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街道の片隅でのお買い物


 それにしても、フウリンって実際のところ年齢がいくつくらいなのだろうか。

 オンラインゲームで見えないところがあるのは、十分理解しているのだが……。


「た、立ち止まってないでついて来なさいよ!」


 ツンツンした口調だが、内心はやはり恥ずかしがっている。

 フウリンを観察していると、そのように見えてくる。


「お店、どの辺りにありますかね」

「こっちよ!」


 フウリンの後をついていくと、サクラ街道が見えてきた。


「街道の中にあるのですか?」

「違うわよ」


 フウリンはサクラ街道には入らず、足を止めた。

 その後、境目付近で商品棚を広げている茶髪の女の子と目を合わせた。


「こほん。元気にしていたかしら?」

「あれ、フウリンちゃんだ。今日はどうしたの?」

「今は、この連れ用に相応しいと思える武器を求めているだけど」


「はじめまして……」


 私は商人の女の子と目線を合わせた。


「こんにちは。堕天使……ふーん……」


「えっと、どうしたの?」

「後で二人で少しお喋りする時間がほしいかなって。それはそうと、フウリンちゃんのお城の地下にあるギミックは解けたのかな?」

「ぎくっ……」

「進歩はどんな感じです?」

「えっ、その……これから」

「これからですか。先に言っとくけど、フウリンちゃんひとりで、あのギミックを解くことをお勧めしませんよ?」

「何となくわかってるけど、やるかどうかは別でしょ! それに今は連れがいるし」


 フウリンはドヤ顔になって、自信満々に胸を張る。


(実際のところ、フウリンちゃんの連れ扱いされても……)


「ふぅ、お連れさんが困ってますよ」

「そんなっ!」

「まぁ、仕方ないですね。とっておきのを入荷したばかりですので」


 茶髪の女の子は、武器をひとつ手元に出してきた。

 パッと見た感じでは、飛び道具である。機動力はありそうだ。


「これは、弓ですか?」

「そうですね。これを使えば、フウリンちゃんが解きたがっているギミックを解除できると思います」

「それ買うわ」

「お買い上げありがとうございます!」


 フウリンが会計を済ませて、茶髪の女の子はにこやかになる。

 ここでも、シクスオと同じくポイントとアイテムの交換によって、商人の取引が成立するようになっていた。


 私自身、現在ポイントをあまりもっていないので、代わりに買ってくれたのは地味に助かるかもしれない。


「それともう一つお願いできるかしら。ここからだと泳ぐ必要があるので」

「ついでに何か買うのですか?」

「水着ですわ」

「お連れ用ですよね。色とかどうしますか?」


 茶髪の女の子は、カタログらしき画面を出してきた。

 そこには女の子用の水着がいくつも映り込んでいた。


 泳いでいくということは……もしかしたら、西の魔王城へ行くのにフウリンが人魚の能力を使う必要性があるのか。


 着るのはおそらく私である。

 茶髪の女の子がお喋りしたいことあるみたいだし、出来るだけ悩まずに決めてしまいたい。


「赤のしましま模様で、ビキニ? 生地の面積が大きいのもあるから……」


 目で見て、ピンと来たものを私は直感で選ぶことにした。


「試着はどうしますか?」

「それは後にします」

「わかりました。お買い上げありがとうございました」


「いえいえ。それで、私と話したいことっていうのは何でしょうか?」

「すみませんね……フウリンちゃんは、そろそろ隠れたほうが」

「そうね。一応ここは敵の陣地でもあるでしょうし」


 フウリンは、なんの疑問も持たずにこの場を離れていく。

 そして、茶髪の女の子と二人っきりになった。


「さてさて。まずは、迷宮神殿オシリスのダンジョンマスターさんがどうしてこんなところにいるのですかね……」

「えっと、本物ってやっぱり気づいてましたか?」

「わたしのお店で買った服装なんて、見れば一瞬で分かりますよ。もともとわたしが編み出したものですし」


 茶髪の女の子は、私が着ている吊りワンピースに指さした。


「お店? エンジェルマーケットの……」

「パルトラさんでしたっけ、お久しぶりですね。こうして会うのは二回目ですかね」

「二回目……」

「あっ、自己紹介してなかった。商人のエルトリディスと言います。以後お見知りおきを」


「エルトリディスさん……」

「わたしのことは、エルトさんで大丈夫です。というかパルトラさんが本人だって周囲に気づかれるのは、時間の問題だと思うので、しばらくは堕天使ルトラさんって呼びますね」

「えっと、どうぞです。それで本題のお話というのは……」

「ルトラさんが所持しているスキル、堕天についてです」

「堕天……」


 私が持っていたスキルがなくなって、代わりにあったもの。

 ベータテスト版でのゲームバランスを壊さないようにするための処置かと思ったのだが、エルトリディスがさえない顔になっているので、実はそうではないのかも?


「このベータテスト版でのゲームクリア条件というものが設定されていて、そのひとつがスキル堕天を覚醒させることにあるの」

「スキルの覚醒ですか」

「おそらくはスキルを正規の手段で発動させて、という感じでしょう。ゲームクリア条件を満たすと、シクスオと魔界ダンジョンが繋がることになるけど」

「えっと、クリア条件を満たすとシクスオの世界に戻れるのですね。少し安心しました」


「安心するのは早い気がするけど」

「そうですね、ベータテスト版でもやることが多いです」

「まずは弓を使って、フウリンちゃんに手を貸すことですね。その後は知りませんけど」


 エルトリディスがほのかに笑うと、背中から寒気が走った気がした。

 とりあえず、フウリンの元へと向かおう。


「いろんな情報ありがとうございました」


「ルトラさん、頑張ってくださいね!」


 エルトリディスが手を振って見送る。

 真顔で歩く私は、四つの魔王のことを頭の片隅に置きながら、堕天使の赤い翼を大きく広げた。


お陰様で第五章スタート!!

お読みいただき、ありがとうございます!

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