ネクロベアを倒そう
『グガーッ!』
レーザーが直撃したネクロベアは、足を少しずつ前進させてくる。
光属性の銃攻撃なのでかなり効いているはずだが、進化したレアモンスターだけあってかなりのタフさを実感する。
「攻撃、合わせていくよ」
キラリが鎌を振り回して、ネクロベアの体に傷をつける。
『ググッ!』
ネクロベアがこらえるも、傷口からは黒い炎が無作為に飛び散っていく。
「ちゃんと効いているのかな?」
「パルトラさん、それは大丈夫だと思いたい」
僕は銃弾を何発か打ち込んでみる。
狙いはネクロベアの両足だ。
「ルルも……やる……」
ルルナが魔方陣を展開すると、青白い球体がふわっと現れた。
それがネクロベアに近づいていくと、電撃が解き放たれた。
「おお、やりますね」
距離をとったキラリが感心する。
ルルナが使う詠唱いらずの魔法は、どことなく独特な雰囲気がある。
『グガーーッ!』
ネクロベアが倒れ込むと、土煙が上がる。
「やったか!?」
「ジェイラさん、緑の光が見えました……。倒された精霊みたいに再生状態に入ったのかな?」
「再生状態……? それなら大丈夫だよ」
僕は右手にアメジストを掲げる。
月光の効果によって、再生状態を断ち切る。
これで終わりだ。
「とどめです!」
パルトラがエグゼクトロットを投げると、その先端がネクロベアに突き刺さる。
すると、ネクロベアが倒されたメッセージがログに流れた。
「ふっ……お疲れ様です」
パルトラの顔がほぐれる。
地面には、暗黒の木切れが落ちていた。
「これで目的のアイテムを回収が終わりますね……あれっ?」
「パルトラさん、どうした?」
「その、ひとがいます……」
暗黒の細切れを拾おうとしたパルトラの手が止まっていた。
「ひとが、倒れているのか……?」
「そうですね……強いて言えば、ネクロベアがドロップしていった感じなのかも?」
「状況がいまいちつかめないが……」
土煙が消えていくと、それはハッキリと分かった。
マゼンタ色のリボンがついた帽子をかぶり、シクスオのどこかで見覚えのある制服を着た銀髪の女の子が、仰向けになって目を閉じていた。
「この服、クローニア学園のものだね」
「知っているのか?」
「うーん、私には見覚えがないです。……この子、目を覚まさないね」
「そうだな……」
ゲームシステム上でリスポーン待機中という文字を確認できないので、少なくとも意識があるはず。
「ここは使ってみるか。ノア、ちょっと借りる」
僕はノアのスキルが詰まっているスキル玉を飲み込んだ。
これによって、僕は一時的にシクスオで回復魔法が使用可能となる。
「癒しの力よ。起きてくれ……」
回復魔法を唱えると、緑の球体が銀髪の女の子に包み込む。
「……うん? おとー?」
「目が覚めてよかった。ぐっ!」
あっ、これは不味い。
ノアのスキルには、デメリット効果がある。
「ジョーカーのお兄さん、どうしちゃったの?」
「ジェイラさん!」
「みんな、僕から離れて……」
吸血衝動って、こんなにも急激に来るのか。
目の前の光景が赤色に染まって、人間の血を求めて体が動こうとする。
「その……。落ち……着いて……」
体が急に軽くなった。
ルルナが飲ませてきたのは、赤色の液体が入った瓶だ。
「これは……?」
「たまたま……持っていたから……」
「偶然? まぁ、ありがとう。助かった」
「お礼は……いらない……」
ルルナが少し不機嫌そうにしながら立ち上がると、ひとりこの場から離れていく。
「まぁ、少し待って」
「うん……?」
ルルナが足を止めると、僕のほうに振り向いてきた。
「いまから確認していくんだけど、ルルナもいてほしいんだ」
「それなら……わかった……」
ひとまず、ルルナは待ってくれる様子。
それを確かめた僕は、目を覚ました銀髪の女の子と顔を合わせる。
「えっとまずは、名前って何かな?」
「アタイは、メイカです」
「メイカ……さん。さっきのレアモンスターを操っていたのは、君なのか?」
「わかりません。というか、貴方たちは誰なの?」
胸を張る銀髪の女の子は、何だか状況をよく読み込めていないみたいで、目がやや泳いでいる。
「僕はジェイラ。紫の髪の方がキラリで、天使の羽があるのがパルトラさん。そして一番遠いところにいるのがルルナ」
「ふむふむ」
「もう……大丈夫……?」
「うん。ルルナさん、ごめんね」
「ログアウト……それじゃあ……」
「またね。ルルナさん」
「むむぅ……」
不満気そうな顔つきをみせたルルナが、ログアウトした。
次に会うとき、ふたりの精霊魔導士は敵か味方か。
ますます分からなくなってきたかもしれない。
「ひとまず私のダンジョンに帰るとして、その方はどうしますか?」
「僕としては、一度ニケに相談してみるよ。レアモンスターから女の子がドロップするなんて想定していなかったし」
「それっぽくみえて、実はたまたまなんてことが……」
キラリが喋っている間に、新たなログが入りこんだ。
『イレギュラードロップ、メイカを獲得しました』
この一文を読んだだけで、僕たちは言葉を失った。
イレギュラードロップって何だ……!?
今回もお読みいただき、ありがとうございます。




