アマノハクの戦術
アマノハク。
彼女はクレイキューブの地下迷宮、地下第十四階層を攻略中のソロプレイヤー。
見た目のアバターは金髪の頭で、白と紺が混じるメイドロリータなファッションを着こなしている。
「みゅー?」
ダンジョン内の通路に配置しているダークスライムから猛烈な攻撃を受けると、アバターがふっと消える。
その後、隙を見計らい、青い星の柄が入った短剣で器用に一刀両断していく。
「ふふん。拙者には効かないのです!」
クラフトルームで戦闘の様子を見守る私は、思わず息を吞む。
戦い方は実にトリッキーであった。
しかも胸が大きい。
「パルトラさんは相変わらず熱心なのね。彼女の能力、女神でも観測しきれないところがあるというのに」
「ネフティマちゃんでも把握出来ないことあるの?」
「正しくは、隠されているというべきか……」
ネフティマは少しばかり不信に感じていた。
言われてみれば、そうかも。
そろそろ地下十四階層も突破されてしまいそうだが、戦闘での立ち回りがとても上手いわけではない。
幻影がなければすぐにリスポーンしてそうなくらいには、ちゃんと攻撃を避けていない。
だけど、かなり余裕そうな表情を出していた。
幻影スキルのゴリ押しでも、自信に満ちているのは妙である。
「あとちょっとかな?」
地下十四階層の構造は敢えて一方道にしており、これといったギミックも配置していない。
シンプルにモンスターを倒して進める者だけが、私と戦うことが出来るように設計してある為だ。
「ネフティマちゃん、行くね!」
「気を付けて」
「わかっていますよ」
私は風神の和太鼓をクルクル回すと、クレイキューブの地下迷宮の最深部へワープした。
そこで、アマノハクと顔を合わせる。
「みゅー。ここがダンジョンの終着点でしょうか?」
「ようこそ。私は、クレイキューブの地下迷宮のダンジョンマスターのパルトラです」
「パルトラさんだ。初めまして、アマノハクです」
「アマノハクさん……よろしくお願いしますね」
私はエグゼクトロットを取り出して、構えた。
「ジェイラさんに聞きましたよ。」
「私が四つの固有スキルを所持していることは、ごく一部の近隣プレイヤーしか把握していないはずなんですけど……?」
「みゅー? 知ってるも何も、ジェイラさんと旧知のお友達なんですよ? 元スペードと言えば通じるでしょうか」
「アマノハクさんが、元スペードの……?」
「そうですよ。本日はパルトラさんを倒しに来たのです」
髪に付いていた黒いスペードのアクセサリーを、そっと触ったアマノハク。
私は、遠慮はいらないと判断した。
「いでよ、光の雷鳴――。無数の流星となりて、降り注ぐ」
「みゅーっ、詠唱ですか? させませんよ!」
戸惑いの表情を出すアマノハクは、私のいる方向に対して真っ直ぐに走り出す。
だが、私の魔法は詠唱速度が速いものばかり。
私の元へと到達する前に、光の隕石が降り注ぎ始めた。
「みゅーっと、これしきっ!」
アマノハクは、隕石に何度も当たった。
だが、当たる度に白い蝶のエフェクトが散乱して、また近くの場所にアバターが出現していった。
私との距離を詰めながら、隕石をよけきったのだ。
避きったとはいえるのは微妙なところだけど。
とにかくノーダメージということだけを理解した。
「みゅー。次は、こちらの番ですよ!」
アマノハクからの短剣の攻撃。
こちらも残像が混じっているのか、蝶のエフェクトが無駄に散乱する。
でも、短剣の振りはそこまで早くない。
本物が攻撃が来ようとも、余裕をもってエグゼクトロットで防げた。
「炎の球体!」
「みゅ!」
慌てたアマノハクは、私と少し距離をとる。
「そこです!」
私はエグゼクトロットを投げた。
狙いはアマノハクの胸元だ。
「みゅ!?」
一瞬、冷や汗をかいたアマノハクは、私の攻撃をなんとか避けた様子だった。
避けたといっても、アバターそのものには当たっているのだけどね。
「今度は、こちらからなのです!」
私の背後から、アマノハクの声が聞こえてきた。
だがしかし、私にはエグゼクトロットがある。
遠くへ飛んでいくエグゼクトロットを水に変化させて、右手で取るように操る。
エグゼクトロットを掴む際には、自分の身体より背中付近になるよう位置取りをしておいた。
「みゅ……」
アマノハクの動きが止まる。
「ふふっ」
「うー、みゅー」
アマノハクの身体には、エグゼクトロットが突き刺さっていた。
アバターの出現位置と、戻ってきたエグゼクトロットの位置を重ねたのだ。
「みゅーっ……負けました。お見事です……」
「えっと、どういたしまして」
「ほんとパルトラさんが強くて参りました。でもですね、本当の目的は果たせそうなのです!」
「アマノハクさんの、真の目的ですか?」
「そう、それはですね……スキル発動なのです。置き土産なのです!」
その言葉を言った直後、アマノハクはリスポーンしてしまった。
そして、ドロップアイテムの赤き祈りの指輪が出現する。
それが私の左手の人差し指に入り込むと、足元に黒い魔方陣が展開された。
あれっ、これって何処かにワープする?
とにかく、なんとかしないと。
私は足を動かそうとした。
その時だった。
突然、グサッと全身に痛みが走って。
「きゃあああっ――!」
私は大きな悲鳴を上げた。
†
観測、スキル『厄災の贈り物』ね。
スキル所持者自身のリスポーン判定発生時、対戦相手に任意の指輪系アイテムを付与させるもの。
解除方法は、わからない。
シクスオ開発チームに入っていた元スペードのアマノハクは、いったい何を企んでいる?
ただ、はっきりしているのは、パルトラがクレイキューブの地下迷宮にいないことくらいだ。
†
気がつくと、私は落ちていた。
雲ひとつない青い空から。
「ここ……どこ……?」
私の意識は相当薄れている。
それでも、視覚で捉えることの出来るものがあった。
「あれ……は……」
私が落ちていく先には、真っ赤な海が広がっている。
何かの建物かな? 足場も薄っすらも見えていた。
だがしかし、このまま行けば間違いなく私はリスポーンするだろう。
この場所がどこかわからないまま、最寄りのリスポーン地点へ転送される。
そう思っても仕方ないか。
落下ダメージってどのくらいだろうか。
背中の天使の羽は、よく見えないからどうなっている?
アマノハクは、どうなった?
気になることは、ちらほらとあるけど。
さて、時間である。
落下によりXXダメージ、パルトラがリスポーンしました――。
(モンスターによって倒された判定ではない為、ペナルティは発生しません)
少しばかり、心を休めよう。
お読みいただき、ありがとうございます!
本作を読んでくださる方が多くいましたので、新シナリオとなる第五章を書いていこうと思います。
何卒よろしくお願いします!




