西の大陸への上陸を試みる
魔界ダンジョンには、四つの大陸が存在している。
それぞれの大陸に魔王が存在しており、魔王同士が争うことにより、完全なる魔王城が誕生する。
今回のベータテストのコンセプトは、ざっくりいうとこんな感じなんだろう。
詳しいことは、いずれアマノハクから聞き出すとして。
私たちが乗っている立派な船は、西の大陸へと確実に近づいていた。
「うん? なんだか、雲が現れてきて」
「舵切りしろ! 雷に打たれたらリスポーンするかもしれないぞ!」
ザザッ――。
ヴァルハリーザが指示を出した途端に、強い雨が降ってきた。
それだけじゃない。
目的地の大陸へ近づくにつれて、雷鳴が轟く。
「流石は稲妻の固有スキルを所持している魔王ということなだけはあるナッ!」
「ピリコさん、感心している場合ではない気がしますが……」
「それもそうだナッ。海面には敵がようさんおるから、注意しないとネ」
「海面ですか?」
ピリコと一緒に海の上に目線を向けると、そこには人魚の形をしたアバターが何体も押し寄せてきていた。
もしかしたら、私たちが乗っている船を倒そうとしているのか。
仮に落ちたとしたら、一方的に攻撃されて皆がリスポーンしてしまうかもしれない。
「ヴァルハリーザさん、どうしますか!」
「くっ、我が魔王の船は大きなサイズだからそう簡単に倒れないのだが……。気象が荒くなったのもあって制御が効かなくなったか」
「打開策とか、なにかありませんか?」
「そんなものはない!」
(ヴァルハリーザにきっぱり言われた……!)
このままではいけない。
私は慌てて、手持ちのアイテムを確認し始めた。
「乗客員は出来るだけ高い所へ行って! ……流石にマズイかもだネ」
「このまま大陸まで突っ込めないか?」
「無理だネ、不可能だと思うナッ!」
「くそう。ここはどうすればっ」
ピリコは焦りを覚えていた。
ヴァルハリーザも、判断を間違えているかもしれない。
でも、どうしてだろう。
私だけが、何か打破する状況を生み出せそうな気がして。
――ひとまず冷静に、状況を把握する。
荒れた天候。降り注ぐ雨。
赤い海の上で、船が沈みかけている。
原因は人魚の襲撃。
予想だと、西の魔王に仕える手先によるもの。
そして、私の手元に使えそうなアイテムはいくつかある。
使用不可能になっていなかった、風神の和太鼓。
ただ、風神の和太鼓は私が一度訪れた地点でないといけない。
ヴァルハリーザとピリコくらいは連れて帰れるけど、船を置いて南の大陸へ戻ることになる。
そうなれば、ヴァルハリーザの目的を果たすのは難しくなるだろう。
だから、この手は使えない。
だがしかし、使い方次第でどうとでもなる。
「ヴァルハリーザさん、ピリコさん、何とかして西の大陸へ上陸してください」
私は、悪魔のような赤い翼を広げる。
船が沈む前に、何とかしないといけないから。
「おい、お前。何をしようとしているんだ?」
「ちっと待ってナッ!」
「駄目です、私でないと……!」
自らの意思で船から身を放り出して、風神の和太鼓を右手に取り出した。
狙うは、海面にいる人魚のアバターだ。
出来るだけ、群れの中心となって動いていそうな者を狙う。
「いでよ、風神の和太鼓!」
私は魔方陣を海面上に展開する。
出来るだけ大きく、たくさんの人魚を巻き込んでいき――。
転送先は、南の大陸にする。
魔界ダンジョンの中では、私がそこしか行ったことがないのが大きいかもしれないけど、こんなところでヴァルハリーザがリスポーンするくらいなら。
私が二人の助け船になってあげたい。
「おーい、待ってくえれええええ!」
ヴァルハリーザの声が途切れて、私は風神の和太鼓で飛んだ。
ワープ先は、殺伐とした原っぱである。
「ふぅ、あれだけの人魚のアバターを運んだら……あれっ?」
私の目の前には、頭を抱えている幼そうな青髪の人魚がひとりだけいた。
「どうして、どうして上手くいかないのっ!」
「あの、どちら様でしょうか……?」
「あたくしはフウリン。西の魔王よ!」
「えっと、西の魔王?」
この子がヴァルハリーザやピリコと同じ立場の者なのか……。
「どうして……雷鳴魔法に幻覚魔法、雨まで降らせて難航狙いにしたあたくしの防壁は、完璧だったはずなのにっ!」
「それは、なんかすみませんでした」
「複雑な状況になった気がするけど、決して煽らないでっ!」
フウリンは頬を膨らませて悔しがっていた。
今のところ、私に対して敵対しそうな意思は見受けられない。
暫くこの場で待機になりそうだ。
お陰様で第五章スタート!!
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