどうしてヴァルハリーザさんと距離をとったのですか?」

「それは、そうですね……今から語ろうとしていることが、偽りでないものであることを信じれるのなら」

「はい。私なら問題ありませんよ」

「そうですか」


 気持ちが上の空になっていたファーガスが、息を吞む。


 偽りではない、というのは現実世界のピリコということかな。

 いずれにしても、面倒なことに変わりはない。


「ここでは戦闘の邪魔になるのではないでしょうか」

「あっ、それなら」


 私は空いている片手を、軽く振った。

 魔法の結界を張って、外部からの攻撃と音を遮断する。


「これで問題ないですよね」


「あっ、はい……」


 ファーガスはドン引きしていた。

 いま目の前にいるのは、シクスオのダンジョンマスターのひとりだということは知りもしないだろうけど。


「というか、ピリコさんの近親者の方ですか? ピリコさんに対して、やや態度が違いましたけど」

「よくわかりましたね。……どうして知ろうとしたのですか?」

「倒すだけなら簡単ですよ。でもですね、ピリコさんには迷いが見えたのです」

「北の魔王はそんな簡単にはやられないと思いますけど」

「私の持っているスキル。いくつ見えてますか?」

「いまご確認致します。あっ……」


 ファーガスは察したご様子。

 魔王を遥かに凌ぐ数々の固有スキル。これに加えて、オブスタクルで培った運動能力があることについては流石に隠しておくけど。

 これで、ピリコについて何か喋ってくれると良いけど。


「ここまで詰められるのは、経験が浅はかでした。わたくしの完敗です」

「だーかーらっ! 降伏させるためにやっているわけではないんですよ。私はピリコさんを心配しているのです」

「はは……そうですよね。まずはわたくしと北の魔王の関係性についてですが、親近者で合ってますよ」

「ふむ。それで、ピリコさんが悩んでいたことに心当たりがあるのですか?」

「主な原因は間違いなく家系にあるでしょう。わたくしや北の魔王をはじめとしたものが持っているもの……それは、代々受け継がれている忍者の血筋」

「忍者の血筋……?」


 私は春風の杖を、ファーガスの背中から離した。


「忍者って、あの手裏剣を投げたり?」

「具体的にはお答え出来ませんが、あなた様の想像通りだと思いますよ。忍者って主に情報収集をしていますが、時には暗殺を」

「生々しい話ならちょっとやめてください」

「おや……」

「ここはゲームの世界なので、当然です」


 私は一旦ストップをかけた。

 ベータテストに当選したピリコが、このゲームをやろうと思えている理由って何だろうか。


「ほほ、心配には及びませんよ。忍者がターゲットにするのはあくまでも世界規模のもの。世界規模といっても、有名人をはじめとした表の影響力が大きい存在は駄目です。ターゲットから外します」

「あくまでも、反社会的組織に絞っているということですかね……?」

「左様でございます。最も、暗殺なんてもう五十年以上は行われておりません。世界が平和であることを望んでいますからね。シックス・スターズ・オンラインに入り込んだ……ある存在を除いて」


 ファーガスは、口を堅くする。

 ただ単に正確な情報を把握しきれていないのか、或いは何かに怯えて戸惑っているのか。


「いまはこのくらいにしておきましょう。外が騒がしくなってきました」


 渋めの顔をしていたファーガスは、語ることを中断する決意を固める。


 結界の効果は一定時間で切れる。

 そして、結界が弱まってくると、外部からの音が聞こえ始めるようになっている。



「そうですね。ファーガスさんとまた会うでしょうけど、最後にひとつだけ良いですか?」

「お答えできる範囲であれば」

「ワープしたピリコさんの居場所、わかりますか?」


「彼女は北の魔王です。北の魔王城に息を潜めて、誰かを待っていると思いますよ?」

「わかりました。ありがとうございます」


 結界が丁度なくなって、ヴァルハリーザが戦っている様子がはっきりと目に映るようになった。


「聖なる花吹雪。――激しく散り逝き、大地を燃やし尽くせ」


 詠唱した私は、黙ってこの場を立ち去ろうとしているファーガスを見逃せなかった。


「な、なんだこれは……!」


 ファーガスの身体が、赤く光り始める。


「私、現実世界で忍者の血筋があっても容赦しませんので」

「うわあああああっ!」


 私の目の前で、ピンクの花びらが火の粉のように散った。


 ファーガスはリスポーンして、残骸を残す。

 この残骸を素材として使える……のはひとまず置いといて。


「少しばかり待っていて下さい、ピリコさん。必ず、ヴァルハリーザさんと共にそちらへと出向きます」


 春風の杖がひんやりしているが、まずはヴァルハリーザの援護をしよう。

 ピリコが隠れているであろう北の城を眺めるのは、それからで良い。


お読みいただき、ありがとうございます!

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