西の魔王と二人っきり
「――というか、ここってどこ? あなたは誰なの?」
「私は堕天使パルトラです。そしてここは、南の魔王が管理する大陸だと思います」
「そう……ちょっと頭を冷やしてくる……」
ひとりで反省したいらしくて、フウリンが一度ログアウトを挟む。
私はログアウト出来ない身なので、おとなしくメニュー画面を開いた。
運営からのお知らせがあるか、確かめておきたい。
「えっと……」
あった、見つけた。
魔界ダンジョンのベータテスト、ご案内について。
この度はシックス・スターズ・オンライン、魔界編のベータテストにご参加頂き誠にありがとうございます。
本バージョンでは、様々な新要素を加えております。
魔物型のアバター実装!
基本スキルのゲーム性を改良して、より遊びやすくなりました。
更には魔王と呼ばれる存在も……魔界ダンジョンは皆で協力して発展していくかも?
終了時期は未定ですが、最長で半年程度にも及びます。
そのため、ベータテスト終了告知及びバージョン稼働時期は、必要なテストをすべて終えた時点で案内させて頂きます。
「大きな見出しは三つで、詳しい詳細は……」
そこまでは分からなかったが、運営がやりたいことは何となく見えてきた。
ひとつの巨大なダンジョンの発展に、たくさんのユーザーを巻き込みたいってこと。
シクスオのダンジョンマスターとは、コンセプトが少し違う。
これはこれで、楽しくなりそうだけど。
「どうして、私が堕天使になってまで、ここにいるのか。それが分からないです」
空を見上げると、小雨が降ってくる。
まるで水しぶきのように細かい粒は、私の肌を潤すことなく地面に落ちていった。
「ただいま戻りました」
フウリンがログインしてきた。
どうやら反省は終わった様子だった。
「落ち着きましたか?」
「ええ、すっかり。……で」
フウリンは、しかめっ面で私を睨んでくる。
「あなたも、例の船に乗っていたということで間違いないよね?」
「例の……確かにそうですけど」
気づかずに魔王同士の戦いになっていたとはいえ、今更ながら否定するわけにもいかない。
「武器を出してみなさい」
「私の武器ですか?」
「そうよ」
「では……」
持っている武器である杖を手元に出すと、フウリンはそれを観察し始めた。
「ふーん、魔法タイプなのか。もっと機動力を活かした武器を持っていると思ったんだけど」
「機動力ですか?」
(エグゼクトロットが使えるのなら、投げとか出来たんだけどね。今は……)
システム上で、できないことはひとまず割り切るしかない。
ベータテスト故の制限かもしれないし。その辺りはアマノハクに問い詰めないといけないけど。
「あなた、名前は?」
「パルトラです。あの、堕天というスキルのことをご存知ですか……?」
「堕天……? ちょっとレアスキル判別で調べても良いわね」
「はい。お願いします」
フウリンがレアスキル判別を持っていたので、ここで他者の目で見てもらうことになった。
「見た感じ通常のスキルのようだけど、こんなスキル、これまでに聞いたことがないわ」
「そうですか……」
私に付いていたスキルは、西の魔王も知らなかった。
ただ、ひとつ分かったことは、堕天というスキルはレアスキルではないことだ。
それだけで私の心は開放的に……いや……なんとなくだけど、本当は違うかもしれない。
敢えてレアスキルにしていないだけという説が、頭の中を横切った。
これもアマノハクに問いかける他ないと思われる。
「ところで。パルトラって名前、どこかで聞いたことがあるような」
「き、気のせいですよ。それよりも機動力がほしいって言ってませんでしたっけ。今から機動力のありそうな武器を探しに行きませんか?」
「行くってどこによ」
「えっと、サクラ街道ですかね……って、フウリンさんが先に行くのですか」
「さ、サクラ街道なら泳いで何度か行ったことあるし、良いものを取り扱っている武器屋くらいなら知ってるわよ!」
フウリンが動くと、ずるずると砂の音が鳴る。
ひとまず、杖以外の武器を手に取る良い機会になりそうではある。
店までフウリンが道案内してくれる様子なので、とてもありがたいと思いたい。
お陰様で第五章スタート!!
お読みいただき、ありがとうございます!




