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北の大陸への上陸と歓喜の声


「ふ、船酔いですか? その程度の冒険者だったなんて呆れましたわ」

「ピリコさんも魔王なんだけどね」

「そのくらい、会話を聞いていればわかります……」


 ため息をつくフウリンは、無意識に入り込んでいた肩の力を抜く。

 呆れただけかと思ったが、どうやら違うみたい。


 物陰から足音が聞こえる。


「フウリンさん……」

「じ、事情なんて知らない……」


 視線の先には、悪魔の羽を生やした女の子が千鳥足で近づいてきた。

 顔に見覚えはある。


 女の子の口元から血の気を感じたので吸血鬼のように思えたが、どう考えてもエルトリディスだ。


「うっ……こっそり潜入したまではよかったけど、あの揺れは想定外でした……」


 顔色を悪くして、いまにもピリコと同じ運命を辿ろえとしていた。


「エルトリディスさん、ここは一旦ログアウトです」

「と、当然ですよね。無理をなさらず一度休憩をされては……!」

「うっ……南の魔王が聞きつけないこのタイミングで、アレをお伝えしたがったのですが……ログアウトします」


 素直に言うことを聞いたエルトリディスは、ログアウトした。


 早急に伝えたかったこと、何だろう。

 それよりも、船の外に自然と意識が向いていた。


 私はマップデータを広げて、間違いがないか確かめる。

 雪雲が空を覆い尽くしているが、中心地にポッカリと空いた雲の切れ目が円形を成していた。


 そこから日差しが差しこむ銀色世界。

 そう、北の大陸である。



       *



「ふん。着いたか」


 人たがりができた港に堂々とつけると、ヴァルハリーザがピリコと手を繋いで船から降りた。


 私は、フウリンと一緒に船のデッキで見守る。

 一度に全員で降りてしまうと、より気まずい空気が生まれそうだと思ったからだ。


「ピリコ、北の城はどこだ」

「北の城は……あっち、ナッ」


 ピリコが示したのは、雲に円形の切れ目がある方角。


「わかりやすくて手間が省ける。うん、ピリコ?」

「ちょっとヴァルハリーザの背中を貸してほしいナッ」


 ピリコが切ない顔をしながら、ヴァルハリーザに寄り添う。


「ピリコ、どうした?」

「前のひと……」

「前方か」


 ヴァルハリーザは警戒心を強める。


 足音を立てて近づいてくるのは、白いフードを被った男。

 フードの隙間から緑の肌が見えたので、恐らくゴブリンの姿をしたプレイヤーなのだろう。


 巻き添えという形で神殿で襲われた私自身も、あまり良い気にはならない。


「おお、北の魔王様。遂にお戻りになられましたか」


 第一声は、ピリコを歓喜する言葉だった。

 その声を耳にした周囲の者が、一斉にピリコに対して膝をつけて頭を下げた。


「目の前にいるのが、ここのお偉いさんか。貴様は、何者だ?」

「我が名はファーガスです。以後お見知りおきを」


 自己紹介をすると、男は白いフードを取って顔をみせる。

 ファーガス。見た目こそはゴブリンそっくりなのだが、どことなくピリコの目つきに似ていた。


「最初に言っておくが、ピリコはオレの仲間だ。さっさと城に行きたいからその道を開けてくれ」

「お城をみられるのですね。承知しました」

「北の城の見学をしたいわけじゃない。その城を頂きにきた」

「ほう……」


 ヴァルハリーザとファーガスが互いに睨めあう。

 緊迫感が一気に高まり、周囲がざわつきはじめてしまう。


「ヴァルハリーザ、望んでなくて……ナッ」

「ピリコ……?」


 ヴァルハリーザより前に出るピリコは、死んだ魚の目をしていそうだった。


「周囲は静まりたまえ」

「はっ!」


 冷酷なピリコの言葉ひとつで、港に静けさが戻る。


「ピリコ、これはどういうことだ?」

「ピリコ様が言うことは絶対なのです。これが北の魔王としての党活力」


 ファーガスも跪いて、頭を下げた。

 ただ、他の者とは違ってすぐに立ち上がった。 


「北の魔王様。こちらへ」

「言われなくても、わかっているナッ……」

「ピリコ、どういうことだ?」


 ヴァルハリーザから離れていくピリコは、ファーガスの元に一直線に進む。

 ただ無言で、異様な空気感を漂わせて。


「あの、ヴァルハリーザ」


 一定距離歩いたピリコが、振り返る。


「ピリコ……どうした……?」 


「あのね、ごめんだナッ。この地で南の魔王を始末する」


「ピリコ……」


 ヴァルハリーザに対しての、宣戦布告。


 裏切り。若しくはそれ以上の原因となる何かを隠している。

 そうとしか思えなかった。


 ただ、私もまた、船の中で息を潜めるしかできなかった。


「な、何よあれ。ここはゲームなんだからもっとガツンとやりなさいよ、ヴァルハリーザっ!」


 激怒するフウリンが近くにいたことによって、上手く表に出るタイミングを見失っていた。


 これは、しばらく大人しくするしかない。

 念のため、春風の杖を取り出していつでも魔法を使えるように心を落ち着かせる。


 それはそうと、裏切り行為にしては、ちょっぴり不思議だ。

 ピリコが対立の意思を見せたが、大きな動きは発生していない。


 本当は、何がしたいのか迷走しているだけなのでは?

 ピリコの視線が泳いでいてまっすぐにヴァルハリーザを見れてないし、ヴァルハリーザからはため息がどんどん漏れてくる。


お陰様で第五章スタート!!

お読みいただき、ありがとうございます!

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