ハイエルフのニケさん
「あの……ニケさん、アマノハクみたいな声は聞こえましたか?」
「いや、なんにも?」
「そうですか……」
私はその場で愕然とする。
言い訳も通じない。
さっきの声が、亡霊化したアマノハクだったとしたら。
私、どうなってしまうの?
「ルトラさん。比較的短期間での喜怒哀楽な表情に理解に苦しむんだけど、いつまでそこで立っているつもりですか!」
「フウリンさん……すみません」
「べ、別に謝らなくても。それよりも、そちらの方は?」
フウリンは、エルフ耳の女性のことが気になっていた。
「ニケだよ。今となっては分かりづらいかもしれないが、元々はシクスオを管理していた総合責任者だ」
「はい……えっ、ええええええええええええっ!」
フウリンは全身を硬直させる。
驚くのも無理はないが、こんなところで叫ばれては不安を積もらせる者も出てきてしまう。
「どうした、何かあったか!」
「こちらも遅れて着地だナッ!」
ヴァルハリーザとピリコが、高いところから飛び降りてきた。
これで無事にお仲間と合流……って全然良くない気がする。アマノハクについての情報収集が地味にしづらくなった。
「見知らぬ顔のハイエルフか。そいつがどうしたって?」
「ヴァルハリーザ、失礼のないようにですナッ!」
「お二人さん……この方はニケさんですね」
「やぁ。シクスオのゲームを管理していた総合責任者だよ」
にこやかな顔をみせたニケは、指揮棒をさっさとしまい込む。
「ニケだと……そんなはずは……!」
ヴァルハリーザは、その場で両膝を階段につける。
「だがしかし、オレの敵ではないのはたしか。オレがこの世界の魔王だからなっ!」
「ヴァルハリーザ、意地を張るだけは無意味ではないのかナッ?」
「ピリコ、うるさいぞ」
「お二人とも、喧嘩は辞めてくださいね。それよりも、私個人として聞きたいことがあるのですが……」
「ルトラ、どうした?」
「あの……」
私が聞きたいのは、アマノハクについてだ。
出来るだけ、いろんな情報がほしいのだけど。
上手く言葉にできないというか。
アマノハクの何を知ってどうしたいのか。具体的な何かを掴めずにいた。
「ふむ。ルトラ、ついてこい」
ニケは、階段の下に出現している魔方陣に向かって指をさす。
あの魔方陣は、魔神ダイダロが出てきた際に水晶が壊れて起動したものだけど……。
「魔王の役を持つ諸君らは、ここで待機しているように」
「えっと、ニケさんと二人であそこに向かうってことですか?」
「そうだ。別についてきても良いが、さっき発生した戦闘でボロボロだろ? 魔王の役持ちはひとまず休めってことだよ」
「なるほどです。ヴァルハリーザさんたちは、それで良いでしょうか?」
私が問いかけると、ヴァルハリーザとピリコは頷いて納得している素振りをみせる。
一方でフウリンはというと、戦意喪失しているのか……ぐるぐると両目を回していた。
この状況であれば、フウリンからちゃんとした返事が返ってこなくてもよさそうだ。
後のことは、ヴァルハリーザとピリコがきっと見てくれるだろうし。
「それでは行ってきますね」
私はニケと共に、階段を降りていった。
いや、階段を使うより飛んだ方が手っ取り早いか。
ニケの両肩を掴んだら、赤い堕天使の翼を大きく広げた。
「このほうが早いかなって」
「ふむ。新たな固有スキルでも習得したか?」
「変なこと言わないでくださいよ。これが堕天のスキルによる効果なのかわかっていませんけど」
「堕天のスキル、ふむ……それはいつ獲得した?」
「魔界ダンジョンに落ちたらですね。ただ、もともと持っていた他のスキルが消えてしまって」
「消えたのではないな。おそらくだが、封印されている」
「やっぱり、そうですかね……」
「とりあえずだ。そのまま魔方陣の中に飛び込むことにしよう」
「そうですね。落下ダメージとか気にしちゃいますし」
落下しながら位置調整を意識して、魔方陣の真上の位置をキープした。
そのまま魔方陣の上に着地したかと思えば、ほんの一瞬だが視界が暗転した。
「はうっ? えっと……」
地面に足を付けている私は、ニケと共に海底遺跡らしからぬ一室にいたのである。
部屋の中央では、水の結界が小さな渦となって巻きあがっており、その中心部分には黄色い丸玉があった。
「ふむ。無事にワープ出来たな」
「ニケさん。恐れ入りますが、ここはどこでしょうか?」
「西の魔王城の地下に隠された、クラフトルームだよ」
「クラフトルーム、ということは……?」
「ここで操作できるのは西のエリアだけだろう。他のエリアにもそれぞれクラフトルームが存在する」
「他にもあるのですか……」
「そうだ」
ニケにきっぱりと言われた。
シクスオのダンジョンは基本ひとつにつき、クラフトルームがひとつあるのが鉄則だったはずなんだけど。
やはり魔界ダンジョンは規模が大きいだけあってか、複数のクラフトルームが必要だったということなのだろう。
「さて、堕天使ルトラには、ここでやってほしいことがあるのだけど。わかるかな?」
「えっと……なんでしょうか?」
「ああ、すまない。アレを使わないのではなく、現状では使えないんだったな」
ニケは細い指揮棒を取り出すと、私の左手に向かって軽く叩いた。
「その赤い指輪は邪魔だからね。壊させてもらったよ」
「ありがとう……ございます……?」
体が少し軽くなったような。
それだけじゃない。自身のステータスを確認すると、私が持っていた固有スキルが全て戻ってきていた。
「あの……これはもしかして、今から天翔る銀河の創造天使を使えってことですか?」
「その通りだよ。君には少しばかり、お仕事をしてもらいたいんだ」
尖った耳を微動させてクスッと笑うニケは、どことなく私のことを頼りにしていた。
お陰様で第五章スタート!!
お読みいただき、ありがとうございます!
そして先日ですが、本作品の総合ポイントが4桁を超えました。
自分の作品で総合ポイント4桁を超えるのは、小説家になろうに投稿を開始してから初めての出来事です。
本当にありがとうございます!




