隠しダンジョンに現れた魚の頭
それはそうと……こんな至近距離を取って大丈夫なのだろうか?
ヴァルハリーザに向けられた青い魔法陣は展開されたままなので、油断は出来ないが……。
「背中がこそばゆくて、その……あの……!」
口を動かしたフウリンが魔法の詠唱でもするかと思ったのだが、違った。
それどころか、私が困惑しそうだった。
いまの体勢を維持し続けていると、フウリンの頬がジワジワと赤くなりはじめていたのである。
「る、ルトラさんは、ひ……卑怯です……!」
嘆きの声を聴く限り、フウリンを確実に追い込んでいることに間違いなかった。
その裏腹で、打開策を模索しているに違いない。
フウリンの目が一点に集中していた。
少し上の角度。ヴァルハリーザたちが降りてきたであろう階段の裏側。
まだ何もないが、怪しげな気配が漂っていた。
「フウリンさん、どうします? 降参してしまいますか?」
「降参なんて、したくない……まだ……」
フウリンが息を呑んだ瞬間、新たな魔方陣が展開される。
「えっ?」
フウリンは戸惑う。
上方で発動した魔方陣から、大きな魚の頭が三つ出てきた。
転移系の魔法で間違いなさそうだが、フウリンが発動したものではなかった。
ヴァルハリーザやピリコでもない。ということは誰が……?
「みんな伏せるのだナッ!」
ピリコの叫び声と共に、階段に対して大きな衝撃が走った。
「うっ……この攻撃は……?」
瞬きをした私は、さっき出てきた大きな魚の全貌を目の当たりにする。
魚の頭が三つに、まるで海蛇を連想させる大きな胴体。
ベータテスト版にしてはスケールが少し大きすぎるようなモンスターが、空中で尻尾をくねくねさせていた。
「魔神ダイダロ……」
弓を向けた私は、ゲーム内のログから情報が入ってきた。
強さは未知数。まともに戦ってはいけない気がするけど、気のせいにしておく。
「隠しダンジョンにあんなモンスターがいたなんて……知らないわよ!」
大きく息を吐いたフウリンは、やや怒り気味になっていた。
恐らくは、このダンジョンの仕掛けが無茶苦茶にされたからだろう。
魔神ダイダロが出現したことによって、水晶はすべて落下して粉々に砕け散った。
その影響なのか、新たな魔方陣が最下層付近に出現していた。
「オレも初めて見たが、どうする?」
「あんなおっきなモンスターは倒すしかないと思うナァ!」
「そうだろうな、行くぞ!」
ヴァルハリーザとピリコは、攻撃を仕掛ける。
「はああああっ!」
「動きを合わせるネ!」
斧に持ち替えたヴァルハリーザは切りつけ攻撃を行い、ピリコは青い炎を飛ばす。
『ダロロロロロッ!』
魔神ダイダロが声が放つと胴体が動き、青い炎があっけなくかき消されてしまった。
「ちっ、なんて硬さだ!」
ヴァルハリーザの攻撃も、全く効いてない。
「か、加勢するわよ!」
フウリンは、雷のマークが印字されていたハンマーを手に取り出すと、狙いを定める。
「いっけーっい!」
人魚の尻尾を動かして、その場から大きく飛び跳ねる。
魔神ダイダロよりも高い位置に到達すると、そのまま魚の頭を叩き割ろうとした。
だがしかし、魔神ダイダロはびくともしない。
叩きつけたところから稲妻が放たれるも、何の反応も見せない。
「これ……勝てるの? ひゃっ!」
魔神ダイダロが胴体を動かして、フウリンをもといた階段の場所へと叩きつけた。
「いたた……痛いよぉ……」
流石にリスポーンはしなかったが、フウリンが深手を負ったことに間違いなかった。
強い。このモンスターはとても恐ろしい。
魔王の役を持った者が三人いても歯が立たないなんて、とても倒しがいがありそうだし、どんな素材を落とすのか気になってくる。
こんな時の私は、きっと目を輝かせているに違いない。
ところでこれ、本当にテストプレイしたのかな?
そんな時は、私が試しに魔法を撃ちたくなってくる。
お陰様で第五章スタート!!
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